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この記事で学べること
物権って実は深い?
宅建試験で避けて通れない「民法」のルーツは、近代革命にさかのぼります。もちろん、その頃にポッと沸いて出てきたわけではなく、ローマ法やゲルマン法の編纂、我が国では、それらを踏まえて江戸時代よりも前から伝わる商慣習や藩の法度などを加味しつつ、現代の民法が出来上がっています。
ただ、ベースは、中世における封建制・身分制社会からの脱却と、自由と平等、資本主義の実現という近代思想をその基礎にしています。
(なお、気軽にブログしているので、このあたりの記述は私の記憶だけに頼っております。もし間違えがあった場合は後ほど修正します。)
近代法を現す有名な法原理として、城の法理castle rule たしか、エドワード・クックという英国の法律家が主張したもの。
「雨も風も吹きすさぶボロボロの家屋であっても、その所有者の同意がなければ、国王は一歩たりとも立ち入ることはできない」
といった趣旨の内容だったかと思います。これは、刑事法の分野では、捜索・押収に係る合衆国憲法第四修正や、我が国の憲法35条にいう、プライバシーの保障を考える上での大切な指針となります。
ただ、法律は、一歩踏み込むと、すべて同じところに辿り着き、刑事・民事・商事・公法・私法と分けて考えると逆に理解できなくなります。
上記の近代法の城の法理は、民事では、所有権の絶対性という民法の三大原則と共通します。所有権の絶対性があるからこそ、国王(国家)の権力から自由になり、自己の所有物を自由に取引でき、資本主義が成り立つわけです。自由な取引に国家が介入しない原則も、民法の三大原則の1つ「私的自治の原則」から派生するものです。
ただ、同じく同時代の英国の法哲学者であるジョン・ロックは、その著書の二政府論で、戦争状態なる章を設けて、所有権というものを観念したことにより、人類は永遠に争いから逃れられない存在になったとの趣旨の記述をしているのは面白いですね。
話を戻しまして、ヨーロッパではキリスト教等による抑圧的な世の中で、こっそり隠れて科学技術が進み、気付いたらその技術が産業を活性化させ、それを交易する商人が台頭し、近代革命へと到達して行きます。その商人の金儲けを極限まで高めるために、「自分の物は自分の物!国家権力にも手出しさせない!」(所有権の絶対)、「俺が誰とどんな契約をしようが自由だ!契約した以上は絶対に守れ。守らなければ国家権力により強制する。」(私的自治の原則、契約自由の原則)、「商売にはリスクは付きもの!もし工場を作って金儲けしていて、公害問題やら事故があっても、過失がなければ責任負わないよ!」(過失責任の原則)と来るわけです。
私の母校の中央大学では、上記を三大原則と習ったりしたが、権利平等の原則を入れて四大原則としたり、過失責任の原則を私的自治の原則の派生原理として論ずる人もいますね。まあ、ぶっちゃけどっちでもいい(笑)。世界四大文明みたいな後知恵の意味のないものだったりしますので。
この近代法の趣旨は、刑事法では、消極司法の発想になったり、起訴されなければ刑事司法が開始しないという弾劾主義、無罪となった訴因に関して二度と起訴されないなどの二重処罰の禁止の法理に繋がり、国家権力が個人の自由な生活・商売活動に介入しないという同じ理論に辿り着くのは面白いですね。
さて、少しは(笑)、宅建民法の話をしないとですね。
物権の客体
売買契約などをしたときに所有権の移転という物権の変動が生じます。まず、人の物に対する権利を物権と言いました。典型例が所有権です。
このような物権の対象(客体)は何かというと、もちろん「物」ということになります。細かいことですが、この「物」とは何かについて、ここで説明します。
物とは、固体、液体、気体の3つで、法律の世界ではこれを有体物と言います。気体も物になるとはイメージがわくでしょうか。工場や建築現場などで、溶接作業をするときに大量の酸素を使用します。また、ダイビングするときにも酸素ボンベが必要になりますね。あれはただではもちろん売ってくれません。お金をはらって売買するわけです。つまり、酸素という気体も民法上の物ということになるのです。
次に、物は動産と不動産に分けられます。不動産とは、土地とその定着物を言います(民法86条)。定着物の典型は、建物ということになるのですが、解釈上、建物は土地とは別個の不動産ということになっています。では、建物以外の土地の定着物には何があるのでしょうか。たとえば、庭石や樹木、さらには樹木になる花や果実なども土地の定着物として不動産となります。もちろん、樹木が伐採されたり、果実が収穫されたりすれば、それらは独立の動産ということになります。
一物一権主義
一物一権主義とは、一個の物には同一内容の物権は一つしか成立しえず、逆に一つの物権の客体は一個の物であるという原則をいいます。つまり、独立性と単一性を要求するということです。
これについての明文はありません。しかし、物権の基本的な性格である支配権の排他性から導かれるものであり、「物」の特定性・独立性を確実にして公示主義をまっとうするために認められています。
たとえば、一台の自動車の前の左のタイヤだけ自分の所有物だという必要性はありません。また、仮にそれが認められたとしても、その一部分だけについて所有権を公示する方法がありません。このような一部分だけの所有権は認められません。これが独立性です。
また、会議室内にある50脚ほどの机に1個の所有権を設定することもできません。仮にこれを認めてしまった場合は、その内の10脚だけを売却するということができなくなり、不便になってしまう。これを単一性といいます。
具体例からわかるように、物の一部の上に独立の物権を認めたり、または集合物の上に1個の物権を認めたりする社会的な必要性ないし実益が乏しいから、独立性・単一性が要求されるのです。さらに、上で述べたことですが、逆にこれを認めると、取引の安全を害することになりかねない。公示手段がないからです。
ただ、これらについては、例外があります。独立性については、立木法によって公示された立木、独立性については集合物に対する譲渡担保などです。
