値下げ額などルール化
家賃の値下げ交渉は悩ましい問題だ。はっきりとした答えのない課題といえる。
往々にして相手の顔を伺いながらの交渉ということになってしまうのだが、本文にもあるように、オーナー側としての一定のルールが存在していたほうが良い。
それは経験に裏付けされた成功の確率の高い法則であって、対応マニュアルともいうことができるだろう。それがあることによって、業務がシンプルに迅速になる。仕事はすべてこのような仕組みで出来上がっている。(藤澤雅義)
借主から「家賃の値下げをして欲しい」という交渉。 よくあるのは、同物件内の他部屋が、自分の家賃より安く募集に出ていたからというものだ。値下げをしないなら、退去を検討するといった言葉が続くこともある。
さて、こういった値下げ交渉に対して、どのように対処しているだろうか?
まず、考え方として誤解しないで頂きたいのが、現在支払っている家賃より今の募集家賃が安いからといって、当然に値下げの必要があるのではないということだ。 それぞれの契約は、その締結時期や状況、家賃以外の条件も異なるため、いくら部屋の大きさや所在階等が同じだとしても、その家賃を必ずしも揃える必要はない。
一方、借主には支払っている家賃が不相当だと思えば行使できる権利として「賃料減額請求権」がある。家賃を下げて欲しいと言える権利だ。しかし、これも値下げを要求すれば直ちに家賃が減額されるものではない。貸主が値下げ要求に異議を唱えれば、調停等で借主の要求が正当とされない限り、借主は今まで通りの家賃を支払わなければならない。
つまり理屈上では、他部屋の募集家賃が安いことを理由に値下げ交渉があっても、NOと突っぱねてしまうことはできるのだ。しかし、それで退去されてしまっては、空室損が発生するうえ、再募集時の家賃も下がってしまうかもしれない。
だからこそ、そうならないための落としどころを探ることになるのだが、そこに一定の目安やルールが無いと、現場が手さぐりで値下げ交渉に応対することになり苦労をする。応対が後手に回ることで、足元を見られてしまうこともある。
当社では、現家賃と再募集時の家賃との差額の50%を値下げの上限目安としている。 例えば、現家賃と再募集家賃に月額1万円の差があるならば、値下げは最大でも月額5,000円だ。5,000円を超える減額をしないことで退去に至ってしまうことはほとんど無い。値下げの額ではなく、多少でも値下げを勝ち取ったという事実で、借主には納得感があるのだろう。
本来、賃貸経営におけるお得意様とも言える長期の借主が、新規借主よりも高い家賃を払うというネジレ現象を、根本的に考えなければという気持ちもあるが、まずは目先の値下げ交渉への対処を考えなければならない。
それには、
①値下げ交渉に対する目安やルールを定める、
②毅然と、スピーディーに応対することが大切だ。
値下げ交渉に対して、ダラダラと何度もやり取りを繰り返しても良い結果は生まれない。
(筆:先原秀和/週刊住宅2015.05.18掲載)