共有ラウンジ設置で増収入
シェアハウスは基本的に、キッチン、バス・トイレ、リビングという自分の居室以外が全て共用となる。各部屋にそれらのものはないのだ。よって、新規で建築する以外は、社員寮のリニューアルものなどが多い。
自分の専有部分が普通にあって、かつ共用リビングがある、というものであるなら、2〜3の既存の部屋をつなげて改装すれば、こと足りる。ほとんど全ての物件に可能性があることになる。差別化の戦略として一考したい。(藤澤雅義)
シェアハウスが普及し始めたころから、賃貸の入居者ニーズは変わりつつある。個人の生活を前提としながらもくつろぎの時間を誰かと共有できる、そんな新しい住まい方に着目することで物件の価値を上げることに成功した案件がある。
その物件は35世帯あるごく一般的なワンルームなのだが、1部屋のみ貸出をしていない40㎡弱の事務所があった。当社は、賃料を生み出さないその事務所をリノベーションし、コミュニティ・ラウンジとして生まれ変わらせた。
ラウンジは、ワンルームを2室つなげた間取りでキッチンはカウンターテーブル付き、ソファ・ダイニングテーブル・壁掛け型液晶TVを設けたオーディオルームという間取りだ。コストは家具・家電を設置する費用まで含めて約500万円。
この物件の一番のポイントは自分の部屋(専有部)に今までどおり住まい続け、建物内には共有のラウンジがあるということ。つまり入居者は「ワンルームときどきシェアハウス」という住まい方を味わうことが出来るのだ。
ラウンジ化以前の物件の過去1年間のデータを調べると、平均賃料は戸あたり6万円で解約率は28.5%で10世帯の空室、稼働ベースの空室率は6.5%、平均空室期間は83日だった。
その状態が、ラウンジ化後には空室は全て決まり、新たな退去は3部屋生じたが平均空室期間は17日まで圧縮することが出来た。年間の増加した賃料(営業純利益:NOI)は1883万円から2007万円で124万円の増収入だ。
まとめると、改善前の物件の価値は2億6902万円だったのが、改善後は2億8683万円となった。その差額は約1781万円で、追加投資をしたリノベーションコストの500万円を差し引いても約1281万円もの価値が上昇したということになる。この計算式を別表で確認していただきたい。
ポイントは「収益還元価格V(価値)=I(営業純利益:NOI)/R(利回り)」という式だ。 利用していない事務所を居室へとリノベーションすることで賃料を新たに稼ぎだすのではなく、賃料は生み出さないが入居者が気軽に集い利用できるコミュニティ・ラウンジへと生まれ変わらせた結果、「解約の抑止」「空室日数の圧縮」「周辺物件との差別化」といった効果を生み出した。
このような分析をしっかりと行い、オーナーへ提案し物件の価値を上げることこそが、プロパティマネージャーの使命ではないだろうか。
(筆・原田亮/週刊住宅2015.09.21掲載)