宅建試験で苦手意識のある方が多い権利関係分野。そのなかでも難しく出題数が多いのが民法です。試験対策として民法を捨てる選択を取ることもありますが、捨て項目にするのは非常にもったいない対策です。考え方を変えたり勉強方法を工夫したりすれば、得点源となり得る項目になるでしょう。
今回は、権利関係分野のなかの民法に絞って攻略法をまとめました。民法について苦手意識の強い方や、権利関係の勉強方法に悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
[stken1]この記事で学べること
宅建試験における民法の位置づけ
宅建業法の次に出題数が多い権利関係。まずは宅建試験における民法の位置づけを理解することで、対策が取れるようになります。そのため以下では、権利関係の民法という項目について詳しく解説します。
民法はどんな項目?
民法の勉強は、大きく分けて「民法総則」「物権」「債権」「相続」についてです。特に「意思表示」「代理」「時効」「不動産物権変動」「抵当権・根抵当権」「売買」「債務不履行・契約の解除」「賃貸借」「相続」はほぼ毎年出題されるほど重要度の高いもの。どれも不動産実務において結びつきが深いものばかりなので、勉強しておくと仕事で役立つことは間違いありません。また宅建業法に活かせる知識もあるので、必須の学習項目といえるでしょう。
宅建試験で出題される民法の問題は、民法の規定や判例による正誤を問われる問題がほとんどです。規定とは「条文」のことを指し、判例は「最高裁判所の立場や見解」を指します。民法では条文の趣旨や理由を理解すれば答えが導きやすくなってくるので、この条文を勉強する必要があります。
民法の出題数・目標得点数
宅建試験は全体で50問、権利関係の分野からは14問の出題。民法は14問中10問と、権利関係の約7割を占めています。出題数の多さから、学習範囲が広く重要度が高い項目であることがわかるでしょう。宅建試験での民法は、最低でも7問正解を目標にしたいところです。民法を捨ててしまうと権利関係のほかの項目で挽回ができず、またほかの分野の負担が大きくなってしまいます。そのため、民法で確実に目標得点数を取らなければなりません。
民法は頻出項目の一つ
宅建試験は「権利関係」「宅建業法」「法令上の制限」「税・その他」分野の4つの分野から全50問出題されます。各分野・項目から出題される問題数は以下のとおりです。
分野・項目 | 出題数 | |
権利関係 | 民法 | 10問 |
借地借家法 | 2問 | |
区分所有法 | 1問 | |
不動産登記法 | 1問 | |
宅建業法 | 宅建業法 | 19問 |
住宅瑕疵担保履行法 | 1問 | |
法令上の制限 | 都市計画法 | 2問 |
建築基準法 | 2問 | |
宅地造成等規制法 | 1問 | |
土地区画整理法 | 1問 | |
農地法 | 1問 | |
国土利用計画法/その他の法令 | 1問 | |
税・その他 | 税 | 2問 |
地価公示法・鑑定評価 | 1問 | |
住宅金融支援機構 | 1問 | |
景品表示法 | 1問 | |
土地/建物 | 2問 | |
統計 | 1問 |
出題数が最も多いのは宅建業法分野の20問。民法は全体の2割を占めているため、頻出項目の一つといえるでしょう。
民法は何が難しい?
民法に対して苦手意識が強く勉強を後回しにしてしまう方も少なくありませんが、難しいといわれる理由は一体何でしょうか。以下では民法が難しい理由について詳しく解説します。原因がわからない方は、以下を理解すれば民法の対策が見えてくるでしょう。
民法の考え方
多くの方は民法的な考え方ができていません。そのため過去問の民法を完璧にしていても、宅建試験本番では発展問題に対応できず正解できないのです。かといって、そもそも法律に対する基本的な考え方が身に付いている人はほとんどいないでしょう。大学の頃に法学部専攻だった方や法律関係の仕事をしている方、あるいは資格試験のために法律分野を勉強している方くらいです。この民法的な考え方を身に付けられなければ、いつまでたっても“民法は難しい”ままになってしまいます。
判例の考え方
民法がなかなか解けないのは、上記の民法の考え方ができていないのと同様、判例の考え方を意識できていない場合が多いからです。条文ばかり覚えてしまったり常識で考えて問題を解いてしまったりすると、思うように点が伸びず目標の得点数を狙うのが難しくなってしまいます。そのため、判例を意識した考え方に切り替え、条文とは別に勉強する必要があるでしょう。
法律用語
宅建学習が初心者の方も経験者の方も、民法のとっつきにくさを感じる大部分は難解な「法律用語」でしょう。専門用語が並び一文ごとが長いと、誰しも読みにくさを感じてしまいます。高額な商品を購入する際の契約書の文章や約款などがわかりやすい例です。民法ではそのような法律用語・専門用語が並んだ文章を読み解かなければならないため「難しい」と思い込んでしまいますが、読み方を工夫すればそれほど悩む必要はありません。
【民法攻略法】4つのポイント
民法を攻略するためには4つのポイントを押さえて問題を解いていく必要があります。以下でそのポイントについて詳しく解説します。一つひとつのポイントを理解すれば、問題が解きやすくなるでしょう。
専門用語をかみ砕いて理解する
