「原則的に」再契約と契約書に明記
更新料訴訟でにわかに脚光
今回は「定期借家権」について触れたいと思います。
この8月に例の「更新料無効」という業界にとってまったく洒落にならない判決が出てから、「定期借家権」が急に注目を浴びだしました。「定借」ならとりあえずあの判決とは無縁だからです。
プロパティマネジメントを標榜するのなら是非、この定期借家権の運用に挑戦してもらいたいものですね。
「プロパティマネジメント=オーナーの収益の最大化」、つまり、これはオーナーの収益を「守る」ということでもあるわけで、賃貸経営のリスクヘッジをするために「定借」で運用しない手はない、と私なんかは思うわけですが、ほとんど業界では使われていない、というのが実態ですね。施行されたときから今まで、弊社の実例を交えていろんな場面で講演したり、説明したりしてきましたが、なかなかハードルが高いようです。
やってみたら「なんだ、こんなに簡単なことなのか」と必ず思ってもらえるのですが、業界は思った以上に「コンサバ(保守的)」ですね。
定借こそが「普通」の借家権
定期借家権は、平成12年3月1日に施行されました。
あれからもう、そろそろ10年が経ちます。早いものです。「よくぞ通った!」と言われた、画期的な法改正でした。
皆さんのところでも、「定借は使っているよ」と言われるかもしれません。転勤家族の自宅を5年間貸すのに使っているよ、と。ただ、私の言っている「定借」は、99%を占める「通常の継続性のある賃貸借契約」に使いましょう、ということなのです。
私が代表をしております株式会社アートアベニューでは、9月末現在、2926戸の管理をしておりますが、そのうちのほとんどを「定期借家権」で契約しています。
転勤家族等の所謂「リロケーションもの」での契約は一つか二つ程度です。また、契約のほとんどが「1年契約」です。
礼金も2ヶ月いただけるエリア・物件であれば2ヶ月しっかりいただいていますし、もちろん家賃は1円も下がってはいません。下がるくらいなら、「定借」は使いません。
更新という言葉は使えませんので、更新料にあたるものとして、「再契約料」という名目で1年契約なら0.5ヶ月分、2年契約なら1ヶ月分、首都圏の慣習に合わせていただいています。
募集上で困ったことは一度もありません。弊社は仲介を一切やらないで、プロパティマネジメントに徹しているのですが、仲介していただく業者の人も普通に決めてくれます。
なんら問題ありません。うちでは、「定借」が「常識」で、「普通」の借家権なのです。
日本人の「優しさ」で成り立つ普通借家
こういうことがなぜできたか?
それは、施行当事、社内でさんざん議論とシミュレーションをした結果、契約書に「原則的に」再契約をする、という文言を入れたからです。
これを我々は「再契約型」の定期借家権と呼んでいます。
2年後にいったん契約は終了します、そのときにまた再契約するかどうか判断します、と言って不安にならない入居者がいるでしょうか?
これでは、募集できないですね。オーナーからしてみたら良い入居者なら「再契約」するに決まっているのですから、再契約する、と宣言すればいいのです。
これは法的には、「再契約の予約権を与えている」ということになるらしいですが、現在の日本では、こうでもしなければ「定借」は使えません。「定期借家権」を立法された先生方は、実は、こういった使い方をあまり歓迎されてはいないらしいのですが、私は「実務家」ですので、先生方が苦労して作られ、与えられた「良い法律」を自分の実務に最大限活用したいと思います。
私が「定借」にこだわる理由は、いままでの「普通借家権」では、借家人に過度の権利を与えてしまっていて、不良借家人をなかなか退去させられなかったり、将来もし建て替えが発生したときに、明け渡して欲しいとき、「立ち退き料」を多く払わなければいけなくなったりする場合があるからです。
「普通借家権」はオーナーのリスクが高いのです。
いままでの賃貸管理の経験から、「普通借家権」というものは、ちょっとおかしいのではないか、なぜ、あきらかに他の入居者に迷惑をかけている悪質な入居者を退去させられないのか? なぜ、家賃を滞納していても強制執行等、法的に最後までいくまで1年近く「居座れるのか」(定期借家権でも居座れるのは同じですが、実務として早く対処でき、損害が減るのは事実です。いったん、契約が終了しますから)等々、かなり疑問がありました。
60年間のマインドコントロール
「定期」借家権、そして「新法」などと表現されることもあるので、なにか新たな形態が生まれたような錯覚が我々にはありますが、歴史をひもとくと昭和16年に国家総動員体制の一環として「法定更新」が定められる以前は、日本では諸外国と同じように「定期」借家、「定期」借地だったわけです。
貸したものが返ってくるのは当たり前なのです。たまたま戦争遂行のために暫定的に、定められたものがいままで60年以上も経ってしまっているのですね。
(この借地・借家法の社会政策的な改正を、日本の戦前戦後の歴史のなかで理解する好著として野口悠紀夫氏の『1940年体制――さらば戦時経済』があります)。
その後の60年間が、たとえば「居住していた30年間分の賃料をまとめて立ち退き料としてそっくり返さなければ退去してもらえない」というような「異常」な時代だったわけで、ただ単に「普通」の借家権に戻っただけではないでしょうか?
また、いままでの普通借家権は、もっとわかりやすく表現すると、「社会主義的」借家であり、そのいい悪いは別にして「日本の大家さんは、純粋な不動産投資としての賃貸経営を、社会インフラとして準公的な立場で担わされてきた」と言えると思います。
まあ、これは、私は全てを否定するつもりはなくて、この「優しさ」が日本人の特性でいいところだと思うのですが…。
いい国民性だと思うのですよ、日本人は。
富めるものがそうでないものに「仕方がない、お金がないんだから立ち退き料を払ってあげるよ」となるわけですから。
このあたりの議論になってくると、「定借」は「日本人論」に発展していくのです(笑)。私は落語が好きなのですが、「強欲な大家」も良く登場しますが、江戸の昔から、何かあったら頼りになる「地域のご意見番」のような存在でもあったようです。
だからこそ、「アメリカ型の契約社会」のように、いったん契約を終了させよう、定期借家権をそのように立法の精神で使ってくれと言われても、納得できないのです。日本は日本だから。
必ずできる定期借家権
弊社では、通常の定借の定義、つまり「期間の満了とともに賃貸借契約が確定的に終了し、更新はありません」に加え、「しかし、賃料滞納とか、契約違反等がなければ、原則的に再契約いたします」と言って契約しています。
原則的に再契約します、但し、契約違反があったらダメよ、と。
入居者からみて、この文言になんの疑問があるでしょうか。まったく常識的な文章ですよね。だから、募集上なんら問題ありません。全国どこでも100%、定期借家権で運用できます。
ただ、「定借」というだけで、「非」再契約型の定期借家権を連想されることが多いので、業者の方が最初だけ懸念される場合はあります。しかし、きちんと「原則的に再契約」することを説明すれば大丈夫です。
このように定期借家権は、オーナーと入居者双方の利益に寄与するもので、立法した方々が苦労をして作られたせっかくのいいものを、使わない手はないと思うのです。
PM会社の質と実力が問われている気がしてなりません。
「定借」はPM会社の業務と重要性とを世に知らしめる絶好の機会ではないでしょうか?
(筆:藤澤雅義/全国賃貸住宅新聞2009.10.26掲載)