客観的分析で選択肢増やす
我々管理会社の仕事で一番重要なことといえば、リーシングということになるかもしれない。しかし、多くの会社があまり得意ではないかもしれないが、長期的な視野にたった戦略の提案をすることも大事だ。そのためには、まず、「建物診断」をすることが有効ではないか。今後かかるはずのコストを明確にしてゆくことで、オーナーが判断し易くなるのだ。(藤澤雅義)
「大規模修繕工事を提案したが、オーナーに納得してもらえない。」
管理会社のスタッフなら誰もが経験したことがあるのではないだろうか。建物の価値と性能を維持するためには定期的なメンテナンスが必要だ。とはいえ、賃貸の場合、予め長期修繕計画を立てているオーナーは少数派だ。特に大きな費用がかかる大規模修繕工事は判断を先延ばしにされることが多い。オーナーが判断を先延ばしにするのは、何も金銭的な問題だけではない。
我々管理会社が、オーナーが納得するだけの情報を提供していないことが原因ではないだろうか。
当社ではオーナーに大規模修繕工事の提案をする際、次のような段階を踏んで提案する試みを始めた。
1.「必要性の把握」
まず、担当者は建物の状態を調査し「建物診断書(インスペクション)」を提出する。これによってオーナーに建物の現状の課題、放置する危険度、工事の必要性を理解してもらえるのだ。
2.「優先順位」
次に「長期修繕計画」をオーナーとともに作成する。診断書にある課題の対応策、その実施時期をあえてオーナーと一緒に考え、優先順位を決めてゆく。意外にもこの段階で、この際建物を売却してしまおうか、ということも検討課題に上がるのだ。
大規模修繕をする場合には、その資金をどう手当するかを検討することになるが、それには、
3.「財務分析」が必要となってくる。
ここでは物件収支の見直しに加え、市場分析や売却価格の査定を行うことに自然となってくる。その結果、当初は大規模修繕工事を検討していたが、やっぱり売却しようという判断になることも最近では多い。管理会社は、すべての選択肢を検討できる情報を提供できなければいけないのだ。
もう一つ重要なことがある。
それは報告書の「客観性」だ。管理会社の主観で書かれた報告書はオーナーの心に響かない。
客観的なほど説得力が増す。
「建物診断書」には国交省監修の「建設住宅性能評価解説」を、「長期修繕計画」には同じく国交省の「長期修繕計画作成ガイドライン」を、「財務分析」にはIREM JAPANの「全国賃貸住宅実態調査報告書」を、といったように客観性な指標や判断基準も用いた論理的な報告書にする必要がある。
さらに、担当者が建築士、建築施工管理技士、ホームインスペクターといった資格を取得することでも説得力が増す。社内でこういった資格取得を啓蒙することも大切だと思う。
(筆:片平智也/週刊住宅2016.3.28 掲載)