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この記事で学べること
権利能力ってなに?
ここでは、権利の主体について検討します。権利の主体というと非常に難しいイメージをしてしまいますが、簡単に、民法上の例えば契約などの主体つまり主役になることができるか、の問題です。
民法の世界で、契約などの主体となるもののことを人といいます。人とは、権利義務の帰属主体となることができる地位を持つ者のことをいいます。このような権利義務の主体たり得る地位のことを権利能力といいます。また、別名法人格とも言います。つまり、人とは権利能力者のことをいうのです。
この人は、自然人と法人に分類されます。
自然人とは、われわれ生身の人間をいいます。
法人とは、法が権利能力の主体として特に認めたもので、自然人以外の者をいいます。例えば、会社や学校法人、宗教法人などがその典型です。
因みに、権利無能力者の行った法律行為は効果帰属しません。この点に関しては「権利能力なき社団」とう論点があります。
自然人はいつから権利能力を有するの?
権利能力とは、人が生まれてから死ぬまで有しているものと勉強しました。では、胎児の場合はどうなのでしょうか。たとえば、公害事件などで胎児が障害をもって生まれてきた場合、胎児には権利能力がないので、公害の原因を過失によって生じさせた会社などに賠償請求できないのでしょうか?
残念ながら、お母さんのお腹の中にいる胎児の段階では、まだ生まれ出てきてないので、権利能力はありません。しかし、例外的に3つの場面だけ、権利能力を肯定することになっています。それは、損害賠償の請求(721条)、相続(886条)、遺贈(965条)です。この3つの場名についてのみ胎児であるにもかかわらず、権利能力を認めるわけです。
しかし、これらの3つの場面はすべて、胎児が生きて産まれたことが前提の話しです。残念ながら死産だった場合は、原則通り権利能力は認められません。
法人
1.法人を作るには法令による根拠がいる?
法人も自然人と同じく、人、すなわち権利能力の主体であることは前にお話ししました。つまり、法人とは、自然人以外のもので、法律上、権利義務の主体となれるものです。具体的には、会社などの団体をイメージすればわかりやすいと思います。
では、なぜ、法は自然人以外にわざわざ権利能力をもつ法人なるものを認めたのでしょうか。
あなたが大学内で、民法研究サークルを作ったとしましょう。最初は4・5人の仲間で楽しく活動していました。しかし、噂を聞きつけた都内の学生達が押し寄せ、あっという間に、数百名の会員を抱える大サークルになった。
そこで、あなたはこれまで大学の空き教室で行っていたが、会員から会費を集め、御茶ノ水駅前のビルの1フロアーを借り、先輩の勤める法律事務所とも提携を結ぶことを考えた。
さて、この場合、あなたは、「中央大学民法研究会」なるサークル名で、賃貸借契約や提携を結べるでしょうか?さらには、サークル名で、土地などを購入し、サークル名で移転登記ができるでしょうか。
答えは、残念ながら、個人名でしかできません。特に、登記などは認められていません。リーダーであるあなたの個人名で土地を購入するしかないのです。
しかし、これでは非常に不便さを感じますね。土地の利用目的は明らかに「民法研究会」のために使用するのに、法律上あなた個人の財産ということになってしまう。大学を卒業したらいちいち次のリーダーに売却し移転登記をしなければなりません。
また、悲しいことにそのリーダーが死亡した場合は、「相続」ということ起こります。相続は発生すると(死亡と同時に相続が起こります)、リーダー(被相続人)がもっていた財産は、相続人(配偶者や子、親など)に引き継がれてしまいます。リーダーのもっていたサークルの土地が相続されてしまうという問題が起こるのです。
さらには、リーダーが個人的に○○金融からお金を借りていて、返せなくなったような場合にも問題が起きます。名義上リーダーの土地になっているので、○○金融がその土地を差押えたような場合です。
これでは現実の社会はまわって行かないことは一目瞭然でしょう。つまり、このような団体に権利能力を認めてやる必要性があるのです。そこで、これらの団体の中で法的な権利義務の帰属主体として法が特に認めたものが法人なのです。
このように、法人は実際上の必要性から法的な技術として認められることになるわけであるが、どんな団体であろうと、法人として権利能力の主体になってしまっていいのでしょうか。
たとえば、ある個人が財産隠しのために、勝手に法人を作って、個人財産をその法人の財産の名義にしてしまうなどということが横行してしまうと、やはりまずいでしょう。強制執行のがれや脱税など様々な不都合が生じます。そこで法人の設立は、法律の規定によってのみ認められるということになっています。
このことを法人法定主義(33条1項)といいます。
2.法人にはいろいろな種類がある?
