身元確認などで損失拡大も
高齢者の単身住まいは、本当にいろいろ大変だ。かといって契約を断るわけにもいかない。本文にあるように、これからはどんどんこういう大変なことが起こるのだろう。管理会社の姿勢と能力が問われる時代だ。
ある意味、我々に管理会社にとってチャンスと言える。(藤澤雅義)
国立社会保障・人口問題研究所の統計調査によれば、わが国の高齢化と単身世帯数の増加は今後も進み、2035年には、65歳以上の2割以上が単身世帯となる見通しだ。単身の賃借人が死亡した場合、部屋の明け渡しやリフォーム工事をどのように進めるか。通常は連帯保証人や遺族(相続人)と連絡をとり、これらを進めることになる。
しかし、賃借人に身寄りがない場合、関係者と連絡を取れず、明け渡しが進まないことがある。これが大きな問題だ。
当社の管理物件で生活保護の単身高齢者が亡くなった。明け渡しを進めるため、遺族と連絡を取りたいが、管理替え物件だったこともあり、全く情報がない。役所に相談するものの、簡単に遺族の連絡先を教えてくれるわけもなく、救急搬送した消防、搬送先の病院、警察、近隣住人などに当たってみるも情報が掴めない。結局、手間と時間がかかるが、役所へ出向き、賃借人の戸籍を第三者請求して遺族をたどり、ようやく遺族と協議が始まる。
別の事例では、故人が過去数十年に何度も再婚離婚を繰り返し、この間、至るところに多くの子供(相続人)を残したことで、それらの相続人の戸籍を調べるために何度も役所に足ぶこととなり、大変骨が折れる思いをしたこともあった。
さらに、ようやく相続人がわかっても、彼らが相続放棄していることも多い。家庭裁判所に問い合わせて、相続放棄の有無を確認することもできるが、これも必要書類を揃えるだけでも結構な手間がかかる。相続人全員が相続放棄したからといって、勝手に荷物を処分することはできない。自力救済に当たるためだ。この場合、家庭裁判所に相続財産管理人を立ててもらい、一定期間の公示などを経て、ようやく明け渡しに着手できる。
ただし、一連の手続きには数カ月程度の期間がかかるため、この間の家賃収入はなく、その後の処理もオーナー負担となる。このように、単身の賃借人の死亡は、場合によっては、管理会社、オーナー双方に大きな負担となる。
日頃から親族の連絡先を把握しておくこと、そのために契約書類や業務マニュアルを改善するなどの事前対策は必要だが、賃借人の死亡や相続放棄そのものを避けることができない。高齢者の単身住まいが増えるこれからの社会において、こういったリスクから事業者を保護する制度も求められているのではないだろうか。
(筆:片平智也/週刊住宅2016.1.25 掲載)