5分野28項目比較し適正額導く
賃料査定は、いうまでもなく物件の収益力を左右してしまう大変重要な項目といえます。
そして、「物件の評価」を具体的に賃料という数値で表すものです。また、賃料査定を間違えると計画当初の事業計画や利回りが間違っていたことになり、大変なことになります。
賃料査定は、たとえばWebで検索し、このエリアでこの広さならこの位の家賃かなあ、と素人でも比較的容易に把握することができるでしょう。
しかし、この作業は実際には奥が深く、物件のアイテム(評価基準)一つひとつについて意味があります。
また、 賃料査定は、入居者ニーズを知ることにほかならず、入居者ニーズを知ることとは「企画力」にそのまま直結しているといえます。
たとえば、DKが6畳しかない2DKと、DK部分が10畳ある2LDKのふたつの部屋があるとします。
入居者にとってはDKが6畳であることと、10畳であることでは全く意味が違います。DKが6畳では単なる配膳テーブルコーナーにすぎず、そこでゆっくり食事をすることはできないでしょう。
ベッドルームのひとつがダイニングコーナーになってしまうのではないでしょうか? それが10畳にあればなんとかダイニングルームになりますし、リビングとしても使えることができます。
その4畳の差にものすごい価値があるわけです。しかし、その価値に対して家賃がいくら違うかという質問をしたとき、通常最低7,000~10,000円近くは差が開くものを「2,000円ぐらいかな」と答えてしまう人がいます。
これは、現場感覚が欠如していることになります。現場の入居者のニーズを知ることによって、賃料査定が正確にでき、それは企画力の裏返しなのです。
弊社は所謂サブリース(一括借り上げによる空室保証システム)をしていますが、これは営業担当が、物件ごとに賃料査定をして、それのたとえば90%とかで借り上げるという「賃料査定表(保証賃料査定)」をオーナーに提出するわけです。
この担当が賃料査定を「間違う」ということが正直にいってよくあるのです。8万円のものを9万円と査定してしまっては、会社の業績は悪化します。
「査定は命」です。そのため、私の会社では賃料査定をする時には「コンペア式賃料査定表」というものを必ず用いて、社内で賃料査定の際の基準をつくって個人によるブレをなくし、さらに上司の決済によって査定額を確定しています。
「コンペア式査定法」
「コンペア式賃料査定表」では、類似物件との比較によって、対象物件の賃料を理論的に推測していきます。
一見すると難しいように思えますが、これは賃料査定をする際に、普通に皆が頭の中でやっていることを書面化して数値化しただけであって、そんなに難しいことではありません。
私自身でいえば、独立前から、管理会社に勤務するようになって二十数年、ずっとサブリースの保証賃料の査定をしてきました。そこで、スタッフがいかに査定ミスを減らし、かつ的確にすばやく賃料査定ができるかに苦心してきました。
100項目にわたってチェックをしていく詳細な査定法も考案したこともあるのですが、それでは面倒で実務で誰も使いません。いろいろ試行錯誤をしてきましたが、現在のこの形、「コンペア式賃料査定法」が今のところ、一番効果的であると自負しています。
ちなみに、IREM(全米不動産管理協会)発行のCPM®(米国不動産経営管理士)という世界最高峰のプロパティマネージャーのために資格があり、私はそれを日本に導入し、かつ普及に努めているものの一人ですが、その公式研修テキストの中に、賃料査定の仕方について書かれている部分があります。
弊社の「コンペア式賃料査定表」と基本的な構造が同じなのにはびっくりしました。日米やることは一緒ですね。
賃料査定で一番肝心なのは、こういう間取りの差は、賃料差としてこれくらいあるんだ、この外観デザインの違いはいくらに相当する、この設備には入居者はいくら払うのか――、そういった現場の相場感に尽きます。
弊社には「格言その1」というのがありまして、それは「1に現場、2に現場、3、4も現場、5も現場!」というものです。言い換えれば、「1に現調(現場調査)、2に現調、3、4も現調、5も現調」でもあります。
とにかく現場に行って、物件を数多く見て、入居者はこれをどう評価するのか、どう感じるのか、いくら払うのか、といった感覚を身に着けることが大事です。
その現場感覚、相場感を養ったうえで、「コンペア式賃料査定表」を使った査定を行ないます。
コンペア(Compare=「比べる、対比する」)式とは、文字通り、査定物件と同じエリア内にある、間取りがなるべく近く、適正賃料(空室募集をした際に、概ね2か月以内に成約が見込める賃料のこと)で決まっている同じような物件(たとえば、できたら、マンションならマンション、アパートならアパート同士で比較するのがベストです)を「類似物件」として選択し、「類似物件と比べたら、査定物件はこういうところが良い、悪い」などと、あらゆる角度(アイテム)から比較検討し、査定額を算出するシステムです。
査定にあたっては、類似物件と対比して、各アイテム毎に、査定物件が優れている場合にはプラス評価の賃料(千円単位)を、逆に劣っている場合にはマイナス評価の賃料(千円単位)を記入します。たとえば、類似物件は「収納」が全部で幅1.5間(1間は約1.8m)分しかないが、本査定物件は幅3間分あり収納力が高い、それはプラス4,000円の価値だ。類似物件はお風呂のサイズが「1317」で大きいが、本査定物件は「1216」でちょっと小さい、この差は意外にありそうだからマイナス2,000円の評価だ――、というふうに。
そうやってプラスマイナスをしていって得られた賃料の合計を、類似物件の成約賃料に足すのです。それが、本査定物件の賃料です。
気をつけることは、各アイテム毎に査定をしていく際に、プラス(マイナス)評価が続いた場合に、その賃料合計が常識以上に上昇(下落)してしまったからといっても、各アイテム評価の段階で評価の調整をしてはいけません。そのような場合には、「合計調整値」の項目で一括して調整を行ないます。
(筆:藤澤雅義/全国賃貸住宅新聞2010.6.28掲載)