質問
長く賃貸管理業を営んでいますが、なかなか管理戸数が増えず、売り上げも思うように上がりません。
どんな原因が考えられるでしょうか?
回答
生産性の低下が原因ではないですか。
仕事の優先順位を決め、生産性の高い仕事に特化できる体制にしましょう。
賃貸管理の仕事
賃貸管理の仕事は多岐にわたります。オーナー、入居者、建物など、関わるモノやヒトが多いため、うまく仕事の優先順位をつけなければ、目の前に起こる事案に振り回され、「本来やるべき大切な仕事」がおろそかになります。
日常的に発生するような、契約書作成・電話応対・共用灯交換・草むしり・クレーム対応なども管理会社の大切な仕事ですが、残念ながら管理会社の収益には直結しません。また、限られた収益(管理料収入等)から採算を考えると、つい『社員にがんばってもらおう!』などと、従業員の労働時間を使って、あらゆる仕事を社員に振ってしまいがちですが、すべてをこなせる万能な人などなかなかいません。
コストの高い人的資源を効率的に使うには、できるだけ「考える仕事」や「専門性の高い仕事」にシフトし、専業化しなければ組織全体の生産性は高まりません。
優先順位のつけ方
管理会社を運営する中で、一番高額なコストは人件費です。
人材をどう生かすかがカギですが、なぜか重要度の高い仕事の優先順位はあまり重視されていないように思います。
通常、何も考えずに仕事を進めると下記の①~④の順序になります。
① 緊急性のある仕事(クレーム:現地対応・オーナー対応など)
② 受身の仕事(電話対応:物件問合せ・入居者クレーム、退去立会いなど)
③ 納期のある仕事(家賃集送金業務、オーナー報告、業者発注、募集図面作成など)
④ 企画・提案系の仕事(管理受託提案、オーナーへの空室改善提案、自社の新商品作り、広報:オーナー新聞・セミナー・HP更新など)
いずれも大切な業務ですが、この中で、管理会社にとって最も生産性の高い仕事は④です。①~③は、どの管理会社にとっても日常的な対応範囲で、ライバル他社とは差別化しにくいものばかりです。
通常の管理会社では、①~③だけで業務量が目一杯になってしまうため、④のような「考える仕事」は全く手がつけられていないか、できていてもほんの一部です。
つまり「本来やるべき大切な仕事」の優先順位が最も低いのです。その結果として、管理戸数は増えず、入居率が高まらず、オーナーの管理会社へのロイヤルティ(信頼性・親密性)も一向に上がらないという悪循環を招きます。そのような状態では管理会社の収益性は高まりません。
外部資源の活用
人的資源は限られています。多少の残業を考慮しても、1人あたり月間200時間程度しか労働時間を確保できません。人員や時間が不足していて、④ができない場合、むしろどうしたらできるのかを考えましょう。
例えば、月間総労働時間(1人当たりの月間労働時間×人員)から④の時間を優先的に確保して、もし①~③の仕事が間に合わないのであれば、思い切って外部資源の活用(アウトソーシング)を検討してもよいのではないでしょうか。④は、各管理会社の特徴を出せる「核」となる仕事です。
従業員は、従業員にしかできない「核」となる価値のある仕事に専念することで、結果として会社そのものの生産性が高まり収益が改善します。
1つの仕事で何倍もの価値を生む仕事
1つの仕事で何倍もの価値を生む仕事ができれば、さらに生産性が向上します。
例えば、オーナーとの定期的な面談は非常に重要です。何度もお会いすることで、信頼関係も生まれ、やがて新たな仕事が生まれるでしょう。ただ、1人で1~2時間面談するとなると、何十人、何百人とのオーナーと平等に頻繁に会うことは難しいのが現実です。
つまり、どれだけやっても「成果=人員×1倍」なのです。
それでは、もしもマーケティング(広報・広告・デザイン)の専業担当者が1人いたらどうでしょう。情報を継続的に発信することで、新たな仕事を発生させ、自社のブランドを高め、かつ管理会社へのロイヤルティも高めることが可能です。やり方によっては1つの仕事が何十倍もの付加価値を生みます。
賃貸管理にマーケティングは大変重要ですが、実際には何種類もの仕事と兼業させていることが大半です。頻繁に情報発信をすべき管理会社の役割はもっとクリエイティブであるべきですし、それらは専門的な仕事です。
ポイント
- 組織全体の生産性を高めていくためには、従業員をできるだけ専業化していく必要があります。
- 管理戸数や入居率を増加させるためには「企画・提案系の仕事」の優先順位を上げていくべきです。
- 「企画・提案系の仕事」を優先するためには、日常業務のアウトソーシングも検討しましょう。
- 生産性の向上には、専業化も重要です。例えば、マーケティングの専業担当者が情報発信を行えば、ブランドを高め、オーナーのロイヤルティも高められます。
(公益社団法人 全日本不動産協会発行「月刊不動産」2015.7月号掲載)