権利関係

【宅建民法を攻略】嘘つきが契約すると?~ 心裡留保・虚偽表示・錯誤 ~

投稿日:2019年3月12日 更新日:

この記事では《 心裡留保・虚偽表示・錯誤 》を解説します。それぞれ法律効果はどうなるのか。基本から応用まで詳しく見ていきましょう。

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心裡留保~冗談で契約しても有効になるの?~

心裡留保ってなに?

心裡留保とは、わかっていながら嘘をつくこと。つまりは冗談のことです。

もっと具体的に言うと、「意思表示の表意者が表示行為に対応する真意(本当の気持ち)のないことを知りながらする単独の意思表示」を指します。

例えば、本当は売るつもりなんかないのに「売りますよ!」と意思表示するような場合ですね。

心裡留保なら契約は有効?

原則:契約は有効
例外:相手方が悪意・有過失なら無効

心裡留保で交わされた売買契約は、原則として有効となります。
民法としては、冗談を言って契約した表意者を守る義理はないわけです。

ただし、例外があります。
それは、契約の相手方が、冗談を言った者の真意を実は知っていたり、または知ることができたりしたとき。

つまり、相手方が悪意・有過失だった場合、契約は無効となるのです(民法93条)。

心裡留保

心裡留保

《用語の意味》
表意者…意思表示をした者をいいます。
善意…ある事実を知らないこと。
悪意…ある事実を知っていること。

 

虚偽表示~財産隠しの目的で売ったことにしておくのは無効?~

虚偽表示ってなに?

虚偽表示とは、お互いわかっていながら嘘をつくこと。つまり、「表意者が相手方と通謀(結託)して行った、真意と異なる意思表示」を指します。

例えば、借金取りに追われている表意者が、自分の土地を借金取りに持っていかれるのを防ぐために、相手方に当たる知人にお願いして、その土地を売ったことにしておくなどです。もちろん、犯罪です。

当然、こうした虚偽表示による意思表示は無効となります。

虚偽表示

虚偽表示

 

虚偽表示の後に第三者が取引関係に入ってきたら?

答え:第三者の契約は有効

虚偽表示で当事者間の契約が無効となった場合、取引関係にあった第三者の契約はどうなるのでしょうか。

民法では、虚偽表示の表意者は善意の第三者に対抗できないとして、虚偽の外形を信頼して取引関係に入った第三者を保護する規定を設けています。(取引の安全)

この場合、第三者は善意であればよく、無過失であることも登記を備えている必要もありません。

宅建試験的にもポイントになりますので、よく押さえておきましょう。

第三者ってどんな人?

ここでいう第三者とは、「虚偽の意思表示の当事者またはその一般承継人以外の者」であり、「その表示の目的につき法律上利害関係を有するに至った者」を指します。

では、具体的にどのような者が第三者に当たるのでしょうか。

 

第三者にあたる具体例

① 譲受人

  • 二重譲渡における譲受人相互間
  • 被相続人が不動産を贈与したが、その旨の登記がなされていなかった場合に、その相続人からその不動産を買い受けた者
  • 地上権設定登記がされたと地上の建物を地上権とともに譲り受けた者は、地上権登記がなければ土地の譲受人に地上権を対抗できない。ただし、建物所有を目的とする地上権者は、と地上に登記ある建物を所有すれば地上権を第三者に対抗できる(借地借家法10条1項)。

② 差押債権者

不動産につき寄贈による移転登記がなされない間に、共同相続人の1人に対する強制執行として、その持分を差押えた者。

③ 賃借人

他人に賃貸中の土地を譲り受けた者は、所有権移転登記を経由しなければ賃借人に所有権を対抗しえず、賃貸人たる地位を取得したことも主張できない。すなわち、賃料請求・賃借人の債務不履行に基づく解除権行使・賃貸借終了に基づく明渡請求をすることができない。

④ 共有者

不動産の共有者の1人が自己の持分を譲渡した場合の、他の共有者。

⑤ 背信的悪意者からの転得者

不動産の二重譲渡において、第二買主たる背信的悪意者から当該不動産を譲り受け、登記も具備した者(転得者)は、自分自身が第一買主に対する関係で背信的悪意者と評価されない限り、その不動産の取得を第一買主に対抗することができる。

 

仮装譲渡で考える第三者

虚偽表示に関連して、仮装譲渡(虚偽表示による譲渡)を例に、第三者についてもう少し理解を深めていきましょう。

例えば、事情を知らずに、仮装譲渡(虚偽表示による譲渡のこと)された土地を買った人やその転得者(第三者から目的物を取得した者)、その土地に抵当権の設定を受けた人が善意の第三者の典型と言えます。

それに対して、仮装譲渡された土地上に建てられた建物の賃借人は、独立した利益がなく、第三者ではありません。

また、仮装譲渡の譲受人に対して単に債権をもっているだけの一般債権者は、新たな関係を作ったわけではないため、こちらも第三者ではありません。しかし、その債権者が仮装譲渡された目的物を差し押さえると第三者になります。

誰が第三者と言えるのか。よくよく注意が必要です。

転得者の契約も有効?

