旅館から学ぶ〝おもてなし〟
賃貸業界の繁忙期真っ只中だが、皆さんの会社はまだまだ忙しいだろうか。今年の繁忙期は当社は業務の合理化を進めて昨年の同じ時期よりは、少々余裕が出てきたようだ。その余裕を、「新しい入居者への気配り」に振り向けることができればいいのだが。(藤澤雅義)
新規入居が増えるシーズンだが、この新規入居直後のクレームが多いことをご存じだろうか。当社コールセンターの入電データでは、新規入居者のうち約12%、つまり約8人中1人の新規入居者が何かしらの不満を入居早々に感じて声をあげているのだ。
この入居直後のクレームで大半を占めるのが、生活上で必ず対応を要する致命的な不具合ではないが、不満があり対応をして欲しいというものだ。例えば、建具の建て付けが悪く使いにくい、クロスや床の汚れが気になるなどだ。「室内状況が入居者の期待していたクオリティではなかった」ことによるクレームとも言える。原状回復工事で修繕すべき箇所を見落としたという場合もあるが、多いのは「これくらいは修繕しなくてもいいだろう」と判断し放置していた部分に対する不満だ。
このように、貸手側の思惑と借手側の期待にズレが生じてしまう原因の1つには、我々貸手側に「おもてなしの精神、お客様(入居者)を歓迎する気持ち」が不足しているということが潜んでいるように思う。
乱暴に言えば、お客様(入居者)に満足してもらおうというサービス精神の欠如だ。
しかし借手市場が加速する昨今、入居者にどれだけの「満足」を提供できるのかは、賃貸経営を成功させるために非常に重要になってくる。物件の選択肢が多くある入居者が、満足度の低い部屋や管理会社を積極的に選んだり、そこに長く入居してくれることは無いからだ。
建物(部屋)の利用を提供するという点で同じステージにいる旅館やホテル。彼らは、お客様(宿泊者)に満足してもらうために何をするべきかをいつも考え工夫している。
写真は、私が宮城県内の旅館に宿泊した際に部屋の入口に置かれていたものだ。
ちょっとしたことではあるのだが、意表をつかれた演出に触れて宿泊満足度がぐっと上がったことを覚えている。ある山奥の宿では、スタッフが悪路のドライブで車についた泥を丁寧拭いてくれていたこともあった。偶然、その姿を見かけた瞬間にその宿のファンになってしまった。
少しの心遣いと良い意味での意外性が心地よい満足をもたらしてくれるのだ。入居者満足のために、我々が旅館ホテル業界から学べることは多い。彼らの持つ「ホスピタリティ(=心からのおもてなし)」を学び取り入れ、賃貸管理業に「サービス業」の要素を加味していくことができれば、我々管理会社は次のステージに進んでいくことができるのではないだろうか。
(筆:先原秀和/週刊住宅2017.03.27 掲載)