この記事では代理権がないのに代理人として契約した場合果たしてどうなるのか?無権代理を解説!基本から応用まで詳しく見ていきます。
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この記事で学べること
代理権がないのに代理人として契約したら?
無権代理ってなに?
無権代理とは、そもそも代理権を持たないか、あるいは与えられた代理権の範囲外にもかかわらず、代理人であるとして行われた行為を指します。
例えば、本人が所有する不動産を、代理権を持たないAが無断で売却すると、それは無権代理行為に当たります。
また、その不動産について、Aが賃貸借契約を締結する権限しか持たない場合でも、勝手に売却すると、やはり無権代理行為になるわけです。
無権代理行為の効果は?
原則:契約は無効
例外:本人が追認すれば契約は有効
無権代理行為が行われた場合、その効果は本人に帰属しません(原則)。
つまり、無権代理人が行った契約は無効となります。
上の例で言うと、代理権がないのに本人所有の土地を売り払ったAの契約は「なかった」ことになるのです。
しかし、あくまでそれは本人の利益を考慮したもの。もし、本人が何らかの事情で無権代理行為を追認すれば契約は有効になります(例外)。
追認は、原則として、行為の時にさかのぼってその効力が生じます。ただし、第三者の権利を侵害できません。
無権代理行為の相手方は追認を求められる?
答え:善意でも悪意でも催告可
無権代理行為の相手方は、相当な期間を提示した上で、本人に対して追認を促すことができます(これを「催告」と言います)。
相手方としてはわざわざ契約したわけですから、成立させるために「追認してくれませんか」と本人にお願いできるわけですね。
しかし、その期間内に本人が返答しなかった場合は【追認を拒絶したもの】とみなされます。
なぜでしょう。
無権代理人は本人のあずかり知らぬところで勝手に動いている人です。本人は当然、無権代理行為が行われている事実を知りませんし、相手方に催告されても何のことだかさっぱりわからないのです。
そんな状況で、相手方の催告に対応しなかったからといって、契約が有効に、つまり「追認した」ことになってしまっては理不尽ですよね。そのため、本人が返答しなかった場合は追認拒絶となるわけです。
なお、相手方は、無権代理の事実を知っていた(悪意)場合であっても催告できます。宅建試験では要注意ポイントですね。
無権代理行為の相手方は取り消すこともできるの?
答え:善意であれば取り消し可
あくまで本人が追認しない間であれば、無権代理行為の相手方は、無権代理人との間で締結した契約を取り消すことができます。
追認は、相手方の催告に対して行うもの。相手方からすれば、本人が追認するかどうかが判明するまで、契約が無効か有効かがわからないわけです。
そうした不安定な状態にある相手方を守るため、民法では、相手方が無権代理による契約を取り消すことができるという規定を設けています。
ただし、取り消しを行う場合、相手方は無権代理について【善意】でなければなりませんので注意しましょう。
無権代理行為の相手方は無権代理人に責任追及できるの?
答え:履行または損害賠償を請求できる
本人が追認しない間であれば、契約内容について無権代理人が責任を負います。
相手方は、無権代理行為について善意かつ無過失なら、無権代理人に対して契約内容を果たせと履行請求するか、または損害賠償を請求することができます。
ただし、相手方が無権代理であることを知っていた(悪意)か、知らなかったことに過失があった場合や、無権代理人が制限行為能力者(未成年者など)だった場合には、無権代理人に責任は生じません。
無権代理と相続 ~本人や無権代理人が死亡したら?~
それでは、無権代理行為によって法律効果が宙ぶらりんの時に、本人や無権代理人が死亡したらどうなるのか。例題をもとに考えていきましょう。
無権代理の後に本人が死亡した場合はどうなるの?