答え:善意でも悪意でも有効

虚偽表示による契約の無効は、第三者から善意で目的物を取得した者(転得者)に対しても対抗することができません

一度、善意の第三者が現れた場合には、その後に目的物を取得した転得者について、転得者の善意・悪意を問わず、虚偽表示による契約を無効にできないのです。

虚偽表示の無効と第三者の保護

虚偽表示の無効と第三者の保護

 

錯誤~不注意で契約金額を間違えた場合は?~

錯誤ってなに?

錯誤とは、いわゆる勘違いのこと。

「表示に対応する意思がなく、しかも意思がないことにつき表意者の認識が欠けていること」をいいます。

例えば、乙地を売るつもりで契約書にサインしたつもりが、甲地の売買契約書にサインしてしまったよ…というような場合です。

錯誤で契約するとどうなるの?

答え:重過失がなければ取り消せる

錯誤で契約した場合、表意者に重大な過失(重過失)がなかった場合には、契約を取り消すことができます

無効ではありませんので気を付けてください。今年の民法改正で、無効から取り消しに変更されました。ですから、取り消しを主張できるのは、誤解をしていた表意者のみとなります。

 

動機に錯誤があった場合も無効?

ところで、契約の内容そのものではなく、契約しようと思った理由について錯誤があった場合にも同じような結論となるのでしょうか?

例えば、「鉄道が開通して地価が上がるという噂を信じて、価値の低い土地を高額で買い受けたが、噂は事実無根であった場合」などのような場合です。

このような錯誤を《動機の錯誤》といいます。

動機の錯誤の場合には、原則として、契約の取り消しを主張することはできません。

ただし、事前に相手方に動機が表示されていた場合(黙示的な表示も含みます)には、取り消しを主張することがでます。

例えば、「鉄道が開通して地価が上がる可能性があるので購入します」と、きちんと売主に話していたような場合が、動機が表示された場合となります。

 

過去問を解いてみよう!

【問1】
AがBに甲土地を売却した場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。(2018年度)

1 甲土地につき売買代金の支払と登記の移転がなされた後、第三者の詐欺を理由に売買契約が取り消された場合、原状回復のため、BはAに登記を移転する義務を、AはBに代金を返還する義務を負い、各義務は同時履行の関係となる。

2 Aが甲土地を売却した意思表示に錯誤があったとしても、Aに重大な過失があって無効を主張することができない場合は、BもAの錯誤を理由として無効を主張することはできない。

3 AB間の売買契約が仮装譲渡であり、その後BがCに甲土地を転売した場合、Cが仮装譲渡の事実を知らなければ、Aは、Cに虚偽表示による無効を対抗することができない。

4 Aが第三者の詐欺によってBに甲土地を売却し、その後BがDに甲土地を転売した場合、Bが第三者の詐欺の事実を知らなかったとしても、Dが第三者の詐欺の事実を知っていれば、Aは詐欺を理由にAB間の売買契約を取り消すことができる。

 

【解説】
正解:4

1 〇
取消しの意思表示がされると、いったん有効に成立した契約は契約締結時点に遡って初めから無効であったものとして扱われ、当事者双方には、履行されたものがあれば、その返還義務が生じます(民法121条)。

そして、当事者双方の返還義務は同時履行の関係となります(最判昭和47年9月7日)。したがって、BはAに登記を移転する義務を、AはBに代金を返還する義務を負い、各義務は同時履行の関係となります。

2 〇
錯誤について表意者に重大な過失があり、表意者自ら無効を主張できない場合は、相手方および第三者も無効を主張できません(最判昭和40年6月4日)。

したがって、BもAの錯誤を理由として無効を主張することはできません。

3 〇
相手方と通じてした虚偽の意思表示(通謀虚偽表示)は無効です。しかし、この無効は善意の第三者には対抗することができません(民法94条)。

したがって、Cが仮装譲渡の事実を知らなければ、Aは、Cに虚偽表示による無効を対抗することができません。

4 ×
相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができます(民法96条2項)。したがって、Aは善意のBに対して取消しを主張できません。

本問の場合、善意の相手方BからさらにDに転売され、Dが詐欺の事実を知っているので取消の主張ができるのではないかが問題となります。この点、通説的な見解は、転得者は前主の地位を承継することができ、善意の者からの転得者は悪意でも保護されるとします(絶対的構成)。法律関係を早期に安定させるべきだからです。したがって、Aは詐欺を理由にAB間の売買契約を取り消すことができません。

 

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さて、「心裡留保・虚偽表示・錯誤」について見てきましたが、いかがでしたか。民法改正で変わったポイントもあり、宅建試験的にも重要な単元ですので、出題されたらぜひ得点していきたいところです。

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