全国賃貸住宅新聞

公開日:2016年10月10日

第93回 「倫理観」を考える

第93回 「倫理観」を考える
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オーナーの利益に反する行為は禁止

系列会社でも業務内容を比較し公正に判断

倫理の重視とビジネス戦略

私は、IREM(全米不動産管理協会)のCPM(Certified Property Manager/米国不動産経営管理士)資格の取得の勉強のなかで、プロパティ・マネジメントの思想を学んだ。そのなかで印象的だったのは「倫理感を重視するビジネス展開」である。彼らは、「職業倫理」を大変重要視していている。IREM組織内で常時、裁判所のようなものを設けてメンバー内外からの訴えに応じて審理して、IREM倫理規定に反した行いがあれば、メンバーシップの停止や剥奪といったことを実際にやっているのだ。お題目の建前で倫理を言っているのではないのだ。彼らは何も単純に「いい人になろう」運動を展開して倫理を強調しているのではない。「そのほうがビジネスになる」と言っている。

 

「われわれは80数年これでやってきて成功した。倫理を大事にすることがビジネスにつながるのは、日本でもアメリカでも一緒ではないのか」というのである。アメリカでは、1929年の世界恐慌以後、不動産業界が社会的な信用を失っていった歴史があり、それを回復するために「倫理感」を重視するIREMが設立された経緯がある。正直に倫理的に対処すること、信用を得ることが何にもましてビジネスに良い影響を与える、という彼らの考え方は、私も「その通り」と思うのだ。

▲ IREMでは業務上の倫理を重視している

利益相反とは

倫理的な行動のうち、最も重要なキーワードなのが、「利益相反行為の禁止」である。「利益相反行為」とは何か。自分とオーナーとの利害衝突が発生した場合、オーナーの利益に反する行為を取ることをいう。これには、たとえば次のような具体例があげられる。①入居審査を甘くする、②業者との癒着、③ケイレツの扱い。

 

①については、部屋探しの人がようやくある物件に申し込みをいれてくれて、「やっと手数料が入るぞ」というところまでこぎつけた。しかし、ちょっと普通の人ではなさそうなので与信をかけたら、ブラックリストにのっている。こんな場合に、ブラックであることをわかっていて入居させるのは利益相反になる。

 

②の「業者との癒着」もよくある話だ。いつも仕事を発注するかわりに過度な接待を求めたり、金銭等を要求したりすれば、それは最終的にはコストに跳ね返ってくるわけで、オーナーの負担につながるのである。管理会社の退去リフォーム担当が業者にいつのまにか懐柔されているというのもよくある話だ。

 

③の「ケイレツの扱い」も大切である。親会社が仕事を取ると必ず子会社に仕事が自動的に流れていく、というのが「ケイレツ」である。グループ会社全体で責任をもって仕事をするという姿勢があって、それがうまく機能している分にはいいのだが、たとえば子会社の質が悪くて、それを承知で仕事を回していたら、それは問題である。他の会社と比べて業務内容やコストがどうなのか、という緊張感が常に必要とされる。

▲ 業者との癒着もオーナーの利益に反する代表例だ

賃料査定時こそ要注意

特に大事な問題だと私が思っているのは「賃料査定」である。賃貸の現場ではしばしば「無理な査定」がまかり通っているからだ。建築会社の場合は、賃料査定が建築営業の成否に影響する。収益物件の売買仲介の場合でも同じだ。それは、賃料査定が高ければ利回りが良くなり、魅力的な物件に見えてしまうからだ。そこでどうしても、「高く査定したがる」傾向が生まれる。ときには、事実上は無理な金額を査定するケースさえ起きてしまう。

 

たとえば賃料6万円が妥当だと思われる物件を、6万5,000円だとオーバーな査定をしたらどうなるか。15戸ある物件だとして、5,000円×15戸×12ヵ月で、年間90万円分賃料収入が上がることになる。たとえば期待利回りが7%の物件であれば、90万円を7%の期待利回りで割り戻す(90万÷7%)と1,286万円。つまり、物件の価値が1,286万円高く評価されてしまうのだ。

 

ディベロッパーであれば、1,286万高く売れるわけだから、魅力的である。ときには、誘惑に負けることが起こり得る。しかし購入したオーナーは、割高な物件を押しつけられたことになる。また、たとえ物件の価格は上げないとしても、5,000円高く査定すれば、5,000円÷6万≒8.3で、8.3%増えた家賃を提示することになる。もし6%しか利回りがない物件であっても、8.3%増しであれば、6%×1.083で6.5%の利回りになる。利回りが0.5%上がれば、投資物件としての見た目は違ってくる。「利回り6%では買わないが、6.5%あるならいいかな」と、投資判断を狂わせてしまうことにもなりかねない。

 

このように1部屋の賃料査定をたった5,000円上げるだけで、物件の価値が1,285万円も高く評価され、あるいは利回りを0.5%上げて魅力的な投資物件に見せることが可能なのである。建築請負や売買にともなう賃料査定には、こうした誘惑が常について回る。したがって、より高い倫理観を求められるのだ。
 

よくある例なのだが、同じ社内の仲間同士でも売買仲介担当と賃貸管理担当、あるいは建築営業担当と賃貸管理担当とは仲が悪い、というケースが伝統的にある。売買仲介は手数料を稼ぎたいから少々高い賃料設定をして売る。すると,「なんでこんな高い家賃を設定するんだ。入居者が決まらないじゃないか」と賃貸管理担当が反発する。建築会社の営業マンも、なるべく高い査定を望む。その物件を担当する同じ会社の賃貸管理担当に圧力をかけることもある。

 

もちろん、こんな例ばかりではない。私の知っているある会社では、賃料査定権は賃貸管理部門にすべて委ね、建築営業マンには一切口出しをさせないというシステムにして、極めてまっとうにやっている。そんな会社も存在する。高い賃料査定も企業努力のうちで、うちなら一般の相場よりも高く決められる、という自信の表れかもしれないし、そのあたりの線引きは微妙なところだ。しかし、今月の建築受注、今月の仲介手数料売り上げというノルマが目先にあれば、鉛筆を多少舐めたりするのが人間なのかもしれない。

倫理を大事に、を売りにする

ビジネスを正直に行うことは、利益を減らすことになるのだろうか。IREMの行うCPMの授業の中で、尊敬するジーン・パウエル氏は言った。「短期的にはひょっとすると利益を減らすかもしれない、しかし中長期的には必ずビジネスになるはずだ」と。弊社も、CPMを学んでから、管理受託において業者とは一切癒着しない、建築プロデュースにおいても建築会社からの紹介フィーをオーナーに隠れてもらわない、という宣言をするようになった。

 

その結果、確実にクロージングが早くなった。建築プロデュースにおいては、「表で」クライアントからコンサルフィーを頂きやすくなったと思う。弊社のコンサルフィーは建築プロジェクト総額の3%から6%である。なぜ、クロージングできるのか。それは「信用」が増したのだとおもう。
 

私は、こうした考え方を賃貸管理業務の様々な場面で、四角四面に性急に押しつけるつもりはない。良いと思った人から徐々に、可能なところから取り入れていけばいいと思う。弊社だってすべて明確にしているかと問われれば、自信もない。しかし、最近話題になった「不動産売却情報囲い込み問題」にしてもそうだが、不動産業界全体の信用をあげてゆく必要にせまられているのではないか。世間一般の不動産業界のイメージはまだまだグレーだと思う。

(筆:藤澤雅義/全国賃貸住宅新聞2016.10.10 掲載)


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