Aにはひとり息子のBがいた。息子Bはギャンブルが大好きで、いつの間にか借金が莫大な額にふくれ上がっていた。
困り果てたBは父親Aの部屋からこっそり土地の登記簿と実印を盗み出し、Aの代理人として、父親A所有の土地を、債権者のCに売ってしまった。それを知ったAはショックのあまり死亡した。Aは息子B以外に血縁がいなかったので、その財産のすべてを息子のBが相続した。
さて、この場合、息子であり無権代理人でもあるBは、父親Aの有していた追認拒絶権をCに行使して、土地の引き渡しを拒むことができるでしょうか。
正解:Bは追認拒絶権を行使できない
ややこしい話ですが、宅建試験では重要なポイントですので、よく理解しておきましょう。
まず、本人が死亡することで相続というものが発生します。つまり、Aの有していた権利・義務は、唯一の相続人Bに相続されることになります。その中には、Bの無権代理行為における【追認拒絶権】と【土地の所有権】もあります。
ここに問題の種があります。
Bには無権代理人としての責任があります。それは、民法177条の履行義務と損害賠償義務です。損害賠償の場合はお金の話なのであまり問題にはなりません。問題なのは、履行義務です。
土地のような特定物の場合、代わりの土地をCに渡すことはできないので、相続した土地を渡す義務しかありえません。しかし、BはAの持っていた追認拒絶権、すなわち、「土地をCには渡さないといえる権利」をも相続しているのです。
この権利と、履行義務は相反するものです。どちらかしか選択できません。
ただ、結論はもう皆さんの頭の中にあるはず。そうです。Bに追認拒絶権を行使させて土地をCに渡さないという主張を認めることは、どう考えても理不尽ですよね。
では、その法的根拠を何に求めるか。
判例では、民法1条にその根拠を見出しています。つまり、信義誠実の原則に違反するので、Bには追認拒絶権の行使を認めないとしています。このような考え方を【禁反言の原則】とか【エストッペル】といいます。
無権代理の後に無権代理人が死亡した場合はどうなるの?
本人:追認拒絶権を主張できる
相手方:条件付きで損害賠償請求可
大変迷惑な話ですが、本人が追認や追認拒絶をしないうちに無権代理人が死亡した場合はどうなるのでしょう。
本人が無権代理人を相続したときは、本人は、無権代理人が死ななければ普通に行使できた追認拒絶権を主張できます。図で見ると、本人Aが追認拒絶権を行使すれば、Cは不動産を取得できません。
しかし、相手方Cが無権代理行為について善意・無過失であった場合で、無権代理人Bに対して、損害賠償請求を主張していた場合は話が別です。
この状態で、無権代理人Bが死亡した場合、本人Aは無権代理人Bの相手方Cに対する責任も相続したことになります。この場合、本人Aは追認拒絶できる立場にあったことを理由に、この損害賠償責任を免れることができません。
表見代理 ~本人にも責任があった場合は?~
次に表見代理により、本人にも責任が及ぶ場合を見ていきましょう。
表見代理ってなに?
表見代理とは「代理権がないにもかかわらず、あたかも代理権があるかのように見える場合に、信頼して取引関係に入った者を保護するため、代理の効果を認める制度」を指します。
表見代理が認められるケースは次の3つ。
①本人が代理権を与えたといいつつ実際は与えていなかった場合
②代理権の範囲を越えた場合
③前に存在した代理権が消滅した場合
表見代理が成立すると、本人は代理行為の効果帰属を拒めなくなります。
また、相手方は、表見代理を主張せずに無権代理人の責任を追及することもできます。
代理権があるかのような外観を作りだしたら?
答え:本人が責任を負う
例えば、本人が代理権を与えていないにもかかわらず、第三者に対して、ある特定の人に代理権を与えたことを表示した場合。
それを過失なく信じてしまった第三者が、特定人との間で契約を結んだ時、表見代理が成立するため、本人が責任を負うこととなります。
具体的な要件は次の通り。
①他人に代理権を与えた旨の表示をしたこと。
②※代理権を授与された旨の表示された人が、表示を受けた第三者と表示された代理権の範囲内で代理行為をしたこと。
③相手方が代理権のないことを知らず、かつそのことに過失がないこと。
※「代理権を与えた旨の表示」とは
ある人が自分の代理人であることを一般に信頼させるような行為について、それを許容する全てのケースを含みます。
例えば、AからBに「白紙委任状」を交付することは、その目的がどうであっても、Bからその白紙委任状を見せられたCに対しては、AはBを自分の代理人とする旨を表示したことになります。
代理人が権限外の行為をしたら?
