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この記事で学べること
抵当権の実行
抵当権は優先弁済的効力を有するので、抵当債務者の弁済期がきても弁済がない場合、抵当目的物を売却して、その売却代金から優先的に弁済を受けることができます。難しい言い回しをしましたが、金を返さなかったら担保にとった不動産をお金に換えて、そこから回収することができるということです。このとき、抵当権の実行が行われるのですが、その際の手続については民事執行法に定めがあります。
抵当権が実行されますと、抵当不動産の上に存在する留置権以外の担保物権はすべて消滅します。これを消除主義といいます。ですから、後順位抵当権者が競売を申し立てた場合であっても、先順位の抵当権も消滅し、先順位の抵当権者から順に競売代金から優先弁済を受けて行くことになります(民事執行法59条)。そして、抵当不動産に設定された用益権もまた原則的に消滅します。例外的に用益権が消滅しない場合が、法定地上権ということになります。
共同抵当
次に、共同抵当について説明します。
共同抵当とは、1つの債権を担保するために複数の不動産に抵当権を設定した場合をいいます。
たとえば、図のようにAに対する金銭債権を担保するために、A所有の甲地と乙地の両方に抵当権を設定するような場合です。
このように1つの債権が抵当目的物のすべてによって担保されることになるわけですから、担保力が増し、抵当権者にとっては有利に働きます。ただ、この場合、債務者Aが借金を弁済できないとき、どの物件から実行し、抵当権者が満足を受けたらいいのか。
また、目的物の価格がそれぞれ異なるわけですから、抵当不動産にDのような後順位抵当権者がいるような場合、その後順位抵当権者との利益をどのように調整したらよいのかが問題となります。
共同抵当の実行方法
AはBから5,000万円、Dから4,000万円の借金をしていた。Bに対しては甲地(6,000万円相当)と乙地(4,000万円相当)の両方に1番抵当権の設定をし、Dに対しては甲地について2番抵当権を設定した。
どのように抵当権を実行し、それぞれいくら配当を受けるでしょうか。
共同抵当の実行には、同時配当(392条1項)と異時配当(392条2項)の2つの方法があります。
同時配当とは、共同抵当となった不動産の全部を同時に競売して弁済を受ける方法をいいます。異時配当とは、1つずつ順番に競売する方法をいいます。
同時配当の場合は、それぞれの不動産から、それぞれの目的物の価格の割合に応じて弁済を受けていくことになりますが、異時配当の場合は、売却される順番によって、後順位者の立場がかわってしまい、不公平となる場合があります。その点を合理的に調整しようというのが392条2項です。
本件の場合で同時配当がされた場合には、1番抵当権者Bには、甲地と乙地の土地の値段の割合、すなわち6,000万円と4,000万円の割合ですから、3:2の割合でBの1番抵当権の被担保債権額5,000万円が割り付けられることになるため、甲地から3,000万円、乙地から2,000万円回収することになります。甲地の2番抵当権者Dに対しては、甲地の売却代金の残りの3,000万円が配当されることになります。
これに対して、甲地のみが競売された場合、甲地が6,000万円で売却され、そのうち5,000万円は1番抵当権者Bに配当されるが、残り1,000万円は2番抵当権者Dへ配当されることになります。このとき、Dが1,000万円しか取得できないのでは、同時配当の場合とあまりにもバランスを失することになります。そこで、同時配当ならば、1番抵当権者が乙地から利益を受けられた限度、すなわち2,000万円の限度において、2番抵当権者Dは乙地に代位していくことができるとされています。
その逆に、乙地から先に競売がなされた場合、まず、乙地が4,000万円で売却され、そのすべてが1番抵当権者Bに配当されます。次に、甲地が6,000万円で売却された場合、1番抵当権者Bには残りの債権額である1,000万円が配当され、さらに残額の5,000万円から2番抵当権者Dに4,000万円が配当されることになります。この場合、同時配当の場合や甲地を先に競売した場合と結論が異なりますが、誰も損しませんのでこの結果でよいということになります。
同時配当 | 甲地のみ競売 | 乙地から競売 | ||||
甲地から | 乙地から | 甲地から | 乙地から | 甲地から | 乙地から | |
Bへの配当 | 3,000万円 | 2,000万円 | 5,000万円 | 1,000万円 | 4,000万円 | |
Dへの配当 | 3,000万円 | 1,000万円 | 2,000万円 | 4,000万円 |
共同抵当の実行方法―物上保証人がいた場合
