質問
入居者の退去後、原状回復工事と合わせて小規模な室内リノベーション提案を行うために、どのようなアプローチが効果的でしょうか?
回答
提案をスピーディーにできるよう、リノベーションのアイディア集をオーナーと共有しておきましょう。
リノベーションの費用対効果をオーナーに伝えることも、提案を受け入れてもらうためには必要です。
入居者退去後の原状回復工事と合わせて、アクセントクロスを貼る、設備をグレードアップする、水回りの印象改善のためにちょっと手を入れるなど、室内の小規模リノベーションを検討することはよくあると思います。
リノベーションのタイミングとしても、原状回復工事と一緒にできれば、工事費用・工期ともに無駄がなく理想的です。
しかし実務では、入居者募集がうまくいかず、さんざん空室が続いてから、苦肉の策としてやっと実施ということが多いようです。また、提案をしたものの、オーナーが首を縦に振ってくれず見送るということも少なくないでしょう。
今回は、原状回復工事と同時のリノベーションをスムーズにするために、どうすればいいのかを考えてみましょう。
アイディア集をまとめる、リノベーション提案のルールを定める
原状回復工事と合わせて行うリノベーションなので、そのアイディア出しから提案、オーナー承認までのスピード感が大切です。時間がかかり、原状回復工事そのものが遅れてしまうようでは、募集機会の損失でしかありません。
そこでリノベーションのアイディア集(図)を作成してみてはどうでしょうか。
そこには目安費用も載せておきましょう。そのアイディア集を冊子化して配布したりHPへ掲載したりして、オーナーがいつでも見られる状況を作っておくことが望ましいです。部屋の解約報告と募集条件をオーナーと相談する際に、そのアイディア集を互いに見ながらであれば、「こんなリノベーションをやってみませんか?」と話をしやすいし、オーナーもリノベーションのイメージや費用感を持ちやすくなります。前向きにリノベーションを考えてくれそうかなども、その反応から測ることができます。
アイディアを毎回ゼロから考え、提案までに時間がかかってしまうことへの防止にも効果があります。リノベーションの提案が日常化していることも大切です。こういった提案業務は、「難しそう、手間暇がかかりそう」という苦手意識から避けてしまいがちです。そうならないために、リノベーション提案のルールをある程度社内で決めておくと効果があります。
例えば、弊社のグループ会社であるアートアベニューでは、「TVモニター付きインターホンがない」「ウォシュレットが付いていない」「エアコンがない」「電気コンロ(IHではない)である」に該当する場合、どの物件かに関係なく、それらを解消するための提案を、原状回復工事に合わせてするというルールがあります。これによって、退去ごとに今回はそのルールに該当する部屋ではないか?という意識が働くことに加え、他に改善が必要な問題点はないか?という視点も生まれ、リノベーションの検討と提案が日常化されていきます。
リノベーションによる費用対効果を伝える
オーナーがリノベーションの実施を躊躇する理由に、その効果がわからないからというものがあります。
オーナーからすれば、費用をかけて行う「必要性」や「費用対効果」も見えず、YESと言い難いのは当然です。
リノベーションにより期待できる効果としては、<1>家賃アップ(下落の回避)、<2>空室期間の短縮、<3>募集経費の削減、<4>居住期間の長期化、<5>運営費(募集経費以外)の削減など。この効果予測は簡単ではありませんが、普段賃貸の現場で仕事をしているわれわれの腕の見せ所でしょう!
費用対効果の測定には、リノベーションを含む工事総額と、通常の原状回復工事のみをした場合との差額を計算します。そして、リノベーションにより得られる収益増で、その工事差額が何年で回収できるのかを説明すると、オーナーに理解してもらいやすいようです。当然、回収期間が短いほど効果が高く、回収後の収入増分はリノベーションがもたらす利益といえます。何年以内の回収が望ましいのかは、工事内容によっても違ってきますが、このような小規模リノベーションでは、最大でも一般的な平均居住年数以内で回収できるかを目安にするとよいでしょう(シングルタイプの部屋では4年、ファミリータイプで5年程度)。たとえ小規模なリノベーションであっても、オーナーにはプラスになることが多いものです。だからこそ、簡単かつ短時間で提案ができる仕組みをつくり、日常業務の一環として、どんどんリノベーションの提案をしていきましょう。
ポイント
- リノベーションのアイディア集をオーナーと共有しましょう。
- リノベーション提案という業務を日常化しましょう。こういった室内状況の場合は必ず提案するといったルール化も効果的です。
- 費用対効果をオーナーに説明しましょう。リノベーションに要した費用が何年で回収できるかという効果説明は、オーナーにとってわかりやすいです。
(公益社団法人 全日本不動産協会発行「月刊不動産」2017.3月号掲載)