権利関係の勉強をしていて用いられる回数の多い専門用語・法律用語は確実に覚えるようにしましょう。専門用語は「制限行為能力者」「善意と悪意」「債務不履行」「契約不適合責任」など、数えきれないほどです。用語の意味さえ理解できれば、だんだんと文章が難しく感じにくくなっていきます。そのため、民法の勉強を始める前に意味を理解しておくことをおすすめします。必要であれば用語の意味を理解する時間を設けると良いでしょう。
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原則と例外を理解する
民法の条文は、基本的に原則と例外で成り立っています。そのため原則と例外を理解することが、民法を攻略するために非常に重要なポイントとなるでしょう。例えば意思表示の心裡留保について以下のような条文があります。
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
これは原則、表意者(A)の心裡留保を相手方(B)が知らなかった場合は、Bを保護するためAの意思表示は有効。しかし例外として、BがAの真意を知っていた場合は、その意思表示を無効にする、ということ。上記例文のように、原則と例外はわかりやすく書かれているのが特徴です。また、他の分野でも同様の考え方をすることがあります。原則と例外は宅建試験全体に共通するポイントなので、しっかり理解しておきましょう。
要件と効果
要件と効果も重要なポイントです。民法の条文は、原則と例外と同じく要件と効果で成り立ちます。要件は「効果が発生するための条件」で、効果は「要件によって生じる効力」のことをいいます。例えば上記条文だと原則と例外どちらにも要件と効果があり、原則にはAの心裡留保をBが知らなかった(善意かつ無過失)という“要件”と、Aの意思表示が有効という“効果”があります。例外も同じ仕組みです。つまり、民法の条文は、基本的に以下のように文章構成ができているのです。
要件と効果を理解しておけば、条文がさらに読みやすくなります。他の条文も確認して、しっかり理解しておきましょう。
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本人と第三者
民法では本人に生じる効力が、第三者の存在によって大きく異なる場合があります。本人と第三者の関係が紛争につながることもあるため、条文を読む際には押さえておくべき重要なポイントです。例えば上記条文には原則と例外があり、Bが“本人”です。Aの心裡留保をBが知らなかった場合は、Bを保護するためAの意思表示は有効。しかし例外として、BがAの真意を知っていた場合は、その意思表示を無効にする、というもの。これに第三者が存在すると、BがAの真意を知っていてAの意思表示が無効になった場合でも、善意の第三者(C)には対抗できない(主張できない)というものです。
つまり、AB間が共謀していたとしても善意の第三者Cには関係なく保護しなければならないので、CにとってはAの意思表示は有効になる、というわけです。このように、保護すべき対象が本人なのか第三者になるのかが要件によって異なり、出題されやすくなります。本人と第三者の関係が理解できれば、条文がかなり読みやすくなるはずです。こちらもしっかり理解しておきましょう!
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宅建試験で民法を得意項目にする方法
民法の位置づけや仕組みが理解できたら、あとは問題を解いていくだけ!ですが、やみくもに問題を解き続けるだけでは理解が深まりません。問題文の理解が深く・早くなれば解きやすさが格段に変わるでしょう。以下では、民法を得意項目にすべく効率良い解き方について解説します。
文中の接続詞に注意して読み解く
難しい条文を理解するためには、文章の趣旨や理由を理解する必要があります。それは簡単な方法で、文中の接続詞を確認すれば良いのです。「~なので」「~。したがって…」「~だから」「なぜなら、~」など、接続詞が“趣旨や理由が「~」の部分にありますよ”と教えてくれています。「~」の部分を読むことで、上記の4つのポイントがしっかり理解できるようになります。民法の問題を解く上で非常に簡単かつ重要な解き方なので、趣旨や理由の箇所に線を引くなどわかりやすい方法を習慣づけておきましょう。
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図示で事実関係をイメージしながら解く
問題文が複雑で読みづらい場合は、問題文の内容をただ頭でイメージするのではなく図示してみましょう。事実関係が整理され、よりイメージしやすくなります。ただし、図示はできるだけ簡素化すること。理解しやすくして解答スピードを上げることも目的の一つなので、凝った図は必要ありません。また、図示は解答の見直しの際にも役立ちますので、習慣づけておくと便利です。
まとめ
こちらの記事では、権利関係のなかの民法の攻略法について深堀り解説しました。民法について理解して正しい勉強方法で対策することで、元々持っていた苦手意識は薄まり得点源に変えられます。目標点を確実に得点できるよう、まずは早い段階で民法に対する意識を変えるところから始めましょう!
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