20数年ぶりの高い有効求人倍率もあって、いまは採用に苦労するようになった。退職する社員も意外に今より大きな会社に転職できたりするものだから、 退職する人も以前より多くなっている気がする。しかし、離職率が高い会社とそうでない会社があるのも事実だ。離職率が高いのに、それを普通のことのように感じてはいないだろうか。社員の離職には失うものが多い。(藤澤雅義)
従業員の退職は、人材そのもの(退職者固有のスキル)以外にも失うものがある。
以下にいくつか例を挙げてみるが、
①過去の採用コスト(募集・面談・採用)
②退職者への過去の教育コスト(研修、OJT、資格取得)、
③知識の損失(退職者の頭の中にある、固有の情報)などがある。
また、退職する人や辞め方によっても違うが、
④組織全体の生産性、
⑤部署内のモチベーション、
⑥退職者による会社の口コミ投稿による悪影響などもある。
過去の教育コストなどは、退職者をゼロにすることなど、ほぼ不可能に近いわけであるから、これらについては、ある意味仕方ないと割りきらなければならない。しかし、意識するべきは、将来にわたって影響を引き起こす可能性がある、「知識の損失」と「会社の口コミ投稿」である。
まず、「知識の損失」だが、退職時には後継者に対して「引き継ぎ」と言われる業務移管が行われる。頭の中にある知識や経験などを丸々移行できれば良いが、実際は退職をする人が保持している一部の情報しか引き継がれない。
例えば、入居者からのクレーム対応履歴や、オーナーの資産状況など、うわべのことは伝えられても、具体的にどんなことを話したのか、どのような経緯があったのかなどは、ほぼ伝えられない。元担当者の退職により管理物件が離れていくのは、このあたりの「情報」の移管がしっかりとされないことで、オーナーが不安になることにも起因している。
当社の場合は、コールセンターで全入居者対応の対応履歴を保管しているため、いつどの物件で何が起こったのかを、誰が見てもわかるようにしている。それにより退職とともに物件にかかわる情報をすべて失うという、最悪の事態は避けることができている。
もう一つが退職者による「会社の口コミ投稿」である。
円満退社であれば起こりにくいが、人間関係の悪化が原因で退職した場合などでは、インターネット上に悪い口コミを投稿されてしまう。悪い口コミを投稿されれば、不特定の人が見られることになるため、将来にわたっての人材採用や管理受託営業やリーシング活動などにも、大きく影響をもたらすことにもなりかねない。
従業員の退職は避けることはできないが、将来にわたり会社にとってのリスクを最小限に抑える仕組み作りが必要だ。
(筆:今井基次/週刊住宅2016.08.22 掲載)