物件不足エリアで空室が続く部屋
その業界や、そのエリアやその会社にどっぷり浸かっていると、他業界の人や第三者の人ならすぐに気づいてしまうようなことも、まったく目に入らなくなってしまうことがある。
よって、我々はいつも目を見開いて、物事を冷静に客観的にみる習慣を身に付かなければならない。(藤澤雅義)
入居者目線で問題点把握
復興バブルという言葉が適切かどうかはさておき、3.11の大震災は間違いなく東北の住宅に影響を及ぼした。震災以前のエリア内の平均稼働率が75%という東北のとある地域では、空室が一向に埋まらずオーナーは悲鳴をあげていた。しかし、震災後の稼働率は95%と一気に改善したものだ。
今まで長期空室状態だった民間の賃貸住宅を県が借り上げ、そこに避難してきた人々が移り住んだ結果だ。需要に供給が追いついていない状況のため、震災前の募集時より高く賃料設定をして新規入居者を迎え入れるオーナーも散見され、まさに復興バブルの恩恵を受けている。
しかし冷静に考えて欲しい。
地元の仲介業者も口をそろえて「貸す物件がない」と言っており、それほどまでに住宅が不足しているにもかかわらず、エリア内には空室の部屋も少なからずあるのだ。まずこの状況に地元の仲介業者は気付いていない。
私は「この状況下でも決まらない物件を見せて欲しい」とお願いし、地元の仲介業者に案内をしてもらった。
その物件(図)は総世帯4戸で空室が2戸、震災前からずっと空いているとのこと。間取りは2Kで築年数は30年を超えており、バランス釜風呂・和式便所と、確かに入居者が敬遠しがちな設備ではあるものの、住宅不足の状況下においてはぎりぎり許容範囲なのではないかと思った。
しかし、部屋をよく確認していると洗濯機置き場がどこにもない。
案内してくれている業者に「この物件の洗濯機置き場はどこですか?室内には置く場所は見当たりません。東京の感覚だと玄関の外の廊下に置くケースや、ベランダに設置する事こともありますが、この物件はどちらにも水栓が来ていないようですし…」と質問をした。
それに対し、業者の回答は「東北エリアで洗濯機を外に置いたら凍ってしまいますよ」と一笑するのだ。確かに寒冷地では洗濯機を外に置くなどという発想は生まれないのだろう。
ならば、この物件の住人たちは洗濯機をどこに置いているのだろうと再び業者に質問すると、「確かにそうですね、どこに置いているか分からないです」と驚くべき回答が返ってきたのだ。
そんなことではこの物件が満室になるはずがない。
復興バブルにも関わらず5%も空室があることに鈍感であり、空室物件の問題点に気付かず、オーナーに改善提案することが出来ず、そもそも建築当時に「寒冷地では室内洗濯機置場が必須」ということに気付かないという、4つもの問題点がこの物件を空室にしているのだ。
問題点を見つけるには物事を俯瞰してみることが重要だ。すると日頃の業務を見る目が変わる。それによって問題点が浮き彫りになり、重要なポイントがみえてくるのだ。
この空室物件の結末は、次回ご紹介したいと思う。
(筆:原田亮/週刊住宅2015.02.09掲載)