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この記事で学べること
代理権の範囲~代理人ができることは?~
代理人は何ができるの?
法定代理の場合は、法律により代理権の範囲が定められています。それに対して、任意代理の場合は、代理権を与える契約によってその範囲が定まります。もし、代理権の範囲が不明な場合であっても、保存行為・利用行為・改良行為はできます。
《用語の意味》
保存行為…財産の現状を維持する行為をいいます。家屋修繕のための請負契約、時効中断、弁済期後の債務の弁済など。
利用行為…収益をはかる行為をいいます。物または権利の性質を変えない限りでできます。金銭を利息付きで貸し付けるなど。
改良行為…物または権利の価値を増加させる行為をいいます。家屋に造作をつけることの請負契約、無利息消費貸借を利息付に改める契約をするなど。
自己契約・双方代理は許されないの?
たとえば、売買契約において、売主の代理人が買主の立場を兼ねたり(自己契約)、売主の代理人が買主の代理人も兼ねたり(双方代理)することは、原則として禁止されています。本人の利益が不当に害されるからです。したがって、本人があらかじめ許諾した場合は、このような代理も許されます。
また、後から追認することもできます。さらに、債務の履行も、すでに確定した契約内容を決済するだけで、これによって契約当事者間に新しく利害関係が生じるわけではなく、本人の利益を不当に侵害する心配がないので、自己契約も双方代理も許されます。
本人が代理権授与行為を取り消したら?
本人AがBからの強迫によって、Bに代理権を与えた。BがAの代理人としてAの甲不動産をCに売却した後に、Aは強迫を理由にAB間の代理権授与の意思表示を取り消した場合、Cは保護されるのでしょうか。
本人Aが代理権授与の意思表示を取り消した場合は、すでに勉強したように、はじめから代理権授与はなかったことになります。つまり、Bははじめから代理人にはなっていなかったということになります。このようなBのことを無権代理人といいます。
残念ながら、日本の民法では、無権代理人と取引した人は原則として保護されません。ですから、このような場合のCは保護されず泣いてもらわなければなりません。これは本人保護という静的安全の方をより重視しようという価値判断に立っているからに他なりません。
ただ、たとえばAが代理権授与を取り消したにもかかわらず、Bに渡していた委任状や実印・印鑑証明のたぐいを回収しないで放置している間に、Bが勝手に代理人のふりをしてCに売却したような場合は、Aにも帰責性が認められるので、後に勉強する表見代理の可能性はあります。
また、取り消し前にCが無権代理人Bから土地などを購入したような場合は、96条3項によって、保護される可能性はあります。
代理人がその権限を濫用したら?
代理人Bが相手方Cと間で土地を売買したが、Bがその代金を着服(ねこばば)したような場合、本人Aは相手方Cに土地を引渡さなければならないのでしょうか。
このような事案を代理人の権限濫用の問題といいます。
この場合、Bは無権代理人ではありません。Aからちゃんと土地を売却する代理権を与えられているからです。与えられた権限に基づいて土地をCに売っただけです。無権代理の問題ではありません。たんにAに渡すはずだった売買代金をBが横領しただけです。
また、相手方Cからみても、Aから土地を売却する代理権をちゃんと与えられていたBと売買契約を結んだというだけです。Cも何も悪いことはしていません。
さて、この場合、Aは代理人Bのやってしまった着服の責任を負わなければならないのでしょうか。つまり、Cから土地を引渡すように要求されたらそれに応じなければならないのでしょうか。何か対抗策はあるのでしょうか。これが代理人の権限濫用の問題です。
この点、判例は面白い理屈でこの問題を解決しています。
何と民法93条但書を類推適用するというテクニックを使います。あの心裡留保の規定を使うのです。
心裡留保は、本心と表示が食い違っている場合の規定でした。いわゆる冗談を言ったときの規定です。表意者の表示は原則有効で、相手方が冗談であることを知っていたか知るべきだったといえる場合は無効でした。これをこの事例にあてはめるのです。
つまり、代理人が権限濫用したとしても、原則として代理行為は有効であるが、相手方が代理人の意図(着服)を知っていたか知るべきだったときには、代理行為は無効となり、本人はその無効を相手方に主張できるとするのです。
代理人とその相手方との間で契約を偽装したら?
