都心物件「立地の良さ」だけでは戦えない時代、オーナーをどう導く?
人口の「東京一極集中」、コロナ禍で変化?
「東京一極集中」という言葉が使われるようになって久しい。
これまで、東京一極集中を解消しようとさまざまな案が検討されてきた。首都や省庁の移転も検討され、実際に埼玉県さいたま市には一部の行政機関が移転した。それでも、東京への人の流入は止まらなかった。
そんな中、新型コロナによって「東京から人が脱出している」「東京離れ」などの報道が相次いでいる。本当に東京の人口は減少しているのだろうか?
在宅時間の増加、高まる郊外志向
皆さん、こんにちは。コンサルタントの金井です。
コロナ禍が日本に蔓延して早2年。非対面ニーズが増えたことで、賃貸業界においてもオンライン内見やIT重説、電子契約などを取り入れる会社も増え、これまでと比べてIT化が一気に進みました。
プラスの影響もあった反面、最近よく耳にするのが、東京からの人口流出です。埼玉や千葉、神奈川といった周辺エリアへ引っ越す方が増えてきており、都内にある賃貸物件の稼働率にも影響が及んでいるとのこと。
コロナ前はというと、特に東京23区においては、立地さえ良ければ特に対策をせずとも、たとえ14㎡の1Rでも空いたらすぐに次が決まる状況が続いていました。会社に近い、学校に近いという利便性と、東京というブランド故に、部屋の広さや設備については多少我慢してでも都心を求める声が多くありました。
しかし、企業のテレワーク推進や大学の授業のオンライン化により、高い家賃を払って会社や大学の近くに住んでいた入居者層が一転して減少。都心から離れていても、現状の家賃以下で東京より部屋も広く設備も充実したお部屋に住める郊外へのニーズが高まってきているのです。
事実、クロス・マーケティングが実施した「引っ越しに関する調査」(2021年3月)を見ても、お部屋探しの際のポイントとして建物や部屋の設備の充実を重要視する方がコロナ前より増加。在宅時間が増えたことで、お部屋で過ごす時間を快適にしたいと考える方が増えたことがわかります。
これまで立地の良さに胡座をかいていた物件は、何も対策を講じなければ、そう遠くないうちに空室増加に頭を悩ませることになるかもしれませんね。
オーナーが「意外と知らない」空室対策
先日の空室対策セミナーを振り返る
話は変わりますが、先日、とある東京都内の管理会社様から依頼を受け、オーナー向けの空室対策セミナーの講演をしてきました。100名ほどのオーナーがいらっしゃいましたが、ほとんどの方が23区内に物件をお持ちで、コロナ前と比べて稼働率が落ちてしまったとのこと。
そこで、これからの日本の人口減少問題や、入居者ニーズの変化(住環境をより重要視している)といった視点から、「自身の物件に足りないものは何か」「周辺で部屋探しをしている人がどんな設備や条件を求めているか」など、コロナ禍で求められている空室対策アイデアについてお話させていただきました。大変ご好評をいただきましたので、その内容を少し紹介したいと思います。
①外観
ご存じの通り、最近のお部屋探しは、ほとんどがWEBやスマホが入口です。そのため、ポータルサイトで検索された際に、一目見て「内見したい」と思わせる建物の外観写真を多く掲載することは、選ばれるための重要ポイント。
ですが、そうした視点をもって外観に意識を向けているオーナーはそれほど多くありません。室内写真には力を入れても、外観は疎かになっているケースも散見されます。
そういう時こそ、管理会社から提案したいのが外観のバリューアップ。築年が経つと外壁が劣化するのはもちろん、建物自体がどうしても陳腐化してきます。とはいえ、コストを気にするオーナーも多いですので、例えば10〜15年周期で実施することの多い外壁塗装のタイミングで、合わせて見た目の改善も提案できるといいでしょう。
その際、元々の色で塗り直すだけでなく、流行りのカラーを取り入れたり、周辺の競合物件にはない色選びをするのもひとつです。おしゃれな外観で差別化を図り、「内見したい」と思わせる物件づくりをお勧めしましょう。
また、最近ではエクステリア照明を取り入れ、夜間の写真を掲載している物件も増えてきました。ライトアップされた建物の写真映えはもちろん、セキュリティ面でもアピールできるため一考の価値はあるでしょう。
②キッチンや水回り
セミナーで意外とオーナーの反応が良かったのが、キッチンや水回りの低コスト改善。外食を控え、自宅で調理をする機会が増えたことで、気持ちよく料理できるキッチンへのニーズも高まっています。
キッチンを丸ごと入れ替えるとなると大幅なコストがかかってしまいますが、おしゃれな化粧シートに張り替えるだけでも印象はガラッと変わりますよね。普段は空室対策に消極的なオーナーでも、「それくらいなら」と言ってくれるかもしれません。
また、コロナ禍の巣ごもり需要と直接は関係ありませんが、若者をターゲットにするのであれば水回りの清潔感は欠かせません。以下の写真は3点ユニットの施工例ですが、ダイノックシートとワイド鏡の組み合わせだけでも、高級感・清潔感を演出できます。
③壁紙
こちらも、オーナーから「意識していなかった」という声が多かったのが、色が与える印象を活用した壁紙の活用です。次の写真は同じ視点から撮ったものですが、右側の紺色のクロスの方が、お部屋が広く見えるのではないでしょうか。
赤は進出色、紺色は後退色といったように、色ごとの特性によって様々な印象を与えることが可能です。白一色よりも映えますし、壁紙ひとつで広く見せることができるなら、ポータルサイトへの掲載においても効果が期待できるでしょう。
④ウォールステッカー
低予算でお部屋を華やかに演出したい、とお考えのオーナーに好評だったのが、ウォールステッカーです。あまり小さいと印象に残らないうえ、安っぽい感じになってしまうのでどうせやるなら壁一面に!
コロナ禍によるニーズの変化と、巣ごもり需要の増加の観点から、住環境をより良くするためのアイデアを紹介しました。
特に目新しいものはありませんが、ご参加いただいたオーナーからは、改めてご自身の物件を見直す良い機会になったとのご感想をいただけました。オーナーに提案をしてもなかなか受け入れてもらえない場合には、ぜひ参考にしてみていただければと思います。
入居者ニーズの把握と、周辺の競合物件とのギャップ
具体的な空室対策アイデアとは別に、セミナーに参加されたオーナーの関心を集めたのが、SUUMOの「賃貸経営サポート」というサービス。SUUMOのデータを活用して、エリアの家賃相場や周辺物件の設備状況を簡単に把握ができます。
設備の付帯率と、部屋探しの際に検索されている設備、条件とのギャップが大きければ大きいほど、改善した際の効果を期待できます。
例えば、上記画像のエリアではTVモニタ付きインターホン、温水洗浄便座、浴室乾燥機は半分以上の方が検索時に希望条件としていますが、周辺物件の付帯率を見ると、どれも30%以下となっています。比較的工期も短く低コストで実施できるため、優先的に取り組むべき空室対策であると言えるでしょう。
セミナーでは、紹介したその場でお試しになっているオーナーも多く、ご自身の物件を見直していただく良い機会になったと思います。管理会社としても、物件に足りないものをオーナーに改めて認識していただくことで、提案がより通りやすくなります。
日本の人口減少は、全国どこの管理会社、オーナーにとっても洒落にならない深刻な問題です。皆さんも、管理エリアの人口推移が今後どのようになっていくのか把握をしていただいたうえで、効果的な空室対策が何なのか、ぜひオーナーと一緒に考えてみてください。