質問
滞納督促業務にかなりの時間と手間を取られてしまいます。
滞納督促をもっと効率的にする工夫はないでしょうか。
回答
まず、振込忘れなど「うっかり」滞納の賃借人に効率的に「滞納の事実」を通知する方法を構築しましょう。
督促業務の全てを自社でしようとせず、一定の回収不能額の発生を「割り切る」こともポイントです。
滞納者の数の把握とうっかり防止
管理会社にとって、滞納督促は切っても切り離せないものですが、直接売上には繋がらない業務だとも言えます。また、督促担当者の負荷が大きくなりがちなので、効率的な業務スキームを構築する必要があります。
まず、滞納督促をする対象、滞納者の数を把握します。
図表1は、弊社のグループ会社であるアートアベニュー(以下、AA)の2016年9月度の滞納率(借主数に対する滞納者数の割合)です。この滞納率は月の変動はほとんど無く、毎月ほぼ同程度です。
2016年9月度の総借主数は6,253名でしたので、月初には6,253名×8.6%≒540名への滞納督促が必要になります。これだけの大人数へのアプローチは簡単ではありません。そこで、滞納督促の初期作業として行っているのが次の方法です。
ショートメール(以下、SMS)一斉配信
滞納者の多くは、振込忘れや残高不足など「うっかり」による滞納です。
こうした人には、滞納となっている事実を伝えれば、すぐに支払いをしてくれることが多いものです。伝える手段として携帯番号に対するSMSの一斉配信を使います。電話や手紙の場合、手間や時間だけでなく郵送料もかかります。
SMS一斉配信であれば、①管理システムから滞納者リストを出力、②リストをSMS配信サービスで読み込む、③送信文章を作成、④一斉送信という4つのステップで数百人への通知が終了します。所用時間は10分程度。70文字の文字数制限のため送れる文章はシンプルになりますが、「うっかり」滞納者への効果は大きいです。
SMSにより、滞納額1カ月以内の人のうち40%前後、百数十名~二百名の滞納金回収が完了します。1通あたりの単価は郵送料よりも遥かに安価なので導入検討の価値は十分にあります。
成功報酬型回収サービスを利用
回収が困難な状態の人への督促を延々と続けることは負担です。そこで、成功報酬型の回収サービスに任せる方法があります。
AAでは、滞納額が更に増えないようにするため、部屋の明け渡しまでは訴訟を辞さずに求めます。しかし、それでも残った滞納金の多くは、成功報酬型の弁護士事務所などに回収を依頼しています。督促担当者が、回収困難な案件に引きずられることを避けられるからです。ちなみに、成功報酬は回収額の35%で、回収成功率は30%程度です。これでも回収できなければ諦めます。
ただ、回収不能になったとしても、オーナーには損害が発生しません。AAでは管理委託契約の中で、オーナーに対して無制限の滞納保証をしているからです。
このように、オーナーを滞納リスクから切り離し、管理会社の責任と判断で滞納処理を行えるようにすることも督促の効率化につながります。
自社での滞納保証サービス
市場で提供されている滞納保証サービスを利用している管理会社は多いと思います。
実は、この滞納保証サービスを自社で行うことも可能で、収益性の高い事業になり得ます。例えばAAの回収不能発生率は年間で0.5%以下。200人に1人以下です。つまり、200名から頂戴する年間滞納保証料が、1名の回収不能額+訴訟や明け渡しの費用を上回れば黒字です。
滞納保証料の設定にもよりますが、通常は充分なプラスが期待できるはずです。滞納保証の対象を自社の管理物件に限定すれば、借主などに日常的に目が行き届きやすい分、保証リスクは大幅に軽減できます。
つまり、管理会社であればこそ、より安全性の高い滞納保証事業を展開できるのです。
督促の効率化にはツールや外部の活用を
滞納督促について大切なことは、誤解を恐れず言えば「真面目にやり過ぎない」ことかもしれません。督促は全て自社で、一切の回収不能金は許さない、というスタンスでは督促の負荷ばかりが上がってしまいます。
滞納通知に便利なツールは柔軟に利用し、社外にも頼り、一定の回収不能金は避けられないものと理解することで、滞納督促は効率的になり、またより高い成果を得ることができるはずです。
ポイント
- 滞納督促は、滞納者の数を把握します。「うっかり」滞納者にはSMSの一斉送信が便利です。
- 回収困難な人については、滞納督促を成功報酬型の弁護士事務所などに依頼します。
- 滞納保証サービスは自社でも可能です。自社管理物件であれば、より安全な滞納保証業が可能です。
- 督促の効率化は便利ツールや社外利用が重要です。
(公益社団法人 全日本不動産協会発行「月刊不動産」2016.11月号掲載)