スマホ1台で巡回レポート
フィンテックならぬ、不動産テックという言葉が使われ始めた。数年前から言われているフィンテックはファイナンス(Finnance)+テクノロジー(Technology)のことで、ネット証券のような金融ITを意味するが、不動産テックは、不動産+テクノロジーのことだ。
流動性や情報量が低い不動産仲介をネットで変革する、という概念が先行しているが、我々賃貸管理業務の改革にもその波は来ている。大変便利で合理的である。(藤澤雅義)
不動産管理会社が物件巡回を行う際の必需品といえば、デジカメ、ボールペン、手書きチェック用紙の3点だ。チェック項目に○×をつけ、簡単なコメントを記入し、必要箇所をデジカメで撮影する。今のように梅雨時期だと、傘をさしながら、左手にチェックシート、右手でペンとカメラを持ち変えながら作業するのだが、ご想像の通り大変やりにくい。
チェック用紙は雨で濡れ、ペンやカメラをうっかり水たまりに落としてしまうこともある。さらに、会社に戻ってからエクセルのレポートに書き換える作業は典型的な二重業務であり、効率が悪く時間がとられる。「報告書を作ること」が仕事になってしまい、肝心の「オーナー提案」が後回しになってしまう。
以前からスマホで簡単に巡回レポートを作れる仕組みがあればと思っていたのだが、なかなか思い通りのものが見つからなかった。これを不動産テック企業に相談したところ、「スマホ巡回アプリ」を共同開発することとなり、これが完成した。
現地で使用するのはスマホ1台のみ。
巡回アプリを起動すると、エントランス、駐輪場、ゴミ置き場・・・といったように順にチェック項目が表示される、これに沿って画面上で○×を選択する。
写真を添付したい場合はアプリ上でスマホのカメラを起動し撮影することで、該当項目に写真が納まる仕組みだ。
何よりも画期的なのは、「Siri(音声認識アプリ)」が使えることだ。コメントを記録したい場合、アプリ上でSiriを起動させ、「外壁にクラックあり」などとスマホに話しかけると該当項目にコメントを記録される。これまで両手でも足りなかった巡回チェックが、スマホ1台で行えるようになった。
また、スマホで記録した情報はWeb上で自動的にレポート化されるので、事務所に戻ってレポートを作成し直す必要も無い。担当者が月間40件の巡回をし、現地作業とレポート作成で1件あたり30分の時間短縮ができると仮定すると、月間20時間の時間が作れることになり、これまで後回しにしていたオーナー提案などの有効な時間を増やすことができる。
注意点は、担当者がスマホに話しかけている様子が、通行人や入居者から不思議そうな目で見られることくらいだ。
こういったITテクノロジーは我々の業務を大きく変える可能性を持っている。不動産テックの進展により、今まで実現できなかったアイデアが実現できる環境になってきた。私たち不動産管理会社において、こういったITテクノロジーを上手に業務に取り入れることができるかが益々重要になっている。
(筆:片平智也/週刊住宅2016.07.18 掲載)