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連載100回 記念座談会

2017.05.08
  • 全国賃貸住宅新聞

    エリアマネジメントこそ管理会社の本職

    長嶋 修(49)

    さくら事務所 会長(東京都渋谷区)

    1967年9月生まれ。99年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社であるさくら事務所を設立。国交相・経産省等委員歴任。2008年4月、住宅診断の普及・公認資格制度を整え、NPO日本ホームインスペクターズ協会設立、初代理事長に就任。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。注目しているのは世界経済・政治情勢が日本にが与える影響。

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    伊藤 嘉盛(32)

    イタンジ株式会社 代表取締役

    1984年4月生まれ。早稲田大学大学院ファイナンスMBA修了。三井不動産レジデンシャルリースを経て、2008年に不動産仲介会社を起業。業務を自ら行う中で業界の非効率性を痛感し、不動産取引のデジタル革命への志を立てる。12年6月14日、チェ・ゲバラの誕生日にイタンジを創業。今注目していることは、新興国の不動産開発と日本の観光ビジネス。

     

    町づくりにはよそ者と若者

    賃貸管理会社の家主への提案方法から企業の組織づくり、人材採用まで幅広い内容を紹介してきたオーナーズエージェント藤澤雅義社長の連載100回を記念した特別座談会。
    今回は不動産業界注目を浴びる経営者2人とともに、賃貸業界はどのように変わっていくのかについて異なる視点から意見を交えた。(敬称略)

     

    藤澤:東京・世田谷でも20年後、20~34歳の若い世代が23%減るというデータが出ている。まさに賃貸需要が23%少なくなるということ。区平均の話なので、稼働率が変わらない場所もあれば50%減るところもあるだろうが、賃貸経営は厳しくなる。

    長嶋:世田谷区長も東側はまだいいが、高齢化が進む西側が心配と話していた。米・ポートランドを参考にした町づくりを進めているようだ。どれくらい町おこしにやる気がある人が地域にいるかということになる。

    藤澤:2~3人いれば十分動くだろう。意欲のある人がぶれずにやれば。そういう人が頑張っているエリアと何もせずぼーっとしているエリアでは稼働率、人口の差が出てくるんじゃないかな。

    長嶋:そう。だからデータ通りにはならないと思う。何人かが頑張って、それを見て後から面白そうだなと他の人が入ってくる。

    藤澤:宮古島に行ってヴィラを作った。きっかけは地元の人から相談を受けたこと。海があるから夏はいい、ただ半年分は冬枯れがある。その当時、デービッド・アトキンソンの「新・観光立国論」を読んで大変影響を受けて、日本文化という体験を提供すれば必ず欧米人やオーストラリア人が来ると思った。それで、そういう人たちを呼ぶには相撲じゃないかと。大相撲はしょっちゅう来られないが、大学の相撲部が合宿をする文化をつくり、観光客にまわしを付けさせてぶつかり稽古体験でもさせれば絶対喜ぶしフェイスブックで拡散する。そういうイメージを思いついて話が進んだ。

    伊藤:実際町の人の流れは変わった?

    藤澤:まだそこまでではない。これから。今年も巡業をやろうとしている。いったん力士に触れるとファンになる。ファンの数を増やして宮古島相撲ブームを作っていきたい。中・長期的な計画だね。

    伊藤:不動産会社にとってもビジネスチャンスになる。土地が安いところに観光をつくれば収益を生み出せる。

    藤澤:管理会社が地域とつながることでようやく不動産会社のステータスが上がる。地域のことをまじめに考えて、行政を巻き込んで地方の有力者、他業種の経営者と話し合ってこの町を盛り上げるためにどうしたらいいかを考える。タウンマネジメントは不動産会社の仕事。そこに人が集まれば家賃が上がる。物件の価値を上げることに他ならない。

    長嶋:不動産会社のアイデンティティは本来そこにある。自分のエリアをどうやって盛り上げるか。

    藤澤:難しい仕事だけどそれを目指すべき。島根県の海土町のIターンの人数を400人に増やした町長の発言で町づくりには「よそ者、若者、ばか者」を使えと言っていたが、若者の意見は取り入れたほうがいい。

