電気自動車の「充電器」は賃貸住宅にも必要?
国産電気自動車が続々、広がるEVシフトの波
近年、耳にする機会が増えてきた電気自動車。日本でも脱炭素の世界的な潮流に応じ、2021年に菅義偉前総理が「2035年までに車販売で電動車100%(電気自動車:EV、燃料電池車:FCV、ハイブリッド車:HV など)にする」と表明したのは記憶に新しいところです。その後、国内メーカーでも続々と最新モデルが販売されており、少しずつEVシフトの動きが始まっています。
そんな電気自動車について、今回、賃貸管理会社から寄せられた相談は、「オーナーからアパートにもEV充電器を設置すべきかと聞かれたが、どう答えればいいか?」というものでした。確かに、充電に時間のかかる電気自動車にとって「生活拠点の充電設備」は必要不可欠。事実、すでに東京都では2025年から新築マンションへのEV充電器の設置が義務づけられています。
しかし、それはあくまで新築マンションの話。既存アパートに目を向けたとき、管理会社はオーナーの質問にどう答えればいいのでしょうか。また、仮に設置するとしたらどの程度のコストがかかってくるのでしょうか。
【相談ダイジェスト】
- 電気自動車への切り替えが進んでいるが、アパートにもEV充電器を設置した方がいいかと相談
- 仮に設置する場合、コストはどの程度かかってくるか
専門家の回答
設置判断は物件のターゲット次第
結論から言うと、物件の入居者ターゲットが「EV購入者層と合致するかどうか」で設置の判断が変わります。
EVシフトは時代の流れと言えますが、一方で電気自動車の価格はまだまだ高額。電気自動車を所有できるほどの収入がある賃貸入居者となると、その数は限られてきます。もしそのアパートが、EVを購入しても不思議ではない高所得者層をターゲットとしているなら、充電器の設置は入居獲得におおいに役立つでしょう。
しかし、EVを購入したくても購入できない一般層がターゲットなら、電気自動車の価格が今より下がったり、ガソリン車の生産が規制されたりしない限り、賃貸経営にプラスに働かない恐れがあります。急いで設置を決めるのではなく、物件がどのような入居者層をターゲットとしているかを考慮したうえで、国内のEV普及率に合わせて慎重に検討したいものです。
とはいえ、長い目で見れば、今後主流となっていく電気自動車の増加に伴い、賃貸住宅でも充電設備が必須となる未来は十分に考えられます。東京都が充電器の設置義務化を決めたように、近い将来その動きが全国に広がることも予想され、インターネットやスマートフォンのようにあっという間に生活に根づいていた、ということもあり得る話です。
そう考えると、EV充電器を先んじて導入し、少しずつ増えている「電気自動車に乗る人」、言い換えれば「EV充電器のある物件(または駐車場)にしか引っ越せない人」を取り込んでいくのも空室対策のひとつと言えるでしょう。
今後は、ポータルサイトの検索条件に「EV充電器」の項目が加わる可能性も十分にあります。10年後、20年後に電気自動車が一般庶民の乗り物となったときを見据えて、新たな物件価値として今から先行投資の検討を始めておくのもいいかもしれません。
EV充電器はコンセント型、ケーブル一体型に大別
では、もし賃貸アパートにEV充電器の設置を検討する場合、コストはどのくらい必要になるのでしょうか。住宅用のEV充電器は大きく「コンセント型」と「ケーブル一体型(充電器型)」のふたつに分けられ、種類によってコストは大きく異なります。
コンセント型は、名前のとおり車載の充電ケーブルで車両とコンセントをつないで充電する形式。コンセントを用意するだけでいいので安価で施工も簡単ですが、充電に長い時間がかかるといったデメリットもあります。
一方、ケーブル一体型は充電ケーブルとコネクターがセットになった充電スタンドで、充電時間はコンセント型の約半分ほど。しかし、コスト面の負担は重く、本体価格・工事費用を合わせて概ね200万円ほどの費用がかかると言われます。
コスト |
50%までの充電時間 |
|
コンセント型 |
本体価格数千円 |
10~18時間 |
ケーブル一体型 |
本体価格70万円程度 |
5~9時間 |
このように、コストだけを見れば選びやすいのは圧倒的にコンセント型です。しかし、利便性に優れたケーブル一体型の方が入居者への訴求力は高く、そのぶん家賃にも反映しやすいとも言えるでしょう。
検討の際には、毎月の家賃への上乗せ額や利用戸数を予測したうえで、何年で工事費用を回収できるかを考える必要があります。
設置方法・電気料金の管理方法も検討材料
EV充電器の設置方法となる「個別設置型」と「シェア型」も、コストを左右する検討材料のひとつです。
個別設置型は、個々の駐車スペースにEV充電器を1台ずつ設置する方式で、個人利用となるため入居者が使いやすく、既存の駐車場を変えることなく設置できるメリットがあります。反面、本体価格・工事費用は設置台数に比例して大きくなりますので、コスト面では不利でしょう。
一方、シェア型は共用の充電専用スペースを新たに設ける方式で、充電区画を複数の入居者が順番に利用することになります。入居者の利便性こそ落ちますが、導入費用を抑えることが可能です。ただし、充電専用スペースのために入居者用の駐車区画を一部つぶすなどの対応が必要になるケースも多そうです。
また、EV充電器の電気料金は利用者負担が一般的です。そのため、どちらの設置方法でも、利用する入居者に対して使用電力に応じた電気料金の精算が必要となります。個別のメーターで利用電力を測定する、認証機能・決済機能のあるEV充電器を選ぶ、各種メーカーが提供している「アプリ型普通充電ソリューション」を導入したりするなど、別途対策が必要となるでしょう。
その他、EV充電器の設置を検討する際はコスト面だけでなく、物件のグレードアップにどれだけつながるか、集客は期待できるのか、オーナーシップとしての環境保全や社会貢献への影響など、さまざまな検討材料があります。社会的な要請として存在感を増してきたEV充電器ですが、それに対してどのように向き合うか、いま一度オーナーの意向を確かめてみるのもいいかもしれません。
国や地方自治体の補助金を活用して賢く導入
現在、EV充電器の普及に向けて、国では「CEVインフラ補助金」を実施しています。補助金は用途別に分かれており、EV充電器の購入費用だと35万円を上限に購入費の50%が補助。一方、工事費用は上限135万円(高圧受変電設備がない場合)を上限に100%が補助されます。(2023年4月現在)
また、国だけでなく地方自治体でも続々と補助金が出ており、両者の補助金を合わせればEV充電器の導入コストを大きく減らすことが期待できます。導入のチャンスとも言えますので、補助対象などを事前に調べ、前向きな検討をオーナーに促してみてもいいかもしれません。
※この事例は2023年6月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。
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