A銀行の銀行員のBが銀行の金500万円をギャンブルでつくった借金返済のために横領した。もちろん犯罪です。Bは発覚前に穴埋めすれば何とかなると考えていたが、近く本社の内部監査が入るという情報を聞き入れた。
発覚を恐れたBは友人のCに頼み込んで、A銀行から500万円を借りたということにしてもらうことにした。Cは友人Bのためならと思い、実際には借りてもいないのに嘘の消費貸借契約書にサインした。しかし、本社の内部監査の目は厳しく、銀行員Bの犯行はあえなく見破られた。
さて、この場合、A銀行(本人)は、Bの友人Cに対して、嘘の消費貸借契約を根拠に500万円の返済を求めることができるでしょうか。
これは、代理人が本人をだますつもりで、相手方と通謀して虚偽表示をした場合の問題です。
この場合、形だけだといっても、CはA銀行からお金を借りたということになっているので、後でA銀行から借金返済を迫られることになります。しかし、Cにしてみれば、実際は一銭もA銀行からお金を受け取っていないわけだから、もちろん500万円(実際は利息も付くのでそれ以上)何ていう大金を払いたくはないはずです。
そこで、A銀行(本人)とC(相手方)との間の利益の調和を図る必要が生まれます。
この点、通謀虚偽表示という点に着目してBC間の消費貸借契約を無効として、A銀行を94条2項の「第三者」とできないか、というと、これはダメです。なぜならば、本人であるA銀行は、94条2項の「第三者」にいう新たな利害関係人とはとてもいえないからです。
そこで、判例は、ここでも93条を類推適用して解決しています。つまり、Cが心裡留保の表意者(冗談をいった人)とみて理屈を立てます。Cにとっての相手方をA銀行として93条を使います。Bは何かといえば、これはCの意思をAに伝える単なる使者と見ます。
このように構成すると、AがCの冗談(本当はお金など借りるつもりがないのに、お金を借りるという表示つまり契約書にサインをしたこと)を知っていたか知るべきだったと言える場合は、この契約は無効であり、AはCに返済を迫ることはできないと考えるのです。
ただこの理屈だと、Cにほとんど勝ち目はなくなります。くれぐれも友人からのこのような誘いには乗らないようにしましょう。お金だけでなく、横領罪という刑法上の犯罪の幇助罪か共同正犯となって、刑務所で過ごすことになります。
過去問ではこのように出題されている
【問2】
AがA所有の土地の売却に関する代理権をBに与えた場合における次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。(2009年度)
1:Bが自らを「売主Aの代理人B」ではなく、「売主B」 と表示して、買主Cとの間で売買契約を締結した場合には、Bは売主Aの代理人として契約しているとCが知っていても、売買契約はBC間に成立する。
2:Bが自らを「売主Aの代理人B」と表示して買主Dとの間で締結した売買契約について、Bが未成年であったとしても、AはBが未成年であることを理由に取り消すことはできない。
3:Bは、自らが選任及び監督するのであれば、Aの意向にかかわらず、いつでもEを復代理人として選任して売買契約を締結できる。
4:Bは、Aに損失が発生しないのであれば、Aの意向にかかわらず、買主Fの代理人にもなって、売買契約を締結することができる。
正解:2
1 ×
代理人が行った契約等の効果を本人に帰属させるには、本人による代理権の授与と、代理人が本人の名を示して契約等をしたことが必要です(民法99条1項)。代理人が本人のためにすることを示さずに行うと、原則として、代理人自身にその契約等の効果が帰属します(民法100条本文)。しかし、相手方が代理人が本人のためにすることを知っていた場合や、注意すれば知ることができた場合には、契約等の効果は本人に帰属します(民法100条但書)。本問の場合、代理人のBは、自分を売主と表示して、Cと売買契約を行っているので顕名がなかったことになります。しかし、買主のCは、Bが代理人として契約していると知っていた(悪意)とあるので、この契約を本人であるAに帰属させてもCに不利益が生じることはありません。したがって、BC間ではなくAC間に売買契約が成立することになります。
2 ○
代理人は、意思能力さえあればよく、行為能力者でなくてもよいので(民法102条)、代理権を授与するときに制限行為能力者であっても代理人にすることができます。本人が制限行為能力者に代理権を授与した場合、代理人の制限行為能力を理由として代理行為を取り消すことはできません。したがって、Aは、Bが未成年者であることを理由に、契約を取り消すことはできません。
3 ×
委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、またはやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができません(民法104条)。したがって、Bは、Aの意向にかかわらず、いつでもEを復代理人として選任できるわけではありません。
4 ×
同一の法律行為(契約などのこと)について、当事者双方の代理人となることは、債務の履行および本人があらかじめ許諾した行為などを除き、原則として禁止されています(民法108条 双方代理)。本人や当事者の利益を害するおそれがあるからです。法的な効果としては無権代理になります。本問の場合、Bは、Aの許諾がないにもかかわらず、買主Fの代理人にもなって、売買契約を締結しようとしています。したがって、双方代理となり、Bは売買契約を締結することができません。
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