Bの1,000万円の債権を担保するために債務者Aの所有地(甲地:時価1,000万円)と物上保証人Cの所有地(乙地:時価1,000万円)に1番抵当権が設定された。なお、甲地には、2番抵当権者D(被担保債権額500万円)がいる。
この場合、BがCの乙不動産から弁済を受けたときの処理はどうなるでしょうか。
このように乙地が第三者の所有、すなわち、乙地が物上保証人の提供した土地であった場合には、物上保証人Cの利益も考慮しなければなりません。
ここで考えるポイントは、物上保証人は前に勉強した保証人と同様に、負担部分がないということです。物上保証人はあくまでも保証人であって債務者ではないのです。ですから、保証人と同じく、物上保証人が提供した不動産が抵当権の実行によって競売された場合は、物上保証人が債務者Aに求償していくことになります。この点を理解していれば、ここの話しは難しくありません。
結論としては、物上保証人Cは、民法500条の規定によって、Bが甲地に有した抵当権の全部について代位します(最判昭和44年7月3日)。
というのは、物上保証人は、他の共同抵当物件である甲地から自己の求償権の満足を得ることを期待しており、その後に甲地に第2順位の抵当権が設定されたことによって右の期待を失わせるべきではないからです。
ちなみに、甲地が先に競売されると、物上保証人Cには負担部分はないので、甲地の後順位抵当権者Dは物上保証人の所有する乙地の抵当権に代位することはできません。
同時配当の場合も、392条1項の割り付けはなされず、まず、甲地から弁済にあてられることになります。つまり、甲地が先に競売されたときと同じになります。
過去問ではこのように出題されている
【問 7】 Aは、Bから3,000万円の借金をし、その借入金債務を担保するために、A所有の甲地と、乙地と、乙地上の丙建物の上に、いずれも第1順位の普通抵当権(共同抵当)を設定し、その登記を経た。その後甲地については、第三者に対して第2順位の抵当権が設定され、その登記がされたが、第3順位以下の担保権者はいない。この場合、民法の規定によれば、次の記述のうち誤っているものはどれか。(2001年度)
- 甲地が1,500万円、乙地が2,000万円、丙建物が500万円で競売され、同時に代価を配当するとき、Bはその選択により、甲地及び乙地の代金のみから優先的に配当を受けることができる。
- 甲地のみが1,500万円で競売され、この代価のみがまず配当されるとき、Bは、甲地に係る後順位抵当権者が存在しても、1,500万円全額(競売費用等は控除)につき配当を受けることができる。
- Bは、Aの本件借入金債務の不雇行による遅延損害金については、一定の場合を除き、利息その他の定期金と通算し、最大限、最後の2年分しか、本件登記に係る抵当権の優先弁済権を主張することができない。
- Bと、甲地に関する第2順位の抵当権者は、合意をして、甲地上の抵当権の順位を変更することができるが、この順位の変更は、その登記をしなければ効力が生じない。
正解:1
- × 一個の債権を担保する抵当権が複数の不動産に設定されていることを共同抵当といいます(民法392条)。共同抵当権の目的物に抵当権が実行され同時に代価を配当するときは、各不動産の売却代金の割合に応じて配当を受けます(民法392条1項)。同時配当では、Bは特定の不動産を選択して優先的に配当を受けることはできません。後順位抵当権者が配当予測するのを可能にするためです。
- ○ 共同抵当で、特定の不動産のみがまず競売され、その代価が配当されるとき(異時配当)は、共同抵当権者は、その売却代金全額まで債権金額の優先弁済を得ることができます(民法392条2項)。本設問の設定では、債権総額が3,000万円で、甲地の売却代金は1,500万円の為、Bは債権の一部しか弁済は得られないことになります(一部弁済)。Bは完済を受けていないため、土地・乙や建物・丙へのBの抵当権は消滅していません。甲地にかかる後順位抵当権者は、同時配当を受けた場合を基準とした一定の範囲で、土地・乙、建物・丙への共同抵当権者Bの抵当権の代位行使ができるので不利益があるとは言えません。
- ○ 抵当権設定後にも、後順位抵当権者や他の債権者などが抵当不動産に利害関係を持つことがあります。そのため、民法では先順位抵当権者以外の者の利益を保護する為に、被担保債権の範囲を制限しています。後順位抵当権者やほかの債権者がいる場合は、特別な登記をしていなければ、債務の不履行による遅延損害金については、利息その他の定期金と通算し、最大限、最後の2年分しか、抵当権の優先弁済権を主張することができません(民法375条)。
- ○ 抵当権の順位の変更は、各抵当権者の合意によってすることができます。また、利害関係人がいればその承諾も得る必要があります(民法375条1項)。この順位の変更は登記をすることによって効力を生じます(同条2項)。
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