営業トークなしでも成約
以前から言っていることだが、「賃貸仲介」とはなんだろうか。
私が賃貸仲介の意義に疑問を感じ始めたのは、2010年春に完成した私がプロデュースした63戸の2LDKを中心とした賃貸マンションがきっかけだった。
大型物件だったが、無人駅が最寄り駅の、皆が集客に不安を覚えるエリアのもので、私も正直にいって、米国金融危機の影響を受けたトヨタ・ショック直後だったこともあり、完成3ヶ月くらいで満室になればいいなくらいに考えていたのだが、なんと、完成2ヶ月前に全室に申し込みが入るという結果となった。
そもそも、私の企画内容に地元の業者さんは反対しており、正三角形の建物の形状、一部北向きのワンルーム、リビングが16畳もあるのに、なぜ対面カウンターキッチンにしない、東京ではいいかもしれないがこんな変形の1LDKタイプはダメだ、必ず失敗すると散々な言われようであった(笑)。
大逆転の結果になった。
では入居者へのクロージングトークははたしてどのように行われたのかを調べると、ほとんど営業トークをしていないというではないか。入居者は事前のWebでの情報で物件を理解した上で内見しているので、説明もそれほど必要ないという。
私も30年ほど前この業界に入り、カウンター接客をして、物件に案内して、クロージングをするという営業をしたものだ。なんと成約率100%を誇る中年の営業の方がいたりして、その営業トークを盗もうとしたものだった。当時はあきらかに、営業マン単位でかなり「成績が違った」。この人には敵わない、と思ったものだ。
いまは違う。
昔と違って今の部屋探しの人は、情報を沢山持っているのだ。それこそ、営業マンよりその物件やエリアのことを知っていたりするのだ。完成披露会で、ある地方の社長さんに今回のことを言ったら、あっさりと、いまは仕組みでやっているので、営業トークの質をそれほど求めていない。アルバイトさんでもいいんだ、と言われたのもショックだった。こんなことをいうと営業の現場で頑張っておられる方は気分を害するかもしれない。
しかし、7年前、私が「仲介って必要なの?Webが代替できるのでは?」と言い始めたとき、かなり反発を受けた。「そんな、藤澤さんがいうように、ネットで物件を選べるひとは10人に1人もいないよ、営業が対応して初めて物件は決まるんだよ」と言われたものだが、そう言っていた同じ人が、いまは、「今の入居者は物件を『確認』に来てるだけだね」などというのだ。随分、時代は変ったと思う。
いま最大の営業トークは、店頭に来た人が、「この物件を見せて欲しいのですが」、と自分でプリントした物件の資料を出したとき、「流石、お目が高い!良い物件を選ばれましたね」と褒めることであるという。今の、20代、30代の人は、ITリテラシーが想像以上に高いと思われるし、Web上でものの真偽を見分ける能力も高いのではないか。我々も「食べログ」でレストランを選ぶではないか。3.5点以上なら安心だな、と。
私は、賃貸仲介が無くなるとは思っていない。
しかし、そのビジネスモデルは大きく変わる。タクシーで内見をアウトソーシングしている会社があるが、成約率は変わらないという。
(筆:藤澤雅義/週刊住宅2017.04.24-05.01 掲載)