相手の心情に沿って謝罪
パソコンメーカーのカスタマーセンターでの話しなのだが、あるご婦人がパソコンからデータをかき出せない、とえらくご立腹なのだ。多分に機械に疎いご本人のせいなのだが、「あなたではらちが明かない、上の人に代わりなさい!」と怒りは収まらない。
実際に代わってみてもなかなか前に進まないのだが、ふと、「これだけご執心のパソコン内のデータはいったい何なのですか?」と思わず聞いてみたらしい。すると、沈黙のあと声のトーンが急に変わり、先月亡くなったご主人との写真だという。「それは、大変でしたねえ、お寂しいでしょう」と言ったら、突然ご婦人は泣き出し、そしてすぐ、おそらくは元々の落ち着いた態度での物言いに変ったという。
問題も解決しやれやれというところで、ご婦人はそのオペレータにむかって、アナタに会いたい、とまで言ったとのことだ。(藤澤雅義)
我々が頑張って空室対策をして、晴れて満室になったとしても、入居者が快適に暮らすことができる環境が整っていなければ、早々に解約につながってしまうことがある。
入居してから退去までの間、生活で起こる様々なトラブルを迅速に対応し、入居者の悩みを解決することが、解約を防ぐことにつながるだろう。しかし、インターネットやスマートフォンの普及で安易に情報を得られるせいか、付け焼刃の情報であれこれ難癖を付けて、なおかつ暴言を吐くような入居者にも遭遇する。
最近、ユーチューブで実際の管理会社との対応を投稿している動画を見た時はギョッとした。社名や個人名には自主規制音が用いられていたが、電話口の管理会社担当者に対し、得意げな顔で煽るような言葉を投げかけている動画を見た際、時代の変遷とともに入居者の質も変わってきているのだろうか。
一次対応で簡単に完結できたであろう案件が、長期化してしまうことがある。往々にして長期化の原因は「応対者の対応」に起因する入居者の怒りだ。
応対者の対応が不適切だったため、二次クレームになってしまう。当初の内容とは全く異なり、今度は怒りの矛先が応対者に向くのだ。
なぜ、二次クレームになるのか。それは対応時に適正な手順を踏んでいないからだ。
それは、
①まず謝罪をする
②入居者に主導権を委ねて話を聞く(傾聴)・気持ちを理解する(共感する)
③状況・原因・事実関係の確認
④解決策の提示 である。
クレームの原因が何であるのかがわからない段階でも、①②を飛ばして、③の「事実関係の確認」をしてはいけない。
まずは謝罪、そして、「相手の困難な状況を理解する」ことが重要だ。そして、ただ「申し訳ありません」と繰り返すだけではだめ。
「不快な思いをおかけし、大変申し訳ございません」、「お怒りのお気持ちはごもっともです。ご不便をおかけして大変申し訳ございません」という相手の心情に寄り添う言葉を加えて謝罪するのだ。それからはじめて、③事実関係を確認し、④解決策を提示する。
ちょっとした一言を添えるか添えないかで、相手の気持ちは大きく変化する。
(筆:斎藤智美/週刊住宅2017.03.06 掲載)