法人はいくつかの種類に分類されます。まず社団法人と財団法人の2つに分かれます。社団法人とは、人の集まりが法人となったものです。人の結合体とイメージしましょう。それに対して、財団法人とは、財産の集合体をいいます。たとえば、誰かが遺産を残したとしましょう。その遺産として残した財産を集めて、その財産のまとまりに権利能力を与えてしまう。財産に権利能力を付与すると聞くと妙な話しだと思うかもしれないが、財産を管理する人を選んで、その人に管理してもらう、それが財団法人です。
つぎに、公益認定を受けた法人と営利性を有する法人という分類もあります。公益認定の対象となる公益目的事業は、学芸、技芸、慈善その他の公益に関する次のいずれかに該当する事業で、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものとされています。
営利法人は、営利事業を目的とする法人のことをいいます。会社法上の株式会社などはその典型例です。
ただし、民法にはこれら各種法人の一般的な枠組みだけが定められています。組織のあり方や運営方法などはそれぞれ別の法律に定められています。
3.どうやって法人を作るの?
法人をつくるといっても、どんな法人を作るのかによって、それぞれその方法が異なります。たとえば、NPO法人を作るのであれば「特定非営利活動促進法」という法律に基づいて社員総会・理事会・監事・知事の認可など・・・、株式会社をつくるのであれば会社法に基づいて株主総会・取締役・登記・・・など、個別にその手順が別個の法律に定められています。
ここでは、公益社団法人を例にあげて、作り方を説明します。
まずは、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づいて一般社団法人を設立する必要があります。この法人をつくるには、定款を作成し、社員を2名以上集めて、一定の機関を設置した上で、株式会社と同様に登記を行えば設立できます(準則主義)。
次に、内閣総理大臣または都道府県知事から諮問を受けた公益認定委員会から公益性の認定を受ければ公益社団法人となります。
(1)一般社団法人の機関設計
一般社団法人において、必ず置かなければならない機関としては、社員総会と理事があります。ほか、任意設置の機関として理事会、監事、会計監査人がありますが、理事会または会計監査人を置く場合は監事も置かなければならず、また最終事業年度における貸借対照表上の負債額が200億円以上となる一般社団法人(大規模一般社団法人)には、会計監査人の設置が義務づけられます。
理事の中から代表理事を選任することとするかどうかは原則として自由ですが、理事会を置いている場合は、必ず代表理事を選ぶ必要があります。
また、大規模一般社団法人については、会社法上の大会社と同様に、理事会における内部統制システムの構築が義務づけられます。
理事の人数には制限はありませんが、公益認定を受けるには、理事を3名以上置く必要があります。
(2)一般財団法人の機関設計
一般財団法人において、必ず置かなければならない機関としては、評議員、評議員会、理事、理事会、監事があります。また、大規模一般財団法人(定義は大規模一般社団法人と同様)については、会計監査人の設置も義務づけられます。
一般社団法人には設立時の拠出財産が300万円以上必要になります。
評議員及び評議員会は、概ね一般社団法人の社員及び社員総会に相当する権限を持つ機関ですが、一般財団法人には社員に相当する者がいないため、評議員も法人の役員であり、財団とは委任関係にあり、報酬も定款で定める必要があります。評議員の任期は原則4年ですが、定款の規定で6年まで伸長することができます。
評議員は3人以上選任する必要があり、その選任または解任の方法は定款で定める必要がありますが、理事の業務執行を監督するという地位に鑑み、評議員を理事または理事会が選任することはできません。
なお、財産の拠出という形で法人を設立するには、旧法では民法の財団法人として、設立時に主務官庁の許可を受ける必要がありましたが、新法の施行に伴い、財団組織も準則主義で設立できるようになったというのが大きな特徴です。なお、新信託法においても、これに合わせて受益者の定めのない信託に関する規制が緩和されていますが、公益目的以外の受益者の定めのない信託については、別に法律で定める日までの間、政令で定める法人のみを受託者とすることができるものとされています。
公益目的事業を行う一般社団法人及び一般財団法人は、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(公益認定法)による行政庁の認定(公益認定)を受けることができます。
一般社団法人及び一般財団法人が公益認定を受けるメリットは、公益社団法人(公益財団法人)の名称を名乗ることにより団体・事業の公益性をアピールできること、及び税制上の優遇措置を受けることの2点です。
公益認定を行う行政庁は、次のいずれかに該当する場合は内閣総理大臣、それ以外の場合は事業所所在地の都道府県知事とされています。
・二以上の都道府県の区域内に事務所を設置するもの
・公益目的事業を二以上の都道府県の区域内において行う旨を定款で定めるもの
・ 国の事務又は事業と密接な関連を有する公益目的事業であって政令で定めるものを行うもの
ただし、内閣総理大臣が行う公益認定や、公益認定を受けた団体に対する監督については、原則として内閣府に設けられる公益認定等委員会に諮問し、その答申に基づいて行うものとされています。都道府県知事が行う公益認定等についても、公益認定等委員会に準ずる審議会その他の合議制の機関(名称は各都道府県の条例で定められます)を置き、原則としてその機関への諮問及び答申に基づいて行うものとされています。
公益認定の対象となる公益目的事業は、学芸、技芸、慈善その他の公益に関する次のいずれかに該当する事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものとされています。
3.同窓会や地域の住民の集まりは法人になれるの?
