賃貸管理の可能性に、挑む。
当コラムでは、「賃貸管理ビジネスを成功に導くためのポイント」を、オーナーズエージェントのコンサルタントたちが分かりやすく解説します。
今回のテーマは「DIY賃貸の導入」です。
DIY賃貸の5つのステップ
皆さんこんにちは、コンサルタントの山城です。
沖縄の賃貸管理会社に10年以上勤めた後、入居者対応や空室対策などの経験を糧に、現在はコンサルタントとして全国の賃貸管理会社に向けて情報発信および管理サポートを行なっています。
前回コラムでは、DIY賃貸を管理物件に導入してきた私自身の経験をベースに、そのメリットと始め方についてご紹介しました。今回は、より実務にフォーカスして、DIY賃貸を始めるときに押さえておきたい流れを次の5つのステップに分けてお伝えしていきます。
《DIY賃貸の5つのステップ》
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ご存じかもしれませんが、DIY賃貸のトラブルを防ぐ目的で、国土交通省から「DIY型賃貸借に関する契約書式例とガイドブックについて」という手引きが公表されています。上に挙げた5つのステップは、この手引きを踏まえたうえで、導入過程において「管理会社が気を付けたいポイント」を経験者の目線でまとめたものになります。
さっそく順を追って見ていきましょう。
1.オーナーと運用ルールを決定する
DIY賃貸を始めるにあたり、まずは対象物件の運用ルールを決めなければなりません。
特に「DIYをどの範囲まで認めるのか」(DIYの可能範囲)については、その後の明暗を分ける契約の土台となります。オーナーとしっかり話し合い、ルールに落とし込んでください。
DIYの可能範囲は、比較的小規模な工事(棚の取り付けなど)だけを認める場合と、大規模な工事(床材変更・間取り・設備変更など)も認める場合の2パターンに分けられます。
どちらを選ぶかで、【表1】のようにDIYの自由度・入居者満足度・管理の難しさが変化することになりますので、オーナーの経営方針に合う選択肢を選んでいきましょう。
(表1.DIYの可能範囲とその影響)
・小規模DIYだけを許可する場合
DIYの自由度が低くなりますので、入居者満足度も上がりにくくなってしまいます。物件価値の向上もあまり見込めないでしょう。反面、DIYの可能範囲が狭いためトラブルに発展するリスクも下がり、管理はしやすくなると言えます。
・大規模な工事も認める場合
DIYの可能範囲が広ければ広いほど、お部屋をカスタマイズできる幅が広がります。入居者満足度も高くなり、長期入居も期待できるでしょう。ただし、DIYの範囲が広い分、工事内容の把握が複雑になります。費用負担や原状回復の調整も難しくなってしまいますので注意が必要です。
ちなみに、DIYの可能範囲だけでなく、誰が施工するかも最初にルール化したいポイントです。オーナーが指定する業者以外の工事を禁止する場合、管理はしやすくなりますが、借主の自由なDIYを制限することになるぶんオーナーの費用負担割合はどうしても大きくなるでしょう。
一方、借主が業者を選んだり、借主の手で施工したりを許可すれば、DIYの自由度・満足度は言うまでもなく高まります。管理の面では不安が残るものの、工事費用を借主が負担する方向で話をまとめやすくなるでしょう。
2.契約締結前にルールと運用方法を確認・調整する
DIY賃貸の導入ルールが決まれば、次は借主との契約です。
その際、重要事項説明と契約内容の確認に合わせてDIY賃貸のルールを説明し、借主にしっかりと把握してもらいましょう。そのうえで、工事内容のイメージなどを借主と話し合い、具体的な調整を図ることができれば、入居期間中や退去した後の原状回復・精算などでのトラブルは回避しやすくなります。
借主と確認・調整したい内容は次のとおりです。
《契約時に確認・調整したい7つのこと》
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借主にはDIY賃貸ならではのルールや運用方法をきちんと理解してもらい、取り決めの範囲内でDIYを楽しんでいただきましょう。契約時点で借主がきちんとルールを把握できれば、長期入居となってもトラブルの発生を抑えることができるでしょう。