    長嶋:町づくりのとっかかりになるだろうね。若者やよそ者などで先頭集団をつくっていく。ワークライフバランスという言葉がある。あれは元々ヨーロッパで生まれた概念。日本だと、仕事はそこそこにして仕事とプライベートのバランスをとろうよという感じになっている。ヨーロッパでは、仕事だけでなく、家とか地域のことをちゃんとやらないと社会全体としてまわらないという考え方。仕事を早く終わらせて、奥さんの家事を手伝うとかあるいは地域に貢献するのがワークライフバランス。そのために仕事を効率化しないといけないし、タウンマネジメントもやらなきゃいけない。実は全部つながった話をしている。

    柔軟な勤務形態で女性社員が活躍

    藤澤:電通の事件もあって、働き方革命が賃貸業界でも重要課題だ。この1~2年でも経営者の考え方が変わってきた。

    伊藤:最近読んだ「ホモサピエンス全史」という本が面白かった。狩猟民族だったときのほうが豊かだったと。カロリーを摂取するのに必要な時間が農耕民族よりも少ない。人口は増えたけれど、人口を維持するために働く時間が増えた。

    藤澤:生産性が落ちたんだ。

    伊藤:搾取される側とする側に分かれて、される側は働けども働けども豊かにならなくなった。

    長嶋:人が集まって時間がたつとだんだんと格差が広がるものなんだろうね。

    伊藤:毎日、満員電車に揺られていると搾取されてるんだなぁって思う(笑)。

    長嶋:必ずしも出社しなくてもいいんじゃないか、フルタイムじゃなくてもいいし。

    藤澤:私も今年に入ってから頭をガラッと切り替えた。各部署にこういうふうに働きたいという意見を出させている。ブラジルにとんでもない会社がある。何もミッションもビジョンもないのに急成長している。コツはコントロールしないこと。社長は一切何も言わない。社員に勝手にやらせて大成功している。

    伊藤:実は2年ぐらい社員に指示を出したことがない。部下に「社長の発想や言っていることは正しいけど、指示はしないでくれ」って言われている(一同爆笑)

    長嶋:私も会長になって、遠くから見守る立場になった。

    藤澤:社長の大西倫加さんがいるからね。

    長嶋:大西さんは、まさに働き方革命みたいなことをやっている。うちは女性社員比率が65%くらいと不動産業界でも高いほう。それは結局、女性の働き方に対応しているかどうかによる。フルタイムでできない人もいるし、17時には絶対帰りたい人ももいる。それを10時から19時までみたいに決めちゃうからから女の人が働きづらい。時間ではなく成果で測るようにしている。

    労働時間ではなく成果での評価を

    伊藤:うちは採用を変えた。企業文化を大事にしようということになって、採用の時点で全員にうちの会社では指示が全くない、今まで指示を待って動けなかった人は辞めていったとはっきり伝えている。自分で決める癖のない人が入ってこないようにした。真面目な社員は、こういうことをやりたいんですけど、とお伺いを立ててくる。うちは360度評価なので、「あいつは自分で決めていない」と匿名で言われちゃう。給料も自分でやっているかが評価基準なので、君はこの年収で入ってきたけど自分で決めてないからそんなに払えないよと下げる。スキルが高いとか頭がいいとかは評価されない。自分で事業をつくっているのかを評価基準にしている。

    長嶋:うちもその辺の改革をやっている。半期の初めに目標を立てさせて、売り上げ達成のためにこういうことをやりますと決めても達成できなかったりする。でも当初決めたことはやりましたと言う。決めた内容で売り上げ達成ができないのであれば軌道修正しないと駄目なんだけどそれができていない。今その点を厳しく評価している。

    賞与は目標達成ができている人は1.3倍になるし、駄目な人は0.7倍になる。格差がついて、駄目な人は毎年10%くらい辞めていく。ある意味健全かなとは思っている。

    藤澤:これから業界の経営者は頭を切り替えて長時間労働の是正をしていかないと採用できない。今の若い人は、休みがないと来ない。悪いことじゃなくてそういう時代になっている。賃貸仲介についても労働集約型でやっていると駄目。

    伊藤:今、物件確認電話が月間で70万件ある。そのうちの6割を自動化している。要するに「空いてますか」「空いてます」の電話が40万件あるのをうちの内見予約のシステムを使ってもらっている。

