賃貸管理の可能性に、挑む。
当コラムでは、「賃貸管理ビジネスを成功に導くためのポイント」を、オーナーズエージェントのコンサルタントたちが分かりやすく解説します。
今回のテーマは「賃料改定交渉」です。
家賃上昇の好機に「交渉ノウハウ」を積む
既存入居者との交渉は慎重な姿勢が求められる
こんにちは、コンサルタントの萩原です。
昨今、賃貸市況は都市部を中心に明らかな家賃上昇のトレンドにあります。公示地価も今年はバブル崩壊後で最大幅の上昇率を示し、社内での賃料値上げの取り組みや、オーナーからの「家賃、上げられないか?」という相談も増えてきたのではないでしょうか。
新規入居の募集時であれば、賃料の値上げは相場に応じて金額設定するのみでスムーズですが、難しいのは既存入居者と再契約/更新時に価格改定交渉をするケースです。「なぜ上がるのか? 具体的根拠は?」と当然の反応も返ってくるうえ、YouTube等では「いかに不動産屋と戦うか」「家賃増額を拒むか」といった動画が高評価を得ている状況にあり、管理会社には慎重な対応が求められます。
時間・知識・データの3つの準備を
どんな交渉ごとも欠かせないのが事前準備です。更新再契約時の賃料値上げ交渉では、まず十分な「交渉のリソース」と「主張の根拠」を整えましょう。
リソースとしては“時間的猶予”も大切。更新通知時に新賃料を提示する場合は、交渉の発生を前提として通常より1ヶ月早い通知を、どんなに遅くても2ヶ月間は交渉期間が持てるよう通知したいところです。
また、体制の整備も必要です。専任の交渉担当を設けるのもいいですが、2~3人の「賃料交渉チーム」を作れると交渉機会を逃しにくくなります。弊社もリーシングチームと更新再契約チームが協力して対応しています。
しかし、チーム制となると重要となるのが“根拠の準備と共有”です。こちらの主張の根拠は、借地借家法における賃料増減額請求権と、「土地又は建物に対する租税その他の負担の増減、及び経済事情の変動」等を条件に設けられた賃貸借契約の賃料改定条項ですが、いきなり「これを根拠によろしく」と任されて交渉を全うできる人間はそう多くないでしょう。
チームで業務に当たらせるなら、法律関連の最低限の勉強会はするべきですし、可能であれば交渉のロープレも行なって、会社としての主張を共有しておかなければなりません。また、次のようなトークスクリプトを用意するのもいいでしょう。
①物価上昇とリンクさせて説得する
「最近は日用品や食料品に限らず、建物の修繕に必要な建築資材や内装材も高騰しており、また電気代やガス代の値上げに伴いまして、共用部光熱費など設備維持コストも上昇しています。お住まいの適切な維持管理のためには賃料の増額が必要である旨、ご理解いただきたく存じます」
②税負担増加の事実を説明する場合
「契約書にも「租税その他の負担の増加」が条件にございますが、実際に地価の上昇に伴いまして固定資産税や都市計画税などの税金が増え、金利の上昇によって銀行への返済も増加しております」

もちろん、いくら丁寧に、論理的に話をしても「それってオーナーの都合ですよね?」と一蹴してくる入居者は大勢います。冒頭でも述べたようにネットで情報収集し、理論武装する入居者も増えました。ですので、管理会社が最も注力したいのは“交渉を発生させないための準備”です。
弊社では、図1のように「不動産価格指数」「地価公示価格」「消費者物価指数」等のデータをまとめ、最初のアプローチとなる更新通知に値上げの根拠資料として同封しています。
中には近隣物件の賃料などミクロな情報を示さないと納得しない入居者もいますので、必要に応じてエリアの同タイプ物件の成約賃料の推移を示し、納得感を高めて同意が取りやすくなる工夫をしています。
このタイミングは“経験の価値”がある
とはいえ、反論の出にくい通知文を作成するにしても、1件1件の交渉を効率化するにしても、賃料交渉を請け負えば社内の業務負荷は確実に増えます。保証会社によっては値上げに伴って、保証額の変更調整や保証料の追加支払いの問題も出てくるでしょう。オーナーから頂戴する管理料を考えれば、管理会社がそこまでやるべきなのか、という声もあがるかもしれません。
しかし、管理会社として目指したいのは「オーナーの不動産資産を最大化すること」です。更新賃料を3千円上げたとして、10部屋あれば年36万円。収益還元法に基づいて、仮に利回り7%で割り戻せば、資産価値を約514万円上昇させたことになります。家賃アップは単なる増収ではなく、物件の価値そのものを高め、オーナーの将来の純資産の増加を叶えているのです。

加えて2025年の現在は、業界全体として稀に見る家賃上昇の好機です。ここで賃料改定に挑戦し、実践の中で「交渉ノウハウ」を社内に蓄積することは、きっとこの先の競争力につながり、管理会社の強みの一つにできます。家賃を上げ、資産価値を高めた事実は、オーナーからの信頼を増し、今後のリフォームやリノベーション提案の際の追い風ともなるでしょう。
入居者との交渉はハードですが、現場が少しでもやりがいを持てるよう、担当チームには業務の意義をしっかり伝えると共に、交渉の成功に対して評価や報酬を用意するなどして、ポジティブに取り組める体制を目指したいものです。
ちなみに私は先日、地道な交渉の末に値上げが叶ったため、オーナーに喜んでもらおうとそれを伝えたら、「おたくの元々の設定家賃が安すぎだったんだよ」とお叱りをいただいて、ああもう絶対値上げ交渉しません!と、ほんの一瞬だけ思ったのはここだけの話です。