3.法律に違反しないか工事前の前提を確認しておく
借主との調整が終われば、あとは書類を準備して契約する段階に入ります。
その際、導入ルールを決めて運用を始める前に、「間取り変更や設置する設備・造作物が、建築基準法や消防法など国の定める法律に違反しないか」を確認しておかなければなりません。
もし法律違反のDIYが行なわれ、火災などの事故がおきた場合、責任は貸主・管理会社双方に生じてしまいます。
「間取りを変更するのであれば火災報知器の設置場所を見直さなければならない」「キッチンのあるお部屋で棚を取り付けるのであれば不燃材料を使用する必要がある」などの内装制限もあります。工事内容が法律に違反していないかを確認していきましょう。
法律関係を最初から把握するのは難しいと思いますが、借主が大きな改修工事を希望している場合は借主から専門家に事前相談していただくなどして、導入ルールだけでなく、法律にも違反がないかを確認しておきましょう。
ちなみに、内装制限については「一般社団法人HEAD研究会 賃貸DIYワーキンググループ」が発行しているガイドラインがとても参考になります。一度ご覧になってください。
4.借主居住中の運用ルールを決定する
管理会社は借主が希望する工事内容を細かく記録しておくことが必要となります。
前回の記事でもお伝えしたとおり、DIY賃貸は感覚としてはテナント賃貸に近いものがあります。契約中に行なった造作変更についても、社内で情報を共有し、改修データを蓄積しておくべきでしょう。退去後の原状回復や精算業務でトラブル回避に役立ちます。
また、DIYで設置した設備や造作物で、ネジやボルトの点検などが必要なものは借主側に定期的なメンテナンスをお願いする必要があります。
たとえば、突っ張り棒タイプの造作物や壁掛け棚などは、ネジの調整を疎かにすると崩れる危険性があります。工事内容によっては定期的なメンテナンスを居住中のルールに記載しておくのも手です。
5.工事申請の承諾書やDIY賃貸の合意書を準備する
DIYに必要な書式は大きく3つ。特約事項にDIYの条文を追加した「賃貸借契約書」と、工事申請と承諾の有無を記載した「承諾書」、貸主・借主の合意内容を記載した「合意書」となります。
承諾書・合意書は別途準備する必要がありますが、非常に重要な書類となりますので作成には気を付けなければなりません。
というのも、国交省の「DIY型賃貸借に関する契約書式例」では、DIYで生じた物件の修繕・原状回復の取り扱いは承諾書・合意書の規定に従うとされているからです。つまり、万が一トラブルに発展した場合、この2つの書類が解決の鍵となるわけです。
作成する際は、国交省HPの【家主向けDIY型賃貸借実務の手引き】を参考にすると良いでしょう。
【DIY型賃貸借に関する契約書式例】
甲及び乙は、第8条第2項に規定する「増築、改築、移転、改造若しくは模様替又は本物件の敷地内における工作物の設置」に係る工事部分(設置した造作及び工作物を含む。以下「工事部分」という。)に関する修繕及び原状回復の取扱いについては、第9条及び第15条の規定にかかわらず、第8条第2項に基づく甲の承諾書及び甲及び乙が承諾書と併せて取り交わす合意書に記載された規定に従うものとする。工事部分に係る所有権の帰属及び費用の精算の取扱いについても、同様とする。
【承諾書】
【合意書】
以上、DIY賃貸の5つのステップとして運用のポイントや注意点をお伝えしました。導入には多くの労力が必要となりますが、一度仕組みを作ってしまえばテナント賃貸と似た感覚で運用を続けていけます。
変化を続ける入居者ニーズに対して、DIY賃貸は借主の手で直接ニーズを取り入れることができる有効な空室対策となります。
さらに導入物件の絶対数が少ない今、DIY賃貸の運用ノウハウがあることを外部にアピールできれば、オーナーの注目を集め、新たな管理受託に繋げられるかもしれません。
数ある管理会社のなかで一際目立てるよう、差別化戦略の1つとしてDIY賃貸を始めてみてはいかがでしょうか。