家主交渉不要の原状回復プランで入退店期間短縮
リフォーム完了までを定期的にチェック
前回に続き、「管理会社の組織論」を述べたいと思いますが、今回は「現場管理」部門に焦点を合わせてみたいと思います。図1にありますように、「現場管理」部門には大きく4つの基幹業務があります。通常、賃貸管理会社では「管理部」などと呼ばれることが多いのですが、他業種で「管理部」といえば、総務、経理、人事、労務などの間接部門を指します。「管理」という言葉は範囲が広すぎて困ります。紛らわしいので、私は「現場管理」(On Site Management)と呼ぶことにしています。弊社では略して「OM」と呼んでいます(同じようにリーシング部門はLM)。
基幹業務のうちのまず、1の「退去内装リフォーム」ですが、図2を見ていただくと、1の入居者退去から7のリフォーム完了までの流れがあるのですが、皆さんの会社では、これらの間でどのくらいの日数がかかっていますでしょうか? 退去からリフォーム完了までの期間を定期的にチェックすることをお勧めします。大体長くて10日から2週間以内におさまるようにしたいものですが、これが3週間もかかっているというような状況であれば、それだけ「空室期間」が長くなっているわけで、オーナーの収益に影響が出ます。業務フローについて詳細に「ルール決め」をする必要があります。
「現場管理」部門は始終、内装リフォーム業者等(ベンダー)に仕事を発注することが多いのですが、これらのベンダーとのスムースな連携が大事です。入居者から解約通知が入り、入居者の退去日が決まったらいち早くベンダーに連絡して、退去直後に中を確認してもらうか、入居者との立ち会い日を設定します。まず、自社担当が部屋内を確認してから、ベンダーに見積り依頼をする会社も結構あると思いますが、実際に工事をするベンダーが最初から見たほうが確実なのは自明です。そして、3の工事見積りが着信したら、それを基に入居者やオーナーに負担割合の提示と交渉を行います。実は、この4や5の提示・交渉時間が意外に長いのに気付いておられますか? 入居者も最近は、この手の原状回復工事の金額には敏感ですし、ちょっとネットで検索すれば、自分の故意・過失等の要因(真の法的な意味での原状回復工事)以外のリフォーム工事は入居者が負担する必要がないことがわかります。また、オーナーも最近ではリフォーム工事代をもっと安くできるのではないかと、管理会社の提示する金額を慎重にチェックする人が増えています。そんなこんなで、4、5の業務の時間がかかり、ここだけで1週間くらいはすぐ過ぎていきます。そこで、業務の効率化を進めるためには、まず経年摩耗や自然償却の部分はけして入居者に支払ってもらうわけには法的にいかないのだ、という啓発をオーナーにする必要があります。 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が平成10年3月に当時の建設省から発表されてはや12年が経ちました。いまだに入居者に通常の壁クロスの張替え代を出してもらって欲しいというオーナーも結構存在するのですが…。また、オーナーとの交渉を「0」にする方法がひとつあります。弊社では研究の上、いまから4年前にそのシステム(退去リフォームZEROプラン)を導入しましたが、毎月一定の「掛け金」を専有面積単価で弊社に支払ってもらい、そのかわり内装リフォーム代やエアコン・給湯器の故障・交換、窓ガラスの交換費用などを全額負担するというものです。これだと、突発的な多額な費用をオーナーが払う必要がなく安定します。そして、退去して部屋内を確認して見積りが出たら、当方の判断ですぐにリフォーム工事を発注できるのです。つまり図2の「A期間」がなくなるのです。
これは業務の効率化という意味でも大変効果があります。すると、「見積り」と「B期間」だけになるので、1週間以内でリフォーム工事を終了させることが可能です。
分業化をすすめ対応専門部署を設置
図1の基幹業務の2のクレーム対応ですが、まず肝心なのは①の「入居者一次受け」です。これはほとんど「電話対応」になると思いますが、現場管理担当がリフォーム工事やハード・ソフトの実際のクレーム対応、また3の建物メンテンナス業務をしながら、同時に社内で待機して入居者からの「電話に対応」するということは、よく考えていただいたら「無理なこと」であることがわかります。「電話」というものは、こちらの都合に関係なくいきなり、対応を迫られ、そして多くの場合入居者は少し怒っていたりします。今から現場に出ようと思っていたら、入居者からのクレーム電話にひっかかってしまって予定どおりに進まなかった、という経験はどなたも持っていると思います。会社を出たいと思っているのに、クドクドと入居者に怒られたりしたら、「面倒だなあ」という感情がそのまま電話に出てしまい、余計に入居者を怒らせてしまうものです。ここはひとつ、分業化を進めて、「電話対応専門」の部署をつくるか、その部分を「外注化」すべきと考えます。そもそも「電話」は意外に時間を食います。
入居者の視点を把握しトラブルを避ける
基幹業務1、2、3を通じて大事なことは先にも触れましたが、ベンダーとのスムーズな連携です。ベンダーにはいわゆる「賃貸慣れ」をしていただく必要があります。ハードクレーム対応や内装リフォーム工事において「入居者の感覚(視点)」というものの実感を把握していただかないと細かなところが意外に大きなトラブルになってしまいます。また、ベンダーは何者とも付き合うのではなく、仕事ができ信頼できるところを絞ってお付き合いするのがよいでしょう。「下請け」だとばかりに、上から目線で対応することは私は嫌いです。仕事はフィフティ・フィフティであり、相互にメリットがあるからお付き合いをするのです。新たなベンダーと仕事をすることになったら、担当は「新規協力業者発注申請書」を会社に提出します。そこで承認されたら「業務提携書」を締結し、業務を依頼します。「業務提携書」には、管理会社のスタッフとの癒着(個人バック等の就業規定違反)があれば、ただちに取引停止と損害賠償請求をする旨書かれています。信頼に足るベンダーであれば、年間に一定の工事を特定のエリア(物件担当制)内で発注することを約束し、その分、細かな業務分担をしていただきます。このようなベンダーとの連携は管理会社の業務の効率化達成にとってとても重要です。
この連載で何回も言っているように、現場管理の担当は業務の効率化をすすめ、オーナーへの「提案業務(リノベーション提案)」につなげる時間をつくっていかなくてはなりません。
(筆:藤澤雅義/全国賃貸住宅新聞2012.09.24掲載)