管理物件で浸水被害、貸主が負う責任範囲を解説
災害時、保険が適用されず補償されないケースも
近年、大雨や台風などにより日本各地で大規模な水害が多発しています。賃貸管理会社としても備えが大切。特に、万一の事態に備えた「火災保険の水災補償」への加入は、忘れずにオーナーに提案しておきたいものです。
とはいえ、保険に加入しておけば必ずしも安心というわけではありません。仮に浸水被害に遭った場合でも、水災補償が支払われるには一般的に次の2つの条件を満たす必要があるからです。
そのため、いざ水害に見舞われても、被害状況によっては保険適用の基準を満たさず、補償されないというケースも。今回、管理会社から寄せられた相談もまさにそのケースでした。話によると、大雨で管理物件が床下浸水の被害に遭ったものの、基準を満たさず保険金が出ない可能性が高いとのこと…。
この場合、泥などの撤去を含めた原状回復のほか、入居者の家財被害や部屋に住めない期間の補償など、すべて貸主の責任になるのでしょうか?
【相談ダイジェスト】 |
専門家の回答
貸主の責任は使用収益に必要な範囲内
結論から言うと、賃貸物件の使用収益に必要な修繕費用や、物件内に流れ込んだ泥の撤去費用は、原則としてその全額を貸主が負担することになります。
賃貸人の修繕義務を定めた民法606条では、「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」とされています。つまり、たとえ原因が水害とはいえ、物件を貸している以上は、入居者が部屋を不自由なく利用できる状態に保つ義務があるわけです。
ただし、同じ民法606条では、「賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない」ともされています。
下記の事例のように、入居者の故意・過失が原因で物件に被害が及んだ場合は、入居者に対して修繕費用などを請求できるケースもあります。浸水被害が起きた際は、責任の所在が誰にあるのか状況を丁寧にヒアリングし、被害原因の究明をしっかりと行なうべきでしょう。
【入居者の責任となるケース】 |
避難先での宿泊費・家財被害は入居者負担
床下浸水は、一見すると被害が少ないように見えるものの、床下に溜まった水・泥の影響で、湿気やカビ、悪臭の発生、木材の腐食など、その後の住環境を大きく損ねる恐れがあります。
そのため、被害後は早急に床下の排水や清掃、補修が必要になり、入居者には一時的に部屋を出てもらうケースも少なくありません。また、1階が駐車場だった場合でも、入居者の車に被害が出てしまった、などのケースもあるでしょう。
そうした場合、気になるのが、部屋に住めない期間に入居者が負担した宿泊費や、車などの家財被害ですが、これらは原則として入居者自身の責任となります。
というのも民法では、貸主に対して賃貸物を使用収益させる義務を負わせるものの、避難時の宿泊費用や家財道具の修繕費用などの負担までは求めていないからです。もちろん、浸水被害で部屋が使えない期間の家賃は発生しませんが、物件そのものに関わること以外の費用負担は入居者の自己責任となるわけです。
また、災害時における入居者の宿泊費用・家財被害は、入居者自身が加入する家財保険の補償対象となります(補償範囲は保険によって異なります)。もし入居者から費用負担についての問い合わせがあった場合は、入居者加入の保険を確認してもらうよう案内できるとスムーズでしょう。
ただし、オーナーや管理会社が物件管理を怠った結果、入居者の家財等に被害があった場合は貸主側に賠償責任が生じる恐れがあります。物件に浸水被害を招くような不具合が見つかったときは、放置せず、早急に対処するようオーナーへの注意喚起が大切です。
貸主 | ・汚損した箇所の修繕費用 ・物件内に流れ込んだ泥の撤去費用 |
入居者 | ・被害を受けた車や家具家電などの修理、買い替え費用 ・避難先で発生した宿泊代、賃料 |
2024年10月に火災保険が値上げ!
激甚化する自然災害や物価高などの影響を受け、近年、値上がりを続ける火災保険料ですが、2024年10月には全国平均でさらに13%の増額が予定されています。
引き上げ幅は過去最大で、中でも大きな特徴は、水災補償に対する保険料を市区町村単位で5段階に細分化したことです。それぞれ水災リスクに応じて新たな料率が設定されましたが、ほとんどの地域で現在よりも引き上げられる形に。
もし管理物件で火災保険の満期を迎える、水災リスクが大きいなどの場合は、値上げ前に火災保険の見直しを提案してみてもいいでしょう。
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