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この記事で学べること
意思能力
1.意思能力とは?
4歳程度の子供から、「この帽子あげる」といわれた場合、贈与契約は有効に成立するのでしょうか。
意思能力とは、自己の行為の法的な効果を認識・判断することができる能力をいいます。
例えば、買主として売買契約を締結すると、買った物の所有権を取得し、その代わりに代金を支払う義務が生じることを認識することができる能力です。行為の種類・内容によっても異なりますが、おおよそ7歳から10歳の子供の判断能力であると考えられています。
2.私的自治の原則とその前提条件
近代法の支配する私たちの社会では、各人は契約などによって自ら法律関係を形成していく自由がある反面、自分の自由な意思で形成した法律関係によって拘束されます。このような考え方を私的自治の原則と呼びます。
しかし、自分の意思に基づく行為に拘束されるという原則が妥当するには、その行為が自己の正常な意思決定に基づいていることが必要とされます。言い換えれば、正常でない意思決定によってなされた行為は、行為者を拘束しないということです。
正常でない意思決定には、大別して2種類のものがあります。
第1は、行為者に自己の行為の意味を判断するだけの能力が欠けている場合です。
第2は、意思決定をする際に他から騙されたり、強制を受けたり、あるいは、自分で誤解したために自由な意思決定が歪められた場合です。
前者がここで取り上げる意思能力・行為能力の問題です。
3.意思能力がない者がした行為の効果
このような意思能力がない者がした行為を法的に有効として扱うことは適当でないので、現行の民法に明文の規定はありませんが、これを無効とするのが判例(大判明治38年5月11日民録11巻706頁)・通説です。
行為能力
上京して東京都で一人暮らしをしている未成年の大学生Aが、親から送られてくる仕送りの一部を貯金して50万円ほど貯めた。その50万円を頭金にして、念願のBMWを400万円で購入した。それを聴いた親は激怒した。さて、この未成年者AのBMWの売買契約と消費貸借契約(借金)はどうなるのでしょうか。
1.制限行為能力者制度
意思能力があるかないかは一見わからない場合があります。また、契約を結んだとき飲酒酩酊して意識がなかったということを後の裁判で証明することは困難です。
そこで、民法は、一般的に判断能力が不十分であろう者(制限行為能力者)をそれぞれのグループにして、これに保護者をつけて判断能力不足を補わせる仕組みを用意しています。これが制限行為能力者制度です。
制限行為能力者には、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人の4種類があります。
《さらに詳しく》
意思無能力者の行動が、前述したような極端な事案(4歳児が帽子を贈与する)を別とすれば、意思無能力であるということは外形上他者によって覚知されえない状況であることが、むしろ普通である。
そしてまた、本人自身は、自己の意思無能力であることを、または、行為の時点では意思無能力であったことも、自ら立証することの困難な場合が少なくないのみでなく、かれの相手方である者が事前に事態を察知して、トラブルの発生を回避することも、また、本人の意思無能力を事後的に立証して不当な損失を免れることも、困難な場合が少なくない。
というのは、「意思能力の有無は、個々の具体的な法律行為ごとに、行為者の能力・知能などの個人差その他をそのままふまえての、実質的個別的判断にかかるものであり、なんらかの画一的・形式的な基準によるものではない。したがって、問題になる法律行為がいかなる種類の行為であるかによっても判定が異なることがありうるというべく、また、責任能力の有無の判定にも、差異が生ずることがありうる。
ただ、実際には7歳程度の通常人の知能あたりが、意思能力の有無の分界線であることが多い、といわれる」とされている(幾代51)が、この分界線自体もあまり明解なものとはいいがたいのである。
このような難点を解決しようとするのが、制限行為能力者制度である。
2.制限行為能力者の保護
制限行為能力者制度では、保護者が代わりに契約を結んできたり(代理権)、事前に同意を与えたり(同意権)、事後に契約を取り消したり(取消権)、事後に同意を与えたり(追認権)することで、制限行為能力者を保護しています。
ただ、一律ではなく、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人でその保護の程度が異なります。
3.法人の行為能力
民法34条および一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条・197条の解釈として、行為能力制限説を採った場合、法人の行為能力という概念が存在することになります。行為能力制限説とは、民法34条は法人の権利能力を制限した規定ではなく、また一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条・197条は法人自身の不法行為に対する法人の責任を規定しており、権利能力が法人に及ぶことを前提とするとする説です。
学説 |
内容 | 効力 | 追認の可否 |
表見代理 |
権利能力制限説 (判例・多数説) |
法人の享有し得る権利は法人の目的の範囲に制限される。 | 絶対的に無効
(効果不帰属) |
不可 | 不成立 |
行為能力制限説 (我妻説) |
法人は,その目的の範囲内の行為によってのみ権利義務が帰属する。 | 無権代理規定の準用により追認が可能 | ||
代表権制限説 |
理事の活動及びその結果としての権利義務の帰属の範囲を制限するものである。 | 無権代理 | 可 | 成立可 |
内部的制限説 |
「目的の範囲」は内部的制限を定めたにすぎず,「目的の範囲」外の行為も対外的には有効である。 | 対外的には有効 | 問題とならず | 問題とならず |
過去問ではこのように出題されている
【問1】自己所有の土地を売却するAの売買契約の相手方に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例に よれば、正しいものはどれか。(2005年度)
1:買主Bが被保佐人であり、保佐人の同意を得ずにAとの間で売買契約を締結した場合、当該売買契約は当初から無効である。
2:買主Cが意思無能力者であった場合、Cは、Aとの間で締結した売買契約を取り消せば、当該契約を無効にできる。
3:買主である団体Dが法律の規定に基づかずに成立した権利能力を有しない任意の団体であった場合、DがAとの間で売買契約を締結しても、当該土地の所有権はDに帰属しない。
4:買主Eが婚姻している未成年者であり、当該婚姻がEの父母の一方の同意を得られないままになされたものである場合には、Eは未成年者であることを理由に当該売買契約を取り消すことができる。
正解:3
1 ×
被保佐人が、不動産その他重要なる財産に関する権利の得喪を目的とする行為(例えば本問のような土地の売却の契約を締結)をする場合には、保佐人の同意が必要です(民法13条1項3号)。保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意またはこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができます(同条4項)。当初から無効となるのではなく、取り消すことで無効となります。
2 ×
意思無能力者の行為は無効です(大判明治38年5月11日)。意思無能力者が締結した契約は、取り消して無効になるのではなく、当初から無効です。
3 ○
自然人以外で登記名義人になることができる(土地の所有権が帰属する)のは法律の規定による法人です(民法33条)。法律の規定に基づかずに成立した権利能力を有しない任意団体は登記名義人になることができません。なお、判例上、実質的に法人と同視できるような団体の場合は例外的に全構成員に総有的に財産関係が帰属できるとしています。ただ、それがすなわちその任意団体そのものが不動産の所有者となることを意味するわけではありません。
4 ×
婚姻している未成年者は成年と扱われるので(民法753条)、婚姻している未成年者は、未成年者であることを理由に当該売買契約を取り消すことはできません。なお、未成年の子が婚姻をするには、原則として、父母の同意を得なければなりませんが、父母の一方が同意しないときは、片方の同意だけで婚姻できます(民法737条2項)。片方の同意での婚姻であってもその効力は同じです。
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