迷惑客には毅然と対応
企業の姿勢・方針を明確化
暴言や迷惑行為相談件数2割弱
「カスハラ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
「カスタマー・ハラスメント」のことだが、これは
「顧客が企業に対して理不尽なクレーム・言動をすること」、
「顧客からの著しい迷惑行為」をいう。
「事実無根の要求や法的な根拠のない要求、暴力的、脅迫的、侮蔑的な方法による要求、物言い」などが
カスハラに当たるのだ。
厚労省は2020年に所謂「カスハラ防止指針」を定め、2022年には「カスハラ対策企業マニュアル」を発表した(図表1)。
我々の業界では、主に入居者からのクレームでそれが起こることがある。
長時間に渡って電話等でスタッフを拘束したり、何度も同じことを繰り返し要求したり、大きな声で怒鳴り声をあげたり、「ばかやろう」とか「アホ」とか侮蔑的な発言や人格の否定、名誉を毀損する発言などをしてくるのだ。
「あなたでは話にならないから二度と私からの電話に出ないでほしい」というのは完全に人格否定であり、「殺すぞ」「死ね」は言語道断だ。
「パワハラ(パワー・ハラスメント)」や「セクハラ(セクシャル・ハラスメント)」は法令の中で定義があるが、カスハラは現時点では法令中では定義されてはいない。
しかし、図表2をみても、パワハラ、セクハラに次いでカスハラの相談件数が多いのは事実だ。
もっと注目をあびていいテーマだと思う。
世間には「お客様は神様」などという言葉があるが、なんでもかんでも「お客様は絶対」とする風潮はよくないと思う。
この「お客様は神様」だが、これは演歌歌手の故・南春夫さんのフレーズとしてよく知られているが、どうやら世間で言われているのは真意ではないらしい。
南春夫さんは、「歌う時に、私はあたかも神前で祈るときのように、雑念を払ってまっさらな心になれなければ芸をお見せすることができないと思っております。
ですからお客様を神様とみて歌を唄うのです。
また、演者にとってお客様を喜ばせるということは絶対条件です。
ですからお客様は絶対者、神様なのです」と言っている。
これは、歌い手の仕事に向かう心の持ちようのことをいっているに過ぎない。
よって、「お客様は神様だから、理不尽なことにも我慢しなくてはいけない」ということではないのだ。
悪質なクレーム断固とした対処を
クレームが発生しているということは、たしかに自分たちに非があることも多い。
しかし、ちょっとした言い間違いやミスをあげつらって執拗にスタッフを攻撃する人から、企業はスタッフを守らなくてはいけない。
カスハラを受けたスタッフは精神的に大きなダメージを受けている可能性があるのだ。
私は以前この連載で、我々のビジネスにおいて大事なクライアントではあるが、理不尽なことをいう不動産オーナーとは縁を切ってもいいのではないか、ということを書いた。
商売(ビジネス)に上下関係をあまりに持ち込むのは間違っている。
サービスや商品を提供して、その対価として一定のフィー(利益)をいただく、ということは基本的には
「フィフティ・フィフティ」な関係なのではないかと思うのだ
(そして、逆にいうと我々は、仕事を発注している所謂「下請け」の方々に理不尽な要求をすべきではないともおもう)。
お客様のおかげで商売ができているのだから、感謝もしなくてはいけないし、ある程度は我慢してもいいだろう。
でも「カスハラ」に該当するケースには企業として断固として対処する必要がある。
マニュアルを用意人材の保護優先
そもそもカスハラを企業として放置するとどういうことがおきるか。
まず、カスハラを受けたスタッフの士気が下がりパフォーマンスが低下する。
健康不良が起こり休職や退職につながる。
当社も入居者専門コールセンターを開設しているが、毎年入居者からの電話でメンタルをやられるスタッフがいる。
企業としては、業務時間の浪費、業務上の支障、人材の流出、金銭的損失、ブランドイメージ低下という影響がある。
また、雇用者側がカスハラを受けている従業員を守らず、不適切な対応をしたということで損害賠償責任を負うという判例も出ている。
では、カスハラにはどう対処したらいいのだろうか。
まずは、「企業側の基本方針と基本姿勢の明確化」が必要だ。対応マニュアルも企業側が用意しておくべきだ。
そして、具体的にはまず「第一対応者が責任を持ち、相手の言うことを冷静に聞いて、丁重な言葉遣いで相手が理解できるようにゆっくりと話す」。
それでも駄目な場合は、これは当社のマニュアルだが、「電話を早めに切り、折返しの電話は上司に代わる」ほうがいい。
そして、「いまのあなたの言葉は暴言にあたります。厳正に対処しますが、よろしいですか」という。
そうすると、その場ではそれでもなんだかんだ言ってくるが、電話はもうかかってこないことが多い。
私は毅然とした態度を取るべきだと思う。
結果的に顧客を失うようなことになるかもしれないが、それより従業員を守ることのほうが優先ではないだろうか。
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