住環境の良さを伝えて優良入居者確保
リスク回避に定借は効果的
今回は「定期借家権」について触れたいと思います。
2年前にもこの連載で扱いましたが、最近ますます「定借」への関心が高まっています。当社にも定借運用への質問が多く寄せられますが、その割にはあまり広まっていないのが現実です。
結論から言うと、賃貸業者が「仲介ビジネス」から「管理ビジネス」に軸足を移さない限りは、定借は広まってはいかないでしょう。仲介手数料を稼ぐという観点からは、定借はあまり意味がありません。
しかし、管理会社としてオーナーの収益に責任を持ち、リスクマネジメントをするということにおいて、定期借家権は俄然(がぜん)意味を持つのです。
12月1日に遂に、任意ではありますが管理会社の登録制度が始まります。従来の「宅地建物取引業」に軸足を置くか、将来おそらくできると思われる「賃貸住宅管理業法」に軸足を置くのかの選択が迫られています。今後、「管理ビジネス」の高まりに沿って定借は浸透していくものと思っています。
「定借運用」、つまりそれは通常の継続性のある建物賃貸借契約において、当たり前に定期借家権を使用するということです。
当社は、平成12年3月1日の定期借家権法の施行時からすべての契約を定期借家権で行っており、この11年間で新規と再契約で累計1万6000件以上の契約をしてきました。
おそらく日本で最も多いのではないでしょうか。
滞納者などの不良借家人に対して有効なカードを切れるという意味において、定期借家権は賃貸経営のリスクを明らかに軽減します。
しかし、世間では定期借家権では家賃が下がってしまうとか、礼金が取れない、入居者が敬遠するので募集に支障をきたすといったイメージや誤解が付きまとっています。そこで、定借運用の理解のためには、まず「再契約」についての認識から理解をするとよいでしょう。
再契約にも種類は3通り
「再契約」という観点から、定期借家権は大きく分けて以下の3種類があると思われます。
(1)「再契約型」定期借家権
通常、借主は「定期借家契約でお貸しします」と言われると、自分の希望する期間を住み続けることができないのではないかと不安を覚えます。そこで、この借主の不安を解消し、定期借家契約を受け入れてもらいやすくする方法として、再契約を原則として行う「再契約型」定期借家権を考える必要があるのです。
この「再契約型」定期借家権とは、期間満了時に借家人に対し、原則的に次の再契約も保証する形の定期借家権です。しかし、無条件に再契約をする約束をしてしまっては、問題のある借主を簡単に立ち退かせることができなくなります。
そのため、この「再契約型」定期借家権を契約の形態として採用する場合には併せて貸主に「再契約拒絶権」を与えておく必要があります。
つまり、問題のある入居者に対しては再契約の拒絶をして退去させ、優良な入居者には再契約の保障を与えることで、この「再契約型」定期借家権のメリットを生かすことができるのです。
問題のある入居者が退去すれば、他の入居者にとっては良好な居住環境を得ることになり、入居者にとっても大きなメリットになります。
(2)「再契約未定型」定期借家権
再契約を行うことが保証されていない定期借家権には2種類あって、まず、再契約される可能性はあるが、再契約をするか否かは貸主の自由になっている定期借家契約があります。
この定期借家契約は、契約上、「期間が満了した場合は、貸主・借主が協議の上で再契約をすることができる」と定めている契約(ちなみにこれが定期借家権の標準約款となっている)です。これは、再契約をすることは未定という意味で、必ずしも再契約をするかどうかはその時になってみないとわからない、ということです。
この「再契約未定型」は、借主にとっては、次の再契約をしてもらえるのか不安になり、借主の募集には不利になると思われます。
(3)「非再契約型」定期借家権
再契約を行うことが保証されていない定期借家権の2つ目は、当初から再契約を予定していない形での定期借家契約です。これは、「非再契約型」定期借家権と呼ぶことができます。
例えば、当初から転勤が3年間だけと限定されている場合に転勤期間中の3年間だけ貸すという場合や、老朽化しているため2年後には必ず取り壊すという前提で、取り壊すまでの2年間だけ貸したいという場合に利用できます。
このような場合、定期借家権創設前においては、会社からの指揮命令で退去が事実上強制できる優良法人の社宅として貸すことで立ち退きをさせていました。
しかし、法律上もこの定期借家権の創設で契約期間の満了で退去が保証されることになったので、一般の個人との賃貸契約も安心してできるようになったのです。
ただし、この期間限定の場合には、通常のものより若干家賃が下落するのは否めません。
この、(1)、(2)、(3)のすべての定期借家契約は、更新がなく、期間満了で建物賃貸借契約が終了する点で共通しています。
そして、これらの3つの種類の定借を見比べると、①の「再契約型」なら普通に貸せるというイメージが湧いてくると思います。
滞納者などの悪質入居者排除
通常使用されている「普通借家権」は過度に入居者を守る傾向にありますが、定期借家権で運用されている物件では、不良借家人を排除しやすいですし、滞納者も減ります。
その理由は、定期借家権は「契約期間満了で契約がいったん確定的に終了する」ことにあります。普通借家権においては、契約期間が満了しても自動的に契約が「法定更新」されてしまいますし、不良借家人に対して契約解除通知を出しても、それが「信頼関係の破壊」にあたるかどうかは最終的には裁判所の判断になりますが、定期借家権なら確たる理由の上に貸主が再契約を拒絶すれば賃貸借契約は存在しません。この差は大きいのです。
当社の賃貸借契約書には、契約終了後に貸室内に占有していたら損害金として賃料同等の金額の倍額を払え、としています。
これは賃料遅延損害金とは法的な性質がまったく違います。7万円の家賃なら14万円を支払わなければなりません。
さすがにこれを連帯保証人に伝えれば、入居者を出すことに協力します。また、弊社では賃貸借契約期間を2年ではなく1年間にしています。
1年ごとに再契約の業務をするのは少々面倒ですが、リスクマネジメントのメリットがあるためやっています。
入居者のメリット
定期借家権はオーナーに多くのメリットをもたらすと同時に、実は入居者にとっても大きなメリットのある制度です。
それは定期借家権で運用されている物件は環境が良いということが言えるからです。迷惑借家人を最長でも契約期間終了で退去させられるので、優良借家人ばかりがいる物件になる可能性が高いのです。
部屋を引っ越すときに、住むまではどういう人がそのアパートやマンション内に住んでいるかわかりません。面倒な人が隣にいないか不安なものですが、その点、定期借家権で運用されている物件は、安心なのです。
分譲マンションなどでは、逆にお金さえ出せば基本的に誰でも入居できるのでいろいろな人が存在し、望ましくない人が隣人となる懸念を払拭できないことになります。
当社では、滞納が非常に少ないですが、審査をむやみに厳しくしているつもりはありません。
ただ、部屋探しの人が見る募集案内図面に、「この建物は定期借家権で運用されているので、困った方(不良入居者)を排除しやすい契約となっており、良い住環境が提供できる賃貸住宅です」と入居者のメリットを表記してあることが、逆に「身に覚えのある」方を事前に排除しているのではないか、と思われます。
このようにメリットが多い定期借家権を使わない手はないと思うのですが、賃貸業者がオーナーのメリットを追求しようという姿勢にならない限りは、定期借家権は浸透しないでしょう。
(筆:藤澤雅義/全国賃貸住宅新聞2011.11.28掲載)