    藤澤:うちもイタンジの「物確君(ぶっかくん)」を使ってるけど、電話は減るし人は少なくて済むし、機械やITによって合理化できるところはどんどんやるべき。

    情報提供はAI、発想は人間、業務分担の時代に

    賃貸仲介はネットで完結

    藤澤:私は7年くらい前から賃貸仲介不要論を言い出して、一部の人にものすごく嫌われた。実際、今タクシーの運転手が物件案内しても成約が実は変わらないという実証データが出ている。売買仲介は簡単には代替できないけど、賃貸くらいはネットを見たらわかるんじゃないのと言い始めたら、ネットだけで決めるのなんて10人に1人もいないと反論された。もちろん仲介をやっている人は自分の仕事に誇りを持っている。ただ、「我々が背中を押しているから決まる」と言っていた人が7年たって「最近の部屋探しをしている人は確認に来てるだけだよね」って意見をガラッと変えていた。

    長嶋:そもそも賃料の1ヵ月分しかもらえないようなビジネスは持続可能じゃない。

    伊藤:最近アパレル通販のZOZOTOWNが三越の売り上げを抜いたというのがあったけど、賃貸でもネットで決まる流れになる。

    藤澤:管理会社が自分の物件だけを募集するのが一番理にかなっている。

    伊藤:仲介会社がお客さんを持っているわけではなくて、ポータルサイトが持っている。内見ができないので仲介会社を使っているだけ。内見の部分が解決すれば管理会社は仲介を自分でやるということになる。

    長嶋:去年シアトルでマンションを買ったときは最初の買い付け申し込みから引き渡しまで、一回も紙に触らなかった。iPadで一度サインを書くと、次から承認を押すと、自動的にサインがいくようになっている。楽だし全然危険な感じもしないし、早くクラウドサイン(電子署名)を日本でもやればいいのにと。

    藤澤:3人ぐらいでやっている不動産会社が多い中、電子化の波に乗れない会社が大半だから業界の反発が強い。だが、12万5000社という数は多すぎる。先付け仲介はなくなるかもしれないけど、どうしても人に聞きたいという場合に対応できる存在は残る。ただ、やっぱりスマホで決めるのが当たり前になるかな。

    長嶋:売買仲介については、去年アメリカに行ったときに、レットフィンという格安手数料でやる仲介会社の社長にインタビューしに行ったら、仲介手数料の値引きで買うのはシェア10%くらいだそう。今後の展開を聞いたら、たぶんシェアは伸びないから州をまたいで店舗を拡大していくしかないという。なぜかというと、売買は一定程度の信頼、説明とかヒアリング、コンサル能力が必要なので、そこのところを求める伝統的なアメリカ人が多いそう。日本より進んでいるアメリカでもそういう感じなので、売買に関してはしばらく不動産仲介エージェントはなくならないだろうね。

    藤澤:額が大きいから、ITですぐにとはいかないし。

    長嶋:アメリカではシステム化されているので、重説とか契約書とか自分で作る必要がない。住所を入れるとポンと必要な書類ができちゃう。日本みたいに重説のために役所で調べるようなことは一切やらない。10分でできちゃう。そんな仕組みが整えば、不動産エージェントに必要とされている業務は短縮化される。

    国交省が新しい住宅のデータベースを作っている。実証実験をやっていて、早ければ2018年度から順次全国で拡大していく。最終的にはさっきのアメリカのような話を目指している。そのために売買の世界でさえも不動産仲介エージェントのやるべきことはもうすぐ変わりそう。ましてや賃貸の世界はもっと早く変わるよ。

    管理会社も発想力で勝負

    長嶋:今後はコンサルとか相談とか、1を聞いて10答えるようなそういう仕事が求められていく。AIだと、聞いたことには答えるけどそれ以上ではない。人間の良さは、顧客が口で言ってることから本当はこんなことを考えているんじゃないかとサジェスト(示唆)すること。

    伊藤:賃貸仲介20万件の会話データから分析したら、2000個に質問が分かれて、半分から6割は自動で答えられる。残った必要な部分、ヒアリングとか「六本木に住みたいけどなんで住みたいか」とかはAIでは分からない。「六本木ヒルズまで歩きたいから」「街の雰囲気が好き」とかは人じゃないと分からない。その部分は人がやって、残りの簡単な「駐車場はいくらか」といったような内容はAIが対応すればいい。

