高くても低くても問題
不動産業は一般に、離職率が高い業種と言われている。それは会社にとって、良いことでは当然ない。ようやく一人前になったなあと思ったら退職、では経営陣も上司も気持ちが萎える。しかし、離職率が低すぎるのも問題である。それは「ユルイ」会社なのだ。(藤澤雅義)
企業は成長に伴い人材が流動する。良い人材が順調に増え続けば良いが、一定の離職が発生するため、必ずしも思い通りにはいかない。一般的に不動産業は、他の産業に比べ離職率が高い(定着率が低い)と言われているが、賃貸管理業にもその傾向は当てはまるように思う。
離職には、独立・出産・配偶者の転勤などの「防ぐことができない離職」と、
人間関係・仕事の仕方・会社の制度への不満などの「防ぐことのできたかもしれない離職」がある。
前者はやむを得ないが後者は一考の必要がある。
後者の離職の原因は様々だが、
①サービス残業が多い
②給与制度や人事評価が納得いかない
③仕事に面白さ(やりがい)を感じない
④クレーム対応ばかりで嫌になった、などのことが挙げられる。
離職率とは、従業員が一定期間どれくらいの割合で会社から退職をしたのかを表す指標であり、「離職者数/年度末の総労働者数」でカウントできる。離職率が高ければ、人材が会社に定着していないことを意味する。
一般的に、厳しいノルマ制度、劣悪な会社の雰囲気や人間関係、ネガティブな職種が多いなどのケースは、離職率が高い。
当社(アートアベニュー)の場合は、直近5年の平均離職率は12%程度であるが、一般に10〜15%程度に収まっていれば、適正な離職率だと言われている。
最近、ある地方で離職率が80%もある管理会社があると聞いた。つまり10人中8人が一年で退職してしまうわけで、これでは正直、クライアントからの信頼も得にくいため、企業の成長は見込めない。
本当は従業員からしてみても、せっかく入社するのであれば、長く働きたいはずである。従業員に問題があることもあるが、会社に問題があることも多い。
この離職率、低ければ良いというわけでもない。
離職が極端に少ないことで人材が固定され、組織全体が凝り固まった考えを持ち、保守的な傾向に陥ることもあるためだ。
また、ラクができる環境で緊張感も少なく、居心地が良すぎる会社になっている可能性も考えられる。ある世界的にも有名な不動産会社では、離職率の目標を10%にしているという話を聞いた。給与も高額であるがゆえ、ポジションにしがみついて仕事をしないケースも散見されるのであろう。
有効求人倍率が1.37倍という採用難で、優秀な人材が集まりにくいご時世である。部署・会社全体の離職率を把握して、入社希望する新入社員が安心して働ける離職率を提示してあげられる環境を目指したい。
(筆:今井基次/週刊住宅2016.09.26 掲載)