質問
賃貸経営における運営費は、収入に対してどの程度であれば適切だと判断できますか?
回答
「運営比率」という指標を用いることで、運営費が適正範囲内であるかを判断することができます。
賃貸経営では、賃料などの収入を得るために、修繕費や管理料などの運営費が必要です。運営費が収入に対してどの程度かかるのか、地域や物件タイプによってどれくらい違いが生じるのかを把握することは、管理会社にとって大きな強みの1つとなります。
まず1年間の収支を項目別に把握することが肝心
図表1は、賃貸経営における1年間の収支を体系的にまとめたものです。賃貸経営の損益計算書ともいえます。一番上の①総潜在収入は、想定どおりの賃料で1年間満室稼働できた場合に得られる賃料総額を表しています。この総潜在収入からスタートして、表の下に向かって各種収入や支出を足し引きすると、一番下の⑪税引前手取額(所得税などを支払う前のオーナーの手取額)になります。
このように収支を項目別にして数値を可視化し、毎年の推移を観察していくと、経営状態の変化もつかみやすくなるのでオススメです。図表1 ⑧運営費の主なものは、図表2にあるとおりです。
運営比率という考え方
図表1の①総潜在収入に対してかかる⑧運営費の割合を「運営比率」といいます。この率が低いほど、収入に対して少ない運営費で経営できていることになりますが、ただ低ければよいというわけではなく、地域や物件タイプによって「通常はこれくらいはかかる」「これくらいはかけるべき」という目安値があります。それと比較をして初めて、実際にかかっている運営費が適正か否かの判断ができるのです。
残念ながら日本の賃貸市場では、経営状態の良し悪しを測るための指標がまだあまり整備されていません。しかし、今回取り上げている運営比率においては、全国の管理会社から提供された、実際の管理物件のデータを基に分析した「全国賃貸住宅実態調査」で、地域別・物件タイプ別・築年数別・構造別・総戸数別など、様々な角度からその目安値を知ることができます。
この調査結果は、毎年IREM JAPANのホームページから誰でも無料で入手できますので、参考にしてみてはいかがでしょうか。
図表3は、この調査結果から地域ごとに「単身用住居」「ファミリー用住居」それぞれの運営比率を抜粋したものです。全国平均では単身用・ファミリー用ともに24%前後であり、比較的高い賃料を取りやすい東京23区では、他地域より運営比率が低いことがわかります。
例えば東京23区内のファミリー向け物件の場合、運営比率が19%を大きく上回っていれば、無駄な運営費がかかっている可能性があると気付くことができます。逆に同条件下で19%を大きく下回るような場合は、本来するべきメンテナンスや修繕などが後回しにされている可能性が考えられます。
収入に対する運営費割合がわかっていれば、投資用不動産購入時にも、オーナーが重視する⑨営業純利益や、⑪税引前手取額が期待を満たすのかなど、データに基づいて説得力のあるアドバイスをすることができます。賃貸経営が事業である以上、データや数値による戦略的な運営を意識するべきなのですが、実際は感覚や結果論で運営されていることが多いように感じます。賃貸管理会社側も、賃料などの収入面を気にすることはあっても、運営費など支出面の効率まで意識していることは少ないのではないでしょうか。
ぜひ、賃貸経営を数値データで把握し、適正な運営を再検討してみてください。オーナーは、そうした意識や視点をもつ管理会社を高く評価してくれるはずです。
今回のポイント
- 「運営費÷総潜在収入」で求められる運営比率で、賃貸経営の効率(収入に対してかかる経費の割合)を測ることができる。
- 運営比率は低ければよいわけではなく、地域や物件タイプなどにより、適正な目安値がある。
- 「2018年版 全国賃貸住宅実態調査」の調査結果によると、全国の運営比率平均は、単身用住居23.34%、ファミリー用住居24.35%である。
(公益社団法人 全日本不動産協会発行「月刊不動産」2019.3月号掲載)