質問
当社は賃貸管理を中心に事業を展開しています。
最近、物件を売却するオーナーが増えているのですが、その際に自社に媒介の依頼がきません。
どうしたら事前に情報を拾えるのでしょうか。
回答
物件のお話だけではなく、「お金にかかわる話」に積極的に関与していきましょう。
そのためには従業員の知識を高めなければなりません。
継続取引という強みがある賃貸管理業
賃貸管理業には、仲介業にはない「ある特性」があります。それは、顧客(オーナーや入居者)との継続的取引があることです。管理業は一般的に、管理を受託してから家賃送金や募集のことなど、長期にわたって少なくとも月1回以上はオーナーとの接点があります。
一方、仲介業では、取引期間中に関しては顧客とのやりとりが密に交わされますが、一旦取引が終われば連絡は途絶えてしまいます。
長期的に見た場合、接点が多いということは、顧客情報(オーナーの情報)を蓄えることができるのですから、その分、売買仲介・新築企画・リノベーションなどのビジネスチャンスが生まれるはずです。しかし多くの管理会社で、その特性や可能性を生かしきれていないように思います。
物件管理だけのイメージが機会損失を生む
ほとんどのオーナーは管理会社に対して「あくまで物件の管理会社」というイメージを強く持っています。そのため、オーナーと管理会社の間では、物件に関する事柄以外のコミュニケーションが少ないのも事実です。
そのために管理の現場でよく生じるケースが、ある日突然オーナーから連絡が来て「物件を売ることになったのですよ。これまでお世話になりました。新しいオーナーさんが別の会社に管理を任せたいと言っているので、引き継ぎをお願いします」と言われてしまうことです。
それまでせっかく頑張って入居付けや日々の管理を行ってきたのに、あっけない結末を迎えてしまう。そのうえ売買仲介にも関われないまま、管理も逃してしまう。内情を聞いてみれば、オーナーの顧問税理士が紹介したお抱えの仲介業者が専任媒介で入っていた、ということもよくあるケースです。
こうした機会損失が生じてしまう背景には、オーナーに対する担当者の情報収集力や知識のアンテナが低いために、オーナーの懐に入り込めていないことがあります。オーナーの懐に入り込むためには、管理物件のことだけではなく、オーナーの資産の全貌把握と、少なくとも金融商品や不動産投資について話せるくらいの知識量が必要となります。
オーナーからの信頼を得るために必要な知識
賃貸管理会社がオーナーから信用を得るためには、少なくとも2種類の知識 ─ ①不動産関連の知識、②金融関連の知識 ─ を備えておきたいものです。
不動産関連の知識を有する資格は、宅建士・賃貸不動産経営管理士・管理業務主任者・マンション管理士などがあります。賃貸物件の管理というと、現場レベルではあまり専門的知識を必要としないのですが、不動産に関わる仕事をしているのですから、専門領域をカバーしておくことは必須です。不動産関連の知識で少し高度なレベルを求めるのであれば、CPM®(米国不動産経営管理士)などにチャレンジするのも良いでしょう。
金融関連の知識、とりわけ金融資産に関する知識は、オーナーの資産提案という部分で非常に重要な要素になります。この領域が狭いと、いつまで経っても管理物件のことしかオーナーから相談されません。
例えばファイナンシャルプランナーは、税金・金融資産設計・不動産・保険・ライフプランニングなどを、体系的に学ぶことができるためオススメです。不動産以外の資産を知ることで、総資産の中の不動産のポジションを理解することができます。そこを知っている・知らないかは、オーナーとの会話についていけるかどうかの大きな分かれ目になります。
プロパティマネジメントと聞くと、「資産の最大化」というフレーズがよく出てきますが、管理会社の真の役割は「作業をすること」ではなく、オーナーの「資産をコントロールする能力」にあります。そのためには、従業員の知識向上が欠かせないのです。
ポイント
- 賃貸管理業には仲介業にはない、オーナーとの継続的取引という特性があります。そのため、オーナーの情報を蓄積でき、ビジネスチャンスも広げられるはずです。
- 多くのオーナーにとって、賃貸管理会社のイメージは物件管理の会社です。そのため、オーナーの資産管理を逃すことになりがちです。
- オーナーから信頼を得て、資産に関連したビジネスチャンスを広げるには、従業員の知識向上が不可欠です。
- 不動産関連では、宅建士、賃貸不動産経営管理士、管理業務主任者、マンション管理士、CPM。金融関連ではファイナンシャルプランナーの取得がオススメです。
(公益社団法人 全日本不動産協会発行「月刊不動産」2016.9月号掲載)