相談デスク

公開日:2023年9月12日

高齢入居者に「認知症」の疑い。診断がないなら共益費を値上げしても問題ない?

高齢入居者に「認知症」の疑い。診断がないなら共益費を値上げしても問題ない?
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サ高住の入居者に「認知症」疑惑、法律行為のリスクとは?

共益費の値上げを進めたいが…

今回、管理会社から寄せられた相談は、「認知症の疑いのある入居者がいるのだが、共益費の値上げ交渉を進めても問題ないか?」というものでした。
物件は「サービス付き高齢者向け住宅」(以下、サ高住)で、職員の報告によると、入居者の一人に認知症と思われる症状が見られているとのこと。ただし、主治医から診断されたわけではないそうで、あくまで疑いの域を出ていないそうです。

管理会社としては、折しも共益費の値上げをしようとしていた矢先のこと。特に問題ないなら、このまま各戸に値上げの通知を出したいとのことですが、果たしてどうでしょうか。

【相談ダイジェスト】

  • 管理しているサ高住で共益費の値上げを検討している
  • サ高住の職員から、入居者の一人に「認知症の疑い」があると報告
  • 当の入居者に対して主治医の診断はない状況
  • 共益費の値上げに踏み切っても問題ないかと相談

専門家の回答

共益費値上げが“無効”となる場合も

結論から言うと、後になって入居者が認知症と診断された場合、症状の程度によっては法律行為が無効となる恐れがあります。値上げ交渉をする場合は、後になって値上げの無効を主張されるかもしれないことを考慮したうえで手続きを進めた方がいいでしょう。

民法上、認知症患者は「意思能力のない人」として扱われます。意思能力とは、法律行為において自己の行為の結果を判断する能力のことを言い、契約締結には欠かせません。従って、意思能力を有しない状態での法律行為は「無効」となり、初めからなかったものとされてしまいます。(民法第3条の2)

とはいえ、単に認知症と診断されただけでは、値上げ時点の判断能力まで喪失していたとは言えません。このとき争点となるのは、値上げ時点でどこまで症状が進行していたか、という点です。仮に診断時点で症状自体が【軽度】ならば、それ以前に行なわれた値上げの承諾は有効となる可能性があります。

一方、診断時点で【中度~重度】なら、値上げ時点の判断能力もなかったのでは?という疑問が生まれます。サ高住職員の証言などをもとに、承諾時の入居者の心身の状況を判断することになるかもしれません。

しかしながら、現時点で明確な診断がないのであれば、ひとまずは有効な承諾があったものとして値上げした共益費を受け取るのもひとつです。
後日、承諾時の入居者の判断能力が喪失していたと入居者家族などが証明した場合は、返金精算を検討する必要があります。値上げ交渉を進める場合は、その旨をあらかじめオーナーと共有しておくべきでしょう。

後見開始の申し立ても選択肢

一方、共益費の値上げを、判断能力の有無の判断を避けて実施したいなら、入居者の家族などに対して成年後見制度の「後見開始の審判の申し立て」について提案し、成年後見人と交渉を進める、という方法もあります。

成年後見人は、認知症などで判断能力が不十分な本人に代わり、本人の財産に関するすべての法律行為を行なうことが可能です。そのため、成年後見人の同意を得ることができれば共益費の値上げはまったく問題ありません

後見開始の申し立てができるのは、本人や配偶者、4親等内の親族等に限られています。管理会社からの申し立てはできませんので、連帯保証人や緊急連絡先などから該当する人を当たり、事情を説明したうえで申し立てについて提案することになります。(※入居者に家族や親族がいないなどの理由で申し立てが難しい場合は、市区町村長からの申し立てが可能です。)

とはいえ、関係者が申し立ての提案に快く応じてくれるとは限りませんし、申し立てに係る費用相場も概ね15万円以上と、申し立てをする人の負担も小さくありません。申し立てに向けてオーナー・管理会社が手間とコストをかけても、手続きがスムーズに進む保証がない以上、数千円の値上げのためにどこまですべきかを判断したうえで制度活用を検討すべきでしょう。

身元引受人・連帯保証人などを頼る

サ高住のような高齢入居者を受け入れている物件では、今後も入居者の認知度リスクが懸念されます。万一の際に対応が後手に回らないよう、賃貸借契約の時点で、あらかじめ「入居者が判断能力を欠くこととなった場合に、身元引受人・連帯保証人などが成年後見手続きを採るよう努めるものとする」といった条項を契約に盛り込んでおくのも有効です。

あくまで入居者側の努力義務にはなりますが、入居者の家族・親族などと事前の取り決めをしておけば、認知症発症時の対応もスムーズになります。
また、こうした方法は、一般の賃貸物件においても有効です。少子高齢化が進む昨今、高齢者の入居を受け入れるオーナーにとっても安定経営を叶える一助となるでしょう。

▶関連記事:高齢入居者に忍び寄る「認知症」。管理会社が取るべき発症後の対策とは

※この事例は2023年9月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。

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