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この記事で学べること
民法の全体像
1.民法ってどんな法律?
民法とは自由の思想に基づいた市民社会のルールです。この定義で最も重要な箇所は自由の思想というところです。特に経済活動についての自由について定めた法律が民法です。経済活動はあまり難しく考えることはありません。自分の意思でものを売ったり買ったり、貸したり借りたりといったイメージ。経済活動についてさまざまなルールがありますが、その中でも根本的なルールが民法です。
2.民法は5つのパートからできている
民法は、大きく2つのグループに分けることができます。総則を共通項として、財産法と家族法の2つです。所有や売買、賃貸借などの財産関係を規律するものが財産法です。夫婦や親子、兄弟姉妹、死んだ後の相続などの身分関係や相続の関係を規律するものが家族法です。
財産法は、人と物との関係についてルールを定めている物権法、人と人との関係についてルールを定めている債権法の2つにさらに分類されます。家族法は、婚姻、離婚、親子、親権などについて規定している親族法と、死亡などによる相続、遺言などによる財産移転などについて規定している相続の2つに分けられます。つまり、民法は5つの編(総則・物権・債権・親族・相続)に分けて書かれています。
全体像を頭に入れておくと知識を整理しやすくなります。建物で言えば骨組みにあたるものです。
3.財産法は約束を守らせるための仕組み
第1に、誰が財産法上の主体となれるかです。つまり、誰が自分の名前で物の売り買いや貸し借りなどの契約を結ぶことができるかです。ここでは権利能力・意思能力・行為能力の3つが重要です。
第2に、法的効果が有効に発生する流れです。特に債権発生原因として重要な契約を例に理解しましょう。ここでは、成立要件、有効要件、効果帰属要件(代理)、効力発生要件(条件・期限)の4つが重要です。
第3に、人の物に対する権利です。民法は、人に対する権利として債権、物に対する権利として物権の2つを明確に分けて規定しています。どのような場合に物権(たとえば所有権)が移転するのか、特に契約、相続、取得時効により移転する点が重要です。
第4に、債権の発生から満足して終了するまでについて、債権発生原因と債権終了原因の2つに分けて整理しましょう。債権発生原因としては契約、事務管理、不当利得、不法行為の4つあります。また、債権終了原因としては弁済と消滅時効が重要です。
第5に、債権の効力として問題が生じたときの処理について、債務不履行責任と担保責任の2つが重要です。
第6に、債権の履行確保の手段についてです。特殊な債権回収手段、債権の保全、債権の担保に分かれます。特殊な債権回収手段としては債権譲渡、債権の保全としては債権者代位権と債権者取消権、債権の担保としては保証と抵当権が重要です。
財産法の仕組みはとても重要です。権利関係の部分を一通り学習した後に、もう一度ながめることで、知識を定着することができます。
4.家族法は身近な法律
家族法は親族法と相続法の2つから構成されています。人によって最も身近に感じる分野かもしれません。親族法は婚姻や離婚、親権の行使など日常生活に密接する家族関係に関する規定を定めています。相続法は人が死亡した後の財産の行方について定めています。
民法の基本原則
1.基本原則ってなに?
民法1条には、1項に「公共の福祉」、2項に「信義則(しんぎそく)」、3項に「権利(けんり)濫用(らんよう)禁止(きんし)」が定められています。土台となる法律には、このようにとても曖昧な条文があったりします。これを一般規定と呼び、その法律を使う際の指導原則となります。ちなみに、この規定は、昭和22年の改正で追加されたものです。日本国憲法12条の公共の福祉の規定や同29条の私有財産に関する規定に対応して定められました。
(1)公共の福祉ってなに?
民法の最初に書かれている規定は「私権は、公共の福祉に適合しなければならない。」というものです。あまり実益のない規定と言われています。
(2)信義則ってなに?
契約等の関係に入った者は、相互に相手方の信頼を裏切らないように誠実に行動しなければならないという原則をいいます。ヨーロッパでこの発想が生まれました。当初は契約関係に入った後のルールでしたが、その後拡張され、現在は契約関係にない関係であっても適用されるようになっています。また、義務の履行だけでなく、権利の主張の段階でも適用されます。この信義則はあらゆる場面であらゆる形で現れます。たとえば、不動産取引の場面では、建物を無断転貸した場合における契約解除の制約原理が信義則から生まれた判例理論と言われています。つまり、無断転貸したという事実だけでは賃貸借契約は解除できず、その無断転貸が契約当事者間の信頼関係を破綻する程度の状態に陥っていてはじめて契約の解除ができるとする理論です。これは民法の条文には定めがありません。信義則という一般規定の解釈から生まれるものといわれています。
(3)権利があれば、どのような場合でも行使できるの?
外形上は正当な権利行使のように見えても、具体的実質的に見ると権利の社会性に反する場合は、権利の濫用として、効力を持たないとする理論があります(権利濫用の禁止)。判例は時効が完成した後に弁済し、後に消滅時効を主張し弁済した金銭の返還請求することは権利濫用にあたると判断するものが少なくありません(同時に信義則にも反するとするものもあります)。
過去問ではこのように出題されている
【問1】 次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。(2006年度宅建試験)
1:契約締結交渉中の一方の当事者が契約交渉を打ち切ったとしても、契約締結に至っていない契約準備段階である以上、損害賠償責任が発生することはない。
2:民法第1条第2項が規定する信義誠実の原則は、契約解釈の際の基準であり、信義誠実の原則に反しても、権利の行使や義務の履行そのものは制約を受けない。
3:時効は、一定時間の経過という客観的事実によって発生するので、消滅時効の援用が権利の濫用となることはない。
4:所有権に基づく妨害排除請求が権利の濫用となる場合には、妨害排除請求が認められることはない。
正解:4
1 ×
契約をするかどうか、どのように契約を締結するかについて交渉している当事者間には、相手方に損失を与えないように注意する義務があります(民法1条2項信義誠実の原則)。例えば、相手方が契約が成立することは間違いないと考えてその成立締結に備えて準備をしている場合に、一方的に契約しないと通告したようなときに、相手方に損害が生じれば、契約締結上の過失責任として、損害賠償義務を負うことがあります(最判昭和59年9月18日)。
2 ×
債務などの義務の履行や権利の行使には、信義誠実の原則が適用され、制約を受けます。義務の履行や権利の行使には、相互の信頼関係が基本になるからです。
3 ×
時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができません(民法145条)。つまり、時効による債権消滅の効果は、時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく、時効が援用されたときに初めて確定的に生じます(最判昭和61年3月17日)。ただし、権利を有するものが、長きにわたりそれを行使せず、相手方もその権利はもはや行使しないものと信頼すべき正当の事由を有するに至ったような場合には、例外として時効の援用が権利の濫用となる場合があります(最判昭和30年11月22日)。
4 ○
所有権が侵害されてもこれによる損失が軽微であり、また、所有権を侵害している状況をなくすことが著しく困難かつ莫大な費用を要するような場合は、その除去を求めることが権利の濫用にあたるとする判例があります(大判昭和10年10月5日宇奈月温泉事件)。そして、所有権に基づく妨害排除請求が権利の濫用となる場合には、妨害排除請求が認められることはありません。
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