23項目で建物を評価する「物件カルテ」を作成
管理会社の一番大事な仕事は「空室対策」でしょう。そして、部屋探しの人がWeb情報で物件をかなり絞り込んでいる昨今の状況をみると、「物件の力」そのものが稼働率に直結する時代がくる、といって過言ではないでしょう。「リーシング力」を強化することも重要ですが、今後は、「物件の力」を強くするための「提案」を管理会社がオーナーにきちんとすることができるかどうかが、「カギ」になってきます。管理会社の生命線は、「管理物件の稼働率」にありますから、管理会社としての生き残りの「分水嶺」は、「物件強化のための提案力」ということになります。
今述べたように空室対策には大きくふたつあります(図表1)。それは、Ⅰ.リーシング力の強化、と、Ⅱ.物件力の強化、です。Ⅰ.リーシング力の強化には、以前この連載でも述べたように、⑴.募集上の戦略、⑵.物件上の戦略、⑶.対仲介業者戦略、⑷.対入居者戦略、があります。つまり、Web上の情報強化、業者への営業の強化とAD支払い、室内popの設置、ウエルカムバスケットの設置、家具を置いてモデルルーム化、入居者プレゼントにフリーレント等々です。今回は、Ⅱ.の物件力の強化、について述べたいと思います。
「物件力の強化」には、大きく分けて、⑴.賃料の適正化・募集条件の改訂、⑵.物件の清掃(巡回)、⑶.リニューアル・リノベーションの3つがあります。物件の力は「賃料との見合い」ですので、賃料を下げれば相対的に物件力は上がります。また、物件を綺麗に保つことはとても大事なことです。これらの2つは、原状を維持しながらできることです。ありていにいえば、コストをかけずにできることといってもいいでしょう。しかし、一番究極で重要な空室対策は、「リニューアル・リノベーション」でしょう。物件そのものの力を強くするのが一番効果があるのです。しかし、「コスト」のかかることですから、オーナーを説得しなくてはなりません。誰でも、お金を出すのは嫌なのです。なかなかYesとはいっていただけません。この「オーナーへのリニューアル・リノベーション提案」を掘り下げて考えてみましょう。
まず、我々管理会社がオーナーに対して提案したとき、オーナーが取るべき選択肢について考えてみます。図表2にあるように、5つあります。①〜③は、リニューアルの「松竹梅」です。これはコストのかかる選択です。そして、④は賃料等を下げるだけ。⑤の「何もしない」、という選択を取ることもオーナーの自由です。このように「オーナーの選択肢」を体系的に分けて、提示することでオーナーの頭の中が整理されます。
この5つなかのどれかを最終的には選択することになるのが明確にされます。そして、実際にこう提示されると、最後の⑤「何もしない」を選ぶのには勇気がいります(笑)。現実の場面では、②や③が選ばれることが多いようですが、かといって、①が選ばれないわけではありません。ちょっと時間がかかるだけです。②や③を提示し、実行し、しばらくして①を実行する、というパターンもあります。とにかく、「提案」をし続けなければ、「松竹梅」はありません。
図表3は、弊社の「オンサイト・マネジメント(現場管理)課」の諸君がオーナー提案に使っている「物件カルテ」です。「共用部」と「専有部」に分けてカテゴライズし、項目ごとに判定をして提案をしています。このように物件の状態を明確にして「評価」することが大事です。「物件の全体像」をオーナーに把握してもらうことで、オーナーに冷静になってもらうことができます。つまり、より客観的に自分の物件を観察することができるのですね。そして、「抜本的なリノベーション」を決断してもらえる率が高くなってきます。ただ、やみくもに「リノベーションしませんか?!」と催促していても駄目なのです。
写真の1、2は、空いている部屋を思い切って、入居者専用の「ラウンジ」に改装した写真のビフォー・アフターです。写真3は「TV視聴コーナー」です。このマンションはシングルタイプの女性専用で、33戸あります。築23年で、よくある「バス・トイレ一緒」タイプの1Kです。「バス・トイレ一緒」のタイプは、大変人気がないものですから、部屋の内部を改築して、人気の「バス・トイレ別」にしようとしたりするのですが、ユニットバスの交換等をすると1室あたり結構なコストがかかります。
他の「バス・トイレ一緒」タイプの物件のリノベーションでも経験したのですが、こういう場合、個々の部屋の専有部分を改築するより、共用部分を充実したほうが、コストパフォーマンスが高いといえます。「バス・トイレは一緒」だけれど、素敵な共用ラウンジがあって嬉しい、となるのです。今回も、「こういう物件に出会えて良かった!」「この空間に長く居たい」「ラウンジで料理もできて楽しい」等々、ありがたい言葉を入居者からいただいています。
今回のオーナーは、判断力も高く、早々に弊社の提案を了解していただきました。今いる「入居者を保持」するために、つまり「テナント・リテンション」の概念に理解を示していただいたようです。
(筆:藤澤雅義/全国賃貸住宅新聞2014.11.24掲載)