    藤澤:ダニエル・ピンクの「ハイ・コンセプト」という本は読んだ?右脳的な6つの感性、デザインとか物語性、共感力、ユーモアとかそういう今までの偏差値教育では測れなかった能力がこれからのビジネスパーソンには大切だそうだ。デザインはロボットには簡単にできないだろうね。本質的に仕事ができるかできないかがはっきり見えてくる。

    長嶋:偏差値的な能力はロボットでAIがやるからね。

    藤澤:文科省も新しい指導要綱で答えのない問題をやるというニュースが出ていた。現実は明確な答えがないのが当たり前。それに何らかの解決策を見いだすのが、仕事ができるということだし、ロボットにできないこと。知識をどう結び付けるか、相手を説得するかが人間の仕事。物件についても物語を伝えていくことが求められる。

    長嶋:それがないと、駅からの距離がいくらとかそういうことだけになってしまう。建て売りを売るときに、思いついたのが地域の歴史を知らないとダメだということ。図書館にこもって地域の歴史について調べまくった。顧客に対しても地域の歴史の説明から入る。そうすると物件のスペックがどうでもよくなる。歴史や地元のいいところを知り、郷土愛的にこの辺りが好きだと思わせると、はまる人はものすごくはまる。

    藤澤:通販のジャパネット髙田は液晶テレビの発売から間もないころ、45型のテレビをものすごい量売った。テレビの機能は一切説明せずに、この広いリビングに、45インチのテレビが来たら、ゲームばかりしている子どもが来て家族だんらんができる、その光景を想像してくださいと売った。ストーリーを作って情景が浮かぶ世界をつくった。それが不動産会社で働くスタッフがやっていくこと。技術が進化することによって悪いものはどんどん淘汰(とうた)されていく。

    物件についても、本物しか残らない方向に進んでいく。ちゃんとお客さんのことを考えた物件を企画し、物語を作っている建物に人が集まる。本質的なところが浮き彫りになっていく。いい時代が来るということじゃないかな。

     

    長嶋修 会長

    さくら事務所(東京都渋谷区)

    1967年9月生まれ。99年、業界初の個人向け不動産コンサル会社であるさくら事務所を設立。国交省・経産省等委員歴任。2008年4月、住宅診断の普及・公認資格制度を整え、NPO日本ホームインスペクターズ協会設立、初代理事長に就任。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。注目しているのは世界経済・政治情勢が日本に与える影響。

     

    伊藤嘉盛 社長

    イタンジ(東京都港区)

    1984年4月生まれ。早稲田大学大学院ファイナンスMBA修了。三井不動産レジデンシャルリースを経て、2008年に不動産仲介会社を起業。業務を自ら行う中で業界の非効率性を痛感し、不動産取引のデジタル革命への志を立てる。12年6月14日、チェ・ゲバラの誕生日にイタンジを創業。今注目していることは、新興国の不動産開発と日本のビジネス

    (全国賃貸住宅新聞2017.5.8 掲載)

    • 藤澤 雅義(Mark藤澤)
      オーナーズエージェント および アートアベニュー 代表取締役社長
      プロフィール:

      オーナーズエージェント株式会社 代表取締役社長であると同時に、
      賃貸管理会社 株式会社アートアベニューの代表取締役社長を務める。

      しかし、本人は「社長!」と呼ばれるのがあまり好きでないとのことで、
      社内での呼ばれ方は「マーク」または「マークさん」。

      あたらしいものが好きで、良いと思ったものは積極的にどんどん取り入れる一方、
      日本の伝統に基づくものも大好きで、落語(特に立川志の輔一門)や相撲(特に豊ノ島・時津風部屋)を応援している。

      「現場」で運用の実務にあたっているものが、一番不動産のことを理解し、
      的確な投資分析及びオーナーの収益に貢献をすることができ、
      また、仲介手数料収入に依存する仲介業者ではなく、安定収入のあるPM会社こそが、
      クライアントの側にたって本当のアドバイスができる、が持論。

      著作に、
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