「困った社員」を入れないように試用期間で見定め
得意技・長所・共通点のみに捉われず冷静な判断行う
今回は、ちょっと言いにくいことを書こうと思う。橘玲(たちばなあきら)氏の「言ってはいけない」を読んで触発されたわけではないが、言いにくいことにこそ、真実があったりするものだ。何のことかというと、「困った社員」のことだ。今回の原稿は、会社の経営者クラスを対象に書きたい。いや、現場でマネジメントをしている人も是非読んでほしい。
この連載では「会社は人が命」と、何度も言ってきた。「人」が会社を決める。だから、当然優秀でやる気のある人が欲しいので採用を頑張るわけだが、そうそうそういった人を採用できるものではない。よって、今会社にいる人財を「育てる」という作業も必要だ。そして、もっと大事かもしれない作業がある。それは、「困った社員」を入れないことだ。
「困った社員」は、会社にとってマイナスのエネルギーを発するので、まわりに悪い影響を与えることになる。ネガティブな発言が多かったり、視野が狭くて他責性(自分は悪くない、まわりの人や環境が悪いと思う傾向)が強く、上司や会社の悪口をよく言ったりする。また、何度も同じことを注意されても改善できず業務で足を引っ張る。その都度、本人は申し訳ない、と謝るのだが・・・。そういった人に使うエネルギーが大変なのだ。そして、会社に損害を与えることになる。あなたの会社にはいないだろうか。多分いるのではないか。まず、私の経験で、そういった人を分類してみたのが「図1」だ。
①「納期を守れない系」は、いついつまでにこのタスクをするようにといっても約束を守れない、そして延長した納期も守れない、というタイプの人がいる。その都度、当然叱ることになるのだが、その時は、真摯に謝るので反省していると思っていたら、同じことを繰り返す。仕事と会社を甘くみているという見方もできるのだが、どうも、それだけでもないようだ。真面目そうな人柄なのだが、結果はまことに不誠実なのだ。「困った社員」である。
②「人柄はいいが、根本的に・・・」。まことに書きづらいが、「抜けている」人のことである。しかし、人柄は抜群に良かったりするのだ。いつもニコニコ笑顔で、人の悪口などけして口にしないし、思いやりのある言葉を言ってくれて優しい。だから、大いに欠点があるのに、それが目立たなくなってしまうという不思議な現象が起きる。仕事は決定的にできないのに、人柄がいいからまわりが「無意識に」許すのだ。「彼(彼女)は頑張っているよ〜」と。そして、そのうち大きなミスをおかす。そこではじめて顕在化するのだ。
③「空気が読めない系」。場が読めないのである。シーンとして皆が集中しているときに、まったく違うことをやってしまう。そして、その行為が皆に驚きを持たれていることに気がつかない。仕事においても、クライアントに怒られるようなことを悪気もなくやってしまう。本人に問いただしても、まったく悪いと思っていないのだ。多分、なぜ怒られているのか理解していない。
④「メンタル系」。この場合は昔に比べ最近多くなってきていると思う。病気の場合仕方がないし、誰でも条件が重なればなる可能性があるとは思う。残業過多などは気をつけるべきだ。しかし、そこまで重症ではない場合、つまり本人に自覚が無い場合が難しい。日によって態度が違う、明るいときとクライ時の差が激しいので、まわりが戸惑うということがある。それだけならまだいいのだが、そこに、他責性の強さが加わったりするとやっかいなのだ。他を批判し始めるのだ。
「弱さ」を隠す、もしくは克服するために相手を「攻撃」せざるを得ないのだろうか、専門的なことはわからないが、そういう心理が働いているような気がする。これは面接のときに、実はサインを発していることが多いので、気をつけるといいと思う。前職でパワハラにあった、精神的に辛い時期があった、いまは元気ですが、などと言ったらよくヒアリングをするといいと思う。
⑤「視野狭窄攻撃系」。思い込みが激しく視野が狭い、よって自分の非を認めない。そして相手を攻撃する。あるクライアントが出張に行って、連絡が取れなくなった時があった。そこで担当は自分の判断であることをしてしまった。クライアントとの連絡がついたとき、なぜ勝手にやったのだと叱責された。私が、良かれと思ったことも勝手にやってはいけないよ、連絡がついてからすれば良かったのに、と言ったら、彼は連絡がつかないクライアントが悪い、というのだ。自分は悪くないと。仕事も一生懸命するタイプで、クライアントにも信頼されるのだが、とても頑固な一面があり他と相容れない。また、同僚を悪く罵ったりするのだ。
⑥「詐欺師系」。あえて詐欺師と言わせてもらう。面接でまったくの嘘をいうのだ。私もすっかり騙された。詐欺にあった人のことを、結果だけを見て、なんであんなのに引っかかったのだ、と他人がいうのは容易いが、その経過においては信じざるを得ないような「演技」があるのだ。詐欺師は、自分の言っている嘘を真実と思って言っている。自分を信じているのだ。だから、目は嘘をついていない。
よって、すっかり騙される。話を後から聞けば、変な話かもしれないのだが、当事者は気が付かない。そこまで人間は客観的になれないのかもしれない。信じられないような演技をする人が世の中にはいるのだ、ということを覚えていたほうがいいと思う。
さて、これらのタイプの人を入社させないように、やはり採用面接が大事である。「図2」は、面接において気をつけることである。
①「ハロー(後光)効果」は、ひとつ得意技とか目立つ良い点があると、欠点を無意識に隠してしまって見えなくなってしまうことである。
②「対比効果」。これは直前に面接した求職者が、とても印象が悪かったので、良く見えてしまうことがある。
③「偶然の一致効果」。これはたとえば、たまたま出身地が一緒だったり、何か共通点があったりすると、特別なものに感じてしまうことだ。「偶然」に意味がある場合も人生にはあると思うが、何万人にもいる同じ県の出身の人がすべて良い人とは限らない。合理的な判断とは言えないだろう。
④「徐々に感情移入・評価が高まる」。面接時に最初の印象が悪いのだが、話しているうちにだんだんと印象がよくなる場合があるが、これはやめておいたほうがいい。最初の印象のほうが大事である。
⑤「統一されたテスト・質問を行う」。弊社では漢字の読み取り50問と謝罪文を書く問題は必ずやってもらう。漢字の読み取りで70点以下は採らないようにしている。謝罪文作成もその人の能力がよく表れていいし、他と比較できる。同じ質問をしないと差がよく分からないし、面接官も同じ人でやるべきだ。
⑥「なぜどうしてと深く質問し続ける」。浅い質問はだめである。なにか引っかかることがあれば、なぜ、どうして、それでどうした、と深くその案件に入っていくのだ。そうすると見えてくるものがある。
⑦「慎重に判断、相手は演技をするもの」。残念ながら面接は疑い深い目でみたほうが良さそうだ。
気をつけていても、それでも「困った人」が入社してしまう場合がある。よって、次は、「試用期間」でしっかり見定める必要がある。しかし、試用期間中だからといって、簡単に退職させることができると考えるのも危険だ。このあたりは弁護士とよく協議したほうがいい。弊社では試用期間中に「あれ、なんか変だなこの人」と感じたら、それを意識してほしいと言っている。他に良いところがあると(もちろん誰でも良いところはいっぱいあるわけで)、その点においてその人を全体的に評価してしまって、「あれ、変だな」と思ったことを、意識の下に沈めてしまうことがよくあるのだ。
(筆:藤澤雅義/全国賃貸住宅新聞2016.11.14 掲載)