物権法定主義
民法175条には、「物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。」と規定されています。つまり、民法をはじめとする法律に定めたもの以外は、当事者が合意で勝手に物権をつくりあげてはいけないという規定です。これは、すでに勉強した債権における契約自由の原則に相応するもので、物権法定主義と呼ばれます。
物権は、債権のように特定の相手方に対してのみ権利を行使するのではなく、一般に公示するという性質もっているので、公益性があります(取引の安全)。だから、自分勝手に好きな内容の物権を定めることができないのです。つまり、民法の物権に関する規定の多くは強行規定ということなります。
契約による物権変動と意思主義
物権変動とは、所有権などの物権が契約その他の原因によって発生、移転、消滅することをいいます。
発生には、建物の新築、売買や相続、時効などによって取得することなどがあります。
変更とは、物権の内容を変更することをいいます。たとえば、地上権の存続期間を延長するとか、一番抵当権を二番抵当権に変更するなどです。
消滅には、目的物の消滅、放棄、消滅時効、契約の取消・解除などがあります。
あなたは、土地を友人から購入した。さて、この土地はいつあなたのものになるのでしょうか。
意思主義とは、意思表示だけで所有権等の物権が変動することをいいます。例えば、売買契約において、申込みと承諾の意思表示が合致して、有効に契約が成立した場合(条件・期限がなければ)、瞬時に所有権が移転します。つまり、契約書だとか、登記だとか、さらには契約書に実印を押すだとかと、物権変動は無関係だということです。
この土地を売りますという意思表示と、この土地を買いますという意思表示が一致するだけで所有権という物権は移転するのです。
民法176条により、契約の時に所有権が移転するというのが、通説・判例です。ただ、逆に言えば、当事者の意思表示のみで所有権が移転するのであるから、当事者どうしで、「契約書にサインしたときに所有権を移転しましょう」とか「移転登記したときに所有権を移転しましょう」とか「代金を完済したときに所有権を移転しましょう」というように、別に所有権の移転時期について当事者の意思表示があった場合は、そちらが優先することになるともいえます。また、このことは私的自治の原則・契約自由の原則から言えることでもあります。
したがって、当事者間で特に取り決めをしなかった場合に、民法176条を適用し、意思表示のみが物権変動の要件だということになるのです。
物権行為の無因性とは?
あなたは友人から建物を購入しました。しかし、その建物は見た目はちゃんとしていたのですが、廊下を歩くとギシギシ音がする。不審におもったあなたは知人の一級建築士に調査を依頼した。調査報告書を見てあなたは驚いた。違法建築だった。しかも、設計段階でのミスだったので、修復も不可能だった。建築士の話では今すぐ引っ越さないといつ倒壊するかわからないとのこと。あなたはやむなく、友人との売買契約を瑕疵担保責任に基づいて解除した。
さて、この解除により、この建物は誰のものになるのでしょうか。
さて、物権変動は、意思表示のみで移転するということはわかりました。しかし、これをもっと緻密に検討すると、売買契約は債権の話しです。所有権の移転は物権の話しです。そこで、売買契約という債権的な部分が契約の解除などによって、はじめからなかったことになった場合、それに引きずられて所有権の移転という物権的な部分もなかったことになってしまうのでしょうか。これが物権行為の無因性の問題です。
無因と考えた場合は、売買契約が解除されたからといって、物権行為つまり所有権移転には影響せず、あなたの建物のままということになります。有因と考えた場合は、売買契約の解除とともに、所有権の移転もなかったことになります。つまり、売主である友人の所有物ということになります。この点について、通説は、有因と考えています。この辺はあまり実益のない議論ともいえるでしょう。
とにかく、所有権は、特約などがない限り、契約時に移転し、それが取り消されたり、解除されれば、所有権も移転しなかったとなると覚えておきましょう。これが判例・通説です。
対抗要件主義とは?
あなたは友人から建物を購入しました。しかし、まだ契約書を交わしただけで、名義変更(移転登記)も、引越しも済んでいませんでした。
念願のマイホームを手にしたあなたは、来月の引越しを前に、契約のときに一度だけ見た建物をもう一度見に行った。
なんと、そこには既に人が住んでいた。あなたはその人を追い出すことができるでしょうか。
対抗要件とは、取得した所有権等の物権を第三者に主張するための要件をいいます。つまり、上の例であなたが売主である友人以外の第三者に、所有権などの物権を主張するための要件ということです。
自分が所有者になったら、自分が所有者だということを売主以外の人に主張するためには対抗要件という一定の要件を満たさないと、自分が所有者だということを主張できません。具体的には、建物などに居座っている人を追い出すことができません。
不思議に思われるかもしれませんが、契約を結んだだけでは、契約の相手方にしかその内容を主張できないのです。思い出して下さい。債権は特定の人に対して一定の要求をする権利でした。特定の人にしか契約の内容は主張できないのが原則なのです。
不動産の対抗要件は登記であり、動産の対抗要件は引渡です。
公示って何?
なぜある不動産が自分のものだと第三者に主張するには登記が必要なのか
所有権は見えないため、誰に所有権が帰属するのかを外から見てわかるように公に示す必要があるから。このことを公示といいます。
公示と取引安全
なぜ公示が必要なのか?
不動産は重要な財産なので、その物権変動が対外的に認識できないと、取引の安全という観点から弊害が大きい。そこで、登記という公示手段を対抗要件としているわけである。
簡単に言えば、所有権という権利は、目には見えません。したがって、それを目に見える形にすれば、取引する人にとって安心できるということです。
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