全国賃貸住宅新聞

公開日:2018年6月11日

第113回 「答えがない問題」を解く研修(力)がもっと必要ではないか

第113回  「答えがない問題」を解く研修(力)がもっと必要ではないか
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考えさせる事例学習が社員の質高める

管理層による研修後の習熟度確認は重要

先月会社のスタッフとアメリカに行ってきた。いつも勉強をさせていただいているサンフランシスコの賃貸管理会社(EBMC社/従業員数400人)に3回目の訪問である。2年ごとに訪問していることになるが、毎回新しい刺激を受けて帰ってくる。弊社に来訪してもらったこともあるが、我々が圧倒的に教わる立場だ。アメリカの不動産会社は日本より約10年は進んでいるのではないか。少しずつ追いついているような気もするが、特にサンフランシスコの会社ということもあってか、ITの活用には大変積極的である。

▲サンフランシスコで多くのことを学んできた

今回の訪問のテーマのひとつは「社員教育」であった。副社長のローリー・バーガーさんの「会社が大きくなると社員の質を保つのが難しくなる」というセリフが印象的だった。スタッフが多くなると、なんとなく組織全体で業務をカバーできてしまうし、かつ効率を追求するために業務を分業化するので、ひとりひとりの知識の幅が狭くなってしまう傾向がある。400人もいる会社だからというわけでもない。数人でも10人の会社でもだんだんと人が増えると最初の頃の質を維持できなくなってしまうものだ。また、敢えていうが、日本では40数年ぶりの求人難もあって、採用する人材のレベルが昔に比べて落ちているのは否めないだろう。教育の手法もさることながらとその成果のチェックが大変重要だと感じた。

▲表1

 

まず、社員教育の手法(表1)としては、①先輩社員のOJT、②研修・セミナー受講、③企業視察、④社員どうしの勉強会、⑤独学(読書等)、などがあるが、会社がこれらの方法を積極的に支援すべきである。特に、彼らが積極的に採用しているのが「E-ラーニング」である。ネット上で動画を見てもらうのだ。これは理にかなっている。同じ講師の同じレベルの内容を皆が統一して見ることができるのだ。これは、②の「研修・セミナー受講」ということになるが、リアルな(オフライン)研修であれば同時にスタッフが受講することは物理的に無理だし、たとえば地方の会社であれば、良い研修を東京等で受けたいと思っても旅費交通費がかさみ断念することもあるだろう。

 

問題は、スタッフひとりひとりの自主性にまかせていると、いつまでたってもWEBで受講しないということである。スマホも使って好きな時間に見られるといっても、だからこそ一定の時間に始まるリアルなセミナーと違って強制できない。

EBMC社ではなんと、全社員の研修プログラムを考えて、実行させる専門の外部コンサルタントを雇っていた。社員のスキル習熟度を勘案してどの研修動画を見せるのかを決めていくのだ。そして、今月の分、半年後までの分、と受講のスケジュールを決めていく。日程通りにこなすことができなければ、評価が下がる仕組みだ。会社をあげて社員全員が「定期的に研修を受ける」ことを奨励している。内容は仕事に直結するもの以外に、プレゼンの仕方、論理的な話し方、エクセル・ワードの使い方、またはセクハラ、パワハラ防止のための啓蒙動画もあったりする。

▲表2

 

ここから私の個人的な意見なのだが、これらの研修を受けたあとの習熟度のチェックが重要だと思う。テストをするのだ。大きく2つに分けて、①「知識」の確認と、②「答えのない問題を解決する力」を問う、もしくは養うという側面があると思う(表2)。

まず、知識として最低知っていなければいけない事柄というものがある。たとえば弊社では建物賃貸借契約はすべて定期借家権で行なっているが、定期借家権の成立要因として、①事前説明文書が必要であり、②必ず書面で契約しなければいけない、ことは絶対に知っていなければいかないことだ。まさか、知らない社員はいないかと確認する必要がある。

そして、次の②「答えのない問題を解決する力」を養うことが「もの凄く」重要だ。実務において我々は、「答えのない問題」、つまり「答えがいくつもあり、どれが正解とは言い切れない問題」ばかりに遭遇するのだ。我々は、学生時代に「答えが一つしかない問題」ばかりを問われてきた。マークシート方式による四択問題などはその最たるものだ。しかし、実務においては、我々のクライアントはマークシート方式による問題のように、「問題設定」を明確にしてはくれない。そもそも、自分が賃貸経営において何を目指しているのかさえはっきりしていない場合がほとんどではないか。

 

研修はなんのためにするのか、本来的なものを再確認したい。それは「仕事ができる人材を創る」ためだ。研修を通じて、問題解決能力を高め、その習熟度をチェックするのだ。そのためには、「実務的な問題提示」と「実務的なテスト」が必要になる。単に、「こういう知識を身に着けましょう」、の研修だけではなく、「こういった場合、あなたはどうしますか?」と受講生に考えさせる研修が必要だ。その知識を知っていれば100点、知らなければ0点、という問題ではなく。アメリカに行って、それを強く感じた。知識習得だけの研修ではだめではないかと。

 

たとえばこういう問題はどうだろう、「あなたの会社は9時就業開始と定められています。しかし、慣例として毎日8時半から集まり朝礼をしています。あるとき、あなたの部下の新人社員がこう言いました。8時半から仕事をしているのだから、8時半から残業代を出すべきではないですか、と。さあ、上司であるあなたはどう対処しますか?」。「つべこべ言わず仕事しろ、会社の方針に従え!」などという答えを用意した人はアウトである。これは弊社の研修で用意された問題なのだが、これなどは、かなり高度な問題で殆どの人が答えに窮するものだ。しばらく考え込んでしまう。しかし、その「考え込む」ことが重要ではないか。思考を深めるのだ。アメリカの学生が受ける試驗は「ケーススタディ」が多いと聞く。いろいろなデータ等の設定があり問題点も提示されていて、これらの状況においてあなたはどう対処するか、というような試驗問題が過半であるらしい。実務的ではないか。

 

最後に付け加えていうと、入社してから研修で鍛える前に「最初からできる人材」を採用できればそれに越したことはない。ということは、採用試驗において、上記のような問題をさせてみてその問題解決能力を測ればいいことになる。口頭でもいいのではないか。こういう時、あなたはどうするか?と聞けばいいのである。「賃貸物件を巡回しているとき、偶然入居者が部屋から出てくるのを見た。すると部屋の中が『ゴミ部屋』になっているのを目撃してしまった。あなたはどう対処しますか」というふうに。

(筆:藤澤雅義/全国賃貸住宅新聞2018.6.11掲載)


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