ここで少し発展的なお話をします。③で勉強したように、実際に法人をつくるといっても、そう簡単ではありません。特に公益法人などをつくる場合には公益認定を受ける必要があり、実績・社会的評価・事業内容が一定以上でなければなりません。
また、株式会社などの営利法人は、営利目的(簡単に言えば金儲けの目的)でなければつくることができません。
実社会には、どの形態にもあてはまらないような団体はたくさんあります。たとえば、学校内の運動部、同窓会、サークル、法人になれる実体をもちながら手続がまだ終わっていない団体、株式会社を設立するための準備をしている団体でまだ登記をしていないものなど、例をあげれば枚挙にいとまがありません。このような団体が、その中身が法人に匹敵するくらいに組織化されていた場合、法律上どのように扱うべきでしょうか。ちなみに、このような団体を権利能力なき社団といいます。
この権利能力なき社団は、権利能力がありませんので、もちろん法律上の法人とはなりません。しかし、社団としての実体はあるわけだから、法人と同じように、社会においては活動しているわけです。そこで、この権利能力なき社団は実社会では当然取引などの法律行為を行います。普通は何の問題もなく取引が完了するのですが、代金が払えなくなったり、不動産を購入するようになった場合には問題が生じます。
(1) 権利能力なき社団の成立要件
・団体としての組織を備えていること
・多数決の原則が行われていること
・構成員が変更したにもかかわらず団体そのものは存続すること
・代表の方法・総会の運営・財産管理・その他団体としての主要な点が確定していること
(2) 権利能力なき社団の財産関係
権利能力なき社団としての要件を満たした「民法研究会」なる団体があったとします。この団体が所属員の勉強のために模範六法を10冊購入した。
さて、この模範六法は誰のものになるでしょうか。
「民法研究会」という団体自体が模範六法に対する所有権を取得することはできません。なぜならば、民法研究会は、権利能力をもっていないからです。では誰のものになるのでしょうか。この場合は、民法研究会の構成員全員の共同所有という形にするしかありません。
権利能力なき社団としての要件を満たした「民法研究会」なる団体があったとします。この団体が所属員の勉強のために模範六法を10冊購入した。
さて、その研究会に所属していたA君はめでたく国家試験に合格した。会費をちゃんと払っていたA君は脱退するとき、研究会にある模範六法をもらっていけるのでしょうか。
民法上、所有の形態には①共有②合有③総有の3種類あります。
共有というのは、具体的な持分が認められるものです(249条)。この場合は、A君の主張は認められることになります。
合有というのは、潜在的な持分というものはあるけれども、具体的な持分が認められないような共同所有をいいます。民法上の組合などがこれにあたります。潜在的な持分があるというのは、脱退して組合を出て行くときに持分の払い戻しが認められるということです。ですから、勝手に自分の持分を人に譲り渡したり、分割請求などは認められません。この場合、A君の主張は認められません。組合費などの払い戻しだけが認められる程度でしょう。
総有というのは、潜在的な持分すらない共同所有形態をいいます。みんなで所有しているのだけれども、持分がないのです。つまり、みんなで使うことだけができて、それを処分することができません。この場合は、A君の主張は認められないことになります。
判例は、権利能力なき社団の所有形態を総有であるとしています(最判昭和48年10月9日)。
権利能力なき社団としての要件を満たした「民法研究会」なる団体があったとします。この研究会から多くの法曹を生み出したことが噂になり、会員の数が百名を越した。そこで、民法研究会は、いつまでも大学の空き教室を借りての勉強ではなく、研究会で建物を購入することにした。
さて、建物の保存登記の名義人を「民法研究会」にすることができるでしょうか。
残念ながら、不動産の登記は、民法研究会という名義では行えません。あくまでも、代表者の個人の名義で登記をするか、または構成員全員の共有名義で登記するしかありません。
なぜかと言うと、団体名義の登記を認めてしまうと、財産隠しに使われる可能性があるからです。つまり、脱税を防止しようとしているのです。
