全国賃貸住宅新聞

公開日:2013年3月25日

第51回 立ち退き交渉について

第51回 立ち退き交渉について
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交渉前に入居者にヒアリング

借家人と話し合い後、明渡合意書署名で成立

今回、連載50回を超えたことを機会に、「不況時代に役立つプロパティマネジメント」から「プロパティマネジメントで切り開く未来」に題名も変えてみました。アベノミクスによってどうやら景気も回復しそうな勢いでありますし、あらたに気分を変えていきたいと思います。さて、今回は「立ち退き交渉」というテーマを取り上げたいと思います。正直にいってこの業務はあまり積極的にやりたいものではありません。できればやらないで済ませたい。それは入居者の権利がかなり強いものになっているので、交渉が難航する場合が多く、また、そもそも住んで生活している人に「出て行って欲しい」と言わなければいけないつらさがあります。しかし、リニューアルや建て替えのプロジェクトの場合には、どうしてもついて回るものです。

立ち退き交渉は正攻法で

  立ち退き交渉は「進め方」で成否が決まります。特に交渉の初動部分を間違えてはだめです。くれぐれも、こっちは家主だぞという意識で簡単に考えて、紙切れ一枚で「何月何日までに退居するように」などと一方的に書いてポストに投函(とうかん)してはいけません。一発で借家人の態度は硬化してしまい、プロジェクトは暗礁に乗り上げてしまうでしょう。立ち退き交渉は、「経済(お金)」「法律」「大儀名分(人情)」のどれが欠けてもいけない、とよく言われますが、あくまで話し合いで行い、最終的には「明渡合意書」(図表1)への署名をもって交渉成立とします。しかし、交渉が行き詰まったら、最後は法的な解決しかありません。ちなみに、老朽化した建物の場合は、「耐震診断」によって、倒壊や大破壊の危険性がありとの判定が出れば、意外と格安の立退料で判決が下りる可能性があると思われます。
 交渉が多少行き詰まってくると、オーナーの中には「借家人に顔の利く、つまり圧力のかけられる人を知っているので、その人に説得を頼んでみよう」という気持ちになる方がいます。一見有効かと思えますが、かえってもめてしまうのでやめたほうがいいでしょう。

立ち退き交渉の流れ

では実際の立ち退き交渉は、どのように進められるのでしょうか。
①事前調査
 まず各入居者の入居状況や過去の経緯、また入居者自身を調査します。対象物件の入居者の「入居期間」や、「主権者」、「現行賃料」、「管理費」、「入居者のキャラクター(年令、職業、性格)」、「造作の有無(承諾の有無)」、「貸室の利用状況(住居、住居兼事務所・事務所・作業所・店舗化の有無、および、それぞれの承諾の有無)」、「入居期間中のトラブル等」を把握します。契約に重大な違反はないかをチェックするとともに、だいたいの立退料の目安を推定するための基礎作業となります。調査をしていると、しばしばオーナーから得た情報と違っていることがあります。たとえば、オーナーからの情報では住居で貸しているのに、部屋が無許可で作業所化されている、ということがありました。事実なら重大な契約違反です。立ち退き交渉にも有利に働きます。しかし、よくよく借家人にヒアリングしていくと、その事実をオーナー側も5年以上も前から暗黙の了解で知る立場にあることがわかったのです。つまり、事実上の承諾を与えていたことになります。このことで、逆に作業所の移転作業という負荷がかかり、一般の住居より立退料の総額が上がってしまったことがあります。
②見積もり提示
 事前調査したうえで、立退料(弁護士費用を含む)の推定最低額と推定最高額を概算ではあるが見積もります。これはなぜやるかというと、最悪の場合これくらいのお金がかかるということを、ある程度予測しておかないと、クライアントの中には、そんなにお金がかかるのなら立ち退きはしなくていい、と交渉が進んでいる最中に言いだす方がいるからです。
③業務委託契約
 弁護士に立ち退き交渉を依頼する契約を含むコンサルティングの「業務委託契約書」を締結する。あくまで、立ち退きにかかる予算を提示したあとにです。
④実行
 各入居者へ個別訪問をして交渉を開始します。合意が得られた方から順次、「明渡合意書」に署名押印をいただきます。必ず、書面にサインをいただきます。
⑤明け渡し
 合意された方から、順次立退料を支払い、退去していただき、部屋の鍵の回収を行います。
⑥全戸明け渡し完了
 全戸の鍵回収完了をもって立ち退き交渉業務は終了。リニューアル企画、あるいは建て替えプロジェクトの実行に移ります。

立退料の相場

では、実際に「立退料」はどのように算出されているのでしょうか。立ち退くにあたっては、借家人も新規の部屋を借りて住まいを確保しなければなりません。その費用が、立退料の中心になります。一般的な立退料の考え方は、以下の通りです。
①新規の部屋の契約金
 敷金、礼金、仲介手数料、前家賃などで、通常賃料の4~6カ月分はかかる。たとえば6万円の賃料なら24~36万円となります。
②引っ越し代
 親子3人程度の引っ越しなら、おおむね最低でも15万円ほどはみたほうがよいでしょう。
③現行賃料と新賃料との差額
 新規の部屋の賃料が現在より高い場合、家計上新たな負担を強いられるという理由で、差額の2~3年分を要求されるケースもしばしばあります。賃料が現行の5万円から8万円にアップすれば、3万×24~36ヵ月=72万~108万円かかることになってしまいます。「部屋が新しくなるのですから」とか「今度はお風呂がついていますから、銭湯代が浮くじゃないですか」などと言いながら、この項目はなるべく圧縮するよう努力しますが、実際に借家人に資力がない場合には付加される項目です。
④見舞金
 実費のみでは、「引っ越しでただくたびれるだけだ」という理由で「色をつけて」という要求です。「そちらからのお願いなのだから」とか「こちらが引っ越したいわけではないから」と主張してきます。金額はケース・バイ・ケースです。
⑤その他
 たとえ専有面積が狭くても、庭のある貸家(一戸建て)の場合には立退料は高くなる傾向にあります。それは同じような値段で同じような一戸建てを探すことは難しいからです。また店舗、事務所・作業所化している場合、あるいは造作の有無、それらの事前承諾の有無などで、かなり数字の幅があります。

(筆:藤澤雅義/全国賃貸住宅新聞2013.03.25掲載)


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