明治29年(1896年)に民法が制定されてから、約120年間にわたって債権関係の規定についてはほとんど改正がなされてきませんでした。
しかし、2020年4月をもって民法(債権法)が改正されることに。
そこで今回は2020年の 宅建士試験 に影響がある範囲に焦点をあて、民法改正の概要とその影響についてまとめてみました。
今年度、宅建士の受験を検討している方はぜひ参考になさってください。
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この記事で学べること
なぜいま民法改正がなされたのか
先述したとおり、現行民法のうち債権法については約120年間にわたってほとんど改正がされていません。
とはいえ、明治29年から今日に至るまで社会情勢はもちろん、情報伝達手段も目覚ましい変化を遂げてきました。
そのひとつとして、明治時代においては当然パソコンもなければスマートフォンも存在していません。
現行民法では意思表示がなされて、相手に伝わるまでそれなりの時間がかかると考慮された条文が多数存在しており、今の時代とマッチしていない部分が多いといえます。
また、その間にもその差に少しでも対応しようと多くの判例が用意されたのですが、あくまで判例は判例にすぎず一層条文は複雑なものに。
そこで、今回の改正を行うことでいまの社会および経済の発展状況を踏まえることはもちろん、条文そのものがわかりやすくなるといえるでしょう。
宅建試験において民法改正が影響する範囲とは
宅建試験では全部で50題の問題が4択で出題され、配点は1問につき1点となっています。
また、50題の問題のうち約3割となる14問を民法が占めていることからも、今回の民法改正が宅建に大きな影響を与えることは間違いないでしょう。
債権法は民法の中でも主に契約における基本的なルールを定めたもので、宅建試験において必ず押さえておくべき分野です。
次に、具体的にどう改正されたのか見ていきましょう。
2020年度民法改正の中身
ここでは民法改正の中でも、2020年度の宅建士試験に関係のある改正点をピックアップしてみました。
これから勉強する方はもちろん、改正前の民法をすでに学習してしまった方も今後の参考となさってください。
改正1:錯誤
錯誤とは、内心的意思(頭の中で思っていること)と表示意思(口から発したことや書いたこと)に不一致が生じていることを指します。
たとえば、
「100万円で車を売るつもりが、うっかり10万円で売ると言ってしまった」
などといった例が挙げられるでしょう。
この錯誤が認められるためには
- 当該錯誤がなければ、その意思表示はされなかったと認められること(勘違いしていない限り、10万円で車を売るなんていうわけないと認められるか)
- 客観的に見ても、錯誤がなければそのような意思表示はしなかっただろうと認められること(客観的に見ても10万円で売るような車じゃないと認められるか)
- 動機が明示または黙示に表示されたこと
といった条件をすべて満たす必要があります。
とはいえ、現行法では上記があくまで判例の範疇にとどまり、具体的に条文化されていませんでした。
今回の改正では上記の要件が条文化されただけでなく、錯誤が生じた場合の扱いも異なっています。
錯誤が生じた場合において、現行法では「無効」とされていたものが「取り消し」に変わりました。
(正)錯誤による法律行為は取り消すことができる
また、現行民法では錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合において、表意者は錯誤の無効を主張することができませんでした。
改正民法においては、以下の要件に該当する場合には取り消すことができると明記されています。
- 相手方が表意者に錯誤があることを知り又は重大な過失によって知らなかったとき
- 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき
この2点については、宅建試験に直結する内容ですので必ず抑えるようにしましょう。
実際の過去問で確認しよう
平成25年 1問-1項
意思表示に法律行為の要素の錯誤があった場合は、表意者は、その意思表示を取り消すことができる旨、民法の条文に規定されている。
2019年まで:誤り
2020年から:正しい
改正2:消滅時効
時効とは権利が一定期間行使されない場合において、その権利が消滅してしまう制度のことを指します。
たとえばAさんがBさんに50万円貸した後、返済を請求しないまま消滅時効期間が経過したとしましょう。
その際に、BさんがAさんに対して「もう時効だから50万円は返さないよ」というと、AさんはBさんに対してお金を返してもらう権利を主張することができなくなります。
現行民法ではこの消滅時効が成立する期間を10年と定めていたのですが、債権の種類ごとにさまざまな例外が規定されていました。
今回の改正ではそのような例外規定をなくし、消滅時効期間が統一されています。
具体的には
- 債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年
- (権利を行使できることを知らなくても、客観的に)権利を行使することができるときから10年
と定められました。
つまり、消滅時効を行使できると知った時から5年、知らなければその日から10年が経過した時点で時効が成立することになります。
民法を制する者は宅建を制す
今回は民法改正の概要と宅建士に影響がある錯誤と消滅時効の改正内容について、具体的にお伝えしました。
先述した通り、民法は宅建試験の問題のうち約3割を占めていることから、民法の習熟度合いが試験の合否を左右するといっても過言ではありません。
今年は特に民法改正の影響を強く受けることが予想され、改正点について問う問題が出題される可能性は十分高いといえるでしょう。
現行法と何が違うのか、ひとつずつ丁寧に勉強していくようにしてください。
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