全犬種受入れで稼働率98%
アメリカでの物件視察は楽しいものだ。日本と違って、スケールが大きいので、差別化のためのコストが大胆にかけられている。共用の施設、たとえばプールがあるのはあたりまえ、またプール・バーがあったり、バスケットコートにボーリングのレーンがあったりもする。今回の案件は、あまりコストをかけずに「運用法」に投資した物件だ。(藤澤雅義)
先日、アメリカの不動産管理会社を視察させてもらう機会があった。訪問した物件の中で、差別化戦略に取り組み、物件再生に成功した興味深い事例があったのでご紹介したい。
ネバダ州カーソンシティにあるアパートメント。総戸数は152戸と地域で3番目の規模、今年で築35年になる物件だ。現在の管理会社に切り替わったのが約10年前。その当時、塀や建物はくたびれた印象、通りから見える空き地には雑草が伸び放題、いったい何から手を付ければ良いのやらという状況だったそうだ。稼働率は60%と低迷していた。 管理会社は「ペット飼育」をテーマに徹底的に差別化することを決めた。具体的な手法は次の通りだ。
【共用部リニューアル】
外壁と塀を塗装し、通りから見える空き地をドッグランにリニューアルした。ドッグランは大型犬用、小型犬用の2種類があり、どんな犬種でも、また、大きさも問わず飼育できる。飼育する犬種を問わないのは地域でこの物件だけだ。
【契約条件変更】
ペット不可だった契約条件をペット可に改定し、飼育ルールを定めた。驚いたのは、飼育するペットの「DNA鑑定」を入居時に義務化していることだ。予めDNAを登録しておくことで、敷地内に糞の不始末があると、その糞のDNAから飼い主を特定し、罰則を課す契約になっている。
【広告戦略】
当時、地域の新聞に広告掲載する競合物件が無かったため、差別化の一環で広告掲載したところ大きな反響があった。それ以来、地域の新聞には、毎回違う犬の写真を使ったイメージ広告を掲載している。継続的にブランディングすることで地域での認知度が高まった。これらの取り組みが功を奏し、現在の稼働率はなんと98%。今では地域でナンバーワンの人気物件だ。
一方で、弱みもある。35年間ほとんどリニューアル工事をしていない専有部は、室内設備が陳腐化しており、正直にいって魅力的とは言えない。今後、専有部の弱みを克服すべく、これまでの高稼働によって得られた利益を元に、室内のリニューアルを行う予定とのこと。ペット化物件そのものはそれほど目新しいものではないが、本物件はペットのために思い切った設備投資を行い、規約の緩和を中途半端にやらなかったことがカギだと思った。
空室対策で物件の企画をする際には、やはり徹底したほうがいいのだ。
(筆:片平智也/週刊住宅2016.2.22 掲載)