答え:本人が責任を負う
代理人がその権限外の行為をした場合に、第三者がその権限があると信じてしまうような正当な理由があるときは、表見代理として本人が責任を負います。
表見代理の成立要件はこちら。
①代理人に何らかの代理権(※基本代理権)があること。
②基本代理権を越えた行為がなされたこと。
③相手方が権限内と信じる正当な理由があること。
代理人が直接本人の名で権限外の行為をした場合、相手方がその行為を本人自身の行為であると信じたことにつき正当な理由がある場合に限り、表見代理の規定を類推適用して本人が責任を負います。
※「基本代理権」とは
私法上の法律行為を行う権限をいいます。
公法上の行為や事実上の行為は原則として基本代理権に含まれません。
ただし、公法上の行為といっても、印鑑証明書の交付申請をする代理権のように、交付された印鑑証明書が私法上の取引に使われるものであって、それを予定している場合は、例外として、基本代理権に当たる場合もあります。
また、事実行為といえども、たとえば、ビラまきなどの事実行為ならまだしも、手形の発行などの場合は基本代理権となり得ます。
代理人が代理権消滅後に代理行為をしたら?
答え:相手方が本人に効果を主張できる
代理権消滅後に、元代理人であった者が代理行為をしたとします。
これに対し、相手方が善意で過失がない場合には、表見代理として相手方は代理の効果を本人に対して主張できます。
要件は次の通り。
①代理権が消滅したこと。
②相手方が代理権の消滅について善意かつ無過失であること。
無権代理人に対する責任追及と表見代理の主張が競合したら?
答え:無権代理人の責任追及ができる
表見代理の要件と、無権代理人に対する責任追及の要件の両方を満たす場合、相手方は表見代理の主張をしないで、無権代理人の責任を追及することができます。
過去問を解いてみよう!
AがBの代理人としてB所有の甲土地について売買契約を締結した場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。(2008年度)
1 Aが甲土地の売却を代理する権限をBから書面で与えられている場合、A自らが買主となって売買契約を締結したときは、Aは甲土地の所有権を当然に取得する。
2 Aが甲土地の売却を代理する権限をBから書面で与えられている場合、AがCの代理人となってBC間の売買契約を締結したときは、Cは甲土地の所有権を当然に取得する。
3 Aが無権代理人であってDとの間で売買契約を締結した後に、Bの死亡によりAが単独でBを相続した場合、Dは甲土地の所有権を当然に取得する。
4 Aが無権代理人であってEとの間で売買契約を締結した後に、Aの死亡によりBが単独でAを相続した場合、Eは甲土地の所有権を当然に取得する。
正解:3
【解説】
1 ×
不動産の売却の代理人自ら購入するような自己契約は禁止されています。
ただし、本人の許諾があれば許されます(民法108条)。本人の利益が不当に害されるおそれがあるからです。
代理権限を書面で与えていたからといって、自己契約によって、代理人が当然に土地を取得するわけではありません。
2 ×
同一の法律行為(契約などのこと)について、当事者双方の代理人となることは、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為などを除き、原則として禁止されています(民法108条 双方代理)。
本人や当事者の利益を害するおそれがあるからです。法的な効果としては無権代理になります。本問の場合、Aは、BとCの双方の代理人となり契約を甲土地の売買契約を締結しています。契約を締結したとあるので、債務の履行とはいえず、また本人があらかじめ許諾したとも書かれていません。
したがって、Aのした行為は無権代理となり、BCに効果が帰属しません。つまり、Cは甲土地の所有権を当然に取得しません。
3 ○
無権代理人が本人を相続した場合、自らした無権代理行為につき本人の資格において追認を拒絶する余地を認めるのは信義則に反するから、その無権代理行為は相続と共に当然有効となります(最判 昭和37年4月20日)。
本問の場合、無権代理人Aが本人Bを単独で相続したので、AD間の甲土地の売買契約(無権代理行為)は相続と共に当然に有効となります。したがって、Dは甲土地の所有権を当然に取得します。
4 ×
本人が無権代理人を相続した場合は、本人が追認を拒絶しても何ら信義に反するところはないから、被相続人の無権代理行為は、一般に、相続により当然に有効にはなりません(最判 昭和37年4月20日)。
本問の場合、本人Bが無権代理人Aを相続したので、本人Bは追認を拒絶することもできます。したがって、Eが甲土地の所有権を当然に取得するとまでは言えません。
さて、「無権代理」について見てきましたが、いかがでしたか。宅建試験的には重要な単元です。ぜひここは理解して本番に臨みましょう。
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