権利能力なき社団としての要件を満たした「民法研究会」なる団体があったとします。試験直前期1週間、会員を集めて軽井沢の民宿を借りて「なにが何でも合格勉強会」を実施した。
この宿泊費は誰が払うのでしょうか。
この場合、権利能力なき社団である「民法研究会」が債務を負担します。所属する会員が債務を負担することは一切ありません。個人責任を負わないということです。
逆に言えば、民宿を経営する人は、たとえ民法研究会がお金を払ってくれないからといって、代表者などの財産を差し押さえることはできないということです。差し押さえることができる財産は、民法研究会が所有する財産だけです。
なぜならば、債務も所有権と同じく、一個の債務として総有的に「民法研究会」なる社団に帰属するからです。
これでは民宿経営者がかわいそうにも思えますが、かわいそうではありません。債権回収が心配ならば、保証人を付けておくなどの措置をとればよかったのです。残念。
権利能力なき社団としての要件を満たした「民法研究会」なる団体があったとします。試験直前期1週間、会員を集めて軽井沢の民宿を借りて「なにが何でも合格勉強会」を実施した。
民法勉強会は民宿先でビールを飲みすぎてしまい、宿泊費を払えなくなった。
民宿経営者は、やむなく訴訟に踏み切った。さて、誰を相手に訴状を書けばいいのでしょうか。
民事訴訟法29条には「法人でない社団または財団で代表者または管理人の定めがあるものは、その名において訴え、または訴えられることができる」とあります。つまり、権利能力なき社団は、裁判では原告にも被告にもなれるのです。
過去問ではこのように出題されている
【問1】 自己所有の土地を売却するAの売買契約の相手方に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例に よれば、正しいものはどれか。(2005年度)
1:買主Bが被保佐人であり、保佐人の同意を得ずにAとの間で売買契約を締結した場合、当該売買契約は当初から無効である。
2:買主Cが意思無能力者であった場合、Cは、Aとの間で締結した売買契約を取り消せば、当該契約を無効にできる。
3:買主である団体Dが法律の規定に基づかずに成立した権利能力を有しない任意の団体であった場合、DがAとの間で売買契約を締結しても、当該土地の所有権はDに帰属しない。
4:買主Eが婚姻している未成年者であり、当該婚姻がEの父母の一方の同意を得られないままになされたものである場合には、Eは未成年者であることを理由に当該売買契約を取り消すことができる。
正解:3
1 ×
被保佐人が、不動産その他重要なる財産に関する権利の得喪を目的とする行為(例えば本問のような土地の売却の契約を締結)をする場合には、保佐人の同意が必要です(民法13条1項3号)。保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意またはこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができます(同条4項)。当初から無効となるのではなく、取り消すことで無効となります。
2 ×
意思無能力者の行為は無効です(大判明治38年5月11日)。意思無能力者が締結した契約は、取り消して無効になるのではなく、当初から無効です。
3 ○
自然人以外で登記名義人になることができる(土地の所有権が帰属する)のは法律の規定による法人です(民法33条)。法律の規定に基づかずに成立した権利能力を有しない任意団体は登記名義人になることができません。なお、判例上、実質的に法人と同視できるような団体の場合は例外的に全構成員に総有的に財産関係が帰属できるとしています。ただ、それがすなわちその任意団体そのものが不動産の所有者となることを意味するわけではありません。
4 ×
婚姻している未成年者は成年と扱われるので(民法753条)、婚姻している未成年者は、未成年者であることを理由に当該売買契約を取り消すことはできません。なお、未成年の子が婚姻をするには、原則として、父母の同意を得なければなりませんが、父母の一方が同意しないときは、片方の同意だけで婚姻できます(民法737条2項)。片方の同意での婚姻であってもその効力は同じです。
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