ファミリータイプは主婦の家事導線に配慮した設計が鍵
空室率がますます上がってしまって、そもそも賃貸経営なんてもう成り立たないんじゃないか、と思っていらっしゃる方も全国では多いと思います。
確かに入居者のパイは減ってはいます。10年前100人いた入居者がいまは70人かもしれませんが、その70人に支持されるものをつくればいいのです。まだまだ賃貸住宅は進化の余地がありますよ。
主婦の意見を物件企画に反映
「主婦の意見を聞く」という発想があります。(株)JAハートホームサポート(JAあいち経済連)が、管理物件に住む方を中心に実際に主婦7人を集めてどういう賃貸住宅を造ったらいいのかの研究をされていたものからきています。
私も今まで「入居者ニーズを捉えて企画しよう」などと言っていましたが、何回も定例会を開いて直接入居者から話を聞くなどということはやったことがありませんでした。素晴らしい実行力だと思います。
見させていただいて、賃貸住宅はまだまだ入居者のニーズに応えているものではないな、と感じました。入居者がもっとこうしてほしいという要望があるということは、まだまだやりようはあるということです。
上図は、私なりにファミリータイプを企画する際に、主婦の意見を取り入れて賃貸住宅を企画してみたらどうなるかと思って作ってみたプランです。主婦は家事導線にかなり関心が高いのです。
まず、主婦は毎日「キッチン」に立って食事を作り、洗い物をします。そして、「洗濯機」を回して洗濯し、洗濯物を「干し」て、「取り込んで」、「たたんで」、家族の元へ「届ける」という作業をしています。
毎日です。たまにではなく、「毎日」するのですから、この作業工程がいかにスムーズにできるかということは、とても重要なことだというのがわかります。
まず、図のLDKにあるキッチンは回遊できる「アイランドキッチン」です。人気のアイランドキッチンはLDK内での動きも速やかです。
図①の立ち位置はキッチンのシンクやコンロの前の定位置ですが、キッチンのすぐ後ろには食器棚や冷蔵庫が配置されています。(1)から②の洗濯機の前のスペースには引き戸を開けばすぐ移動することができ、洗濯が終わったら洗濯物はすぐ後ろのスペースでハンガーにまとめます。
③のスペースにはハンガーパイプがあって、仮のクローゼットのような状態になっていて、洗濯挟みハンガー等に洗濯物を取り付けたり、かけたりする作業ができます。そしてハンガーにかけた洗濯ものを④のバルコニーに移動して干します。
このバルコニーですが、スクエアな形になっているので、普通の奥行き1メートルくらいしかなく、エアコン室外機くらいしか置けない、あまり使い道のないバルコニーとは違います。
6畳弱くらいのスペースがあるので、ガーデンテーブルやチェアを置いて半屋外の食事を楽しむこともできるものです。
子供用プールを置いて水浴びもできます。隣のLDKとの間もガラス戸になっているので、リビングルームからの一体感もあり、南側にワイドスパンの20畳近いリビングダイニングがあるようにも感じられます。
そして、このバルコニーはサッシがついていて「サンルーム」にもなっています。つまり、雨や風の強い日や夜にも洗濯物が干せるのです。昼間仕事などで忙しくて夜に洗濯物を干す場合だってあるでしょう。
洗濯物が乾いたら、取り込んで(3)の平台でたたんで、その下にある引き出しに下着等は収納することができます。家族は、お風呂からあがったら、その場で引き出しから下着をだして着ればいいのです。
このような間取りがあってもいいでしょう。住宅の設計は大体男性がやっていることが多いので、こういう女性目線の設計は少ないと思うのです。
物件の差別化に「DEN」を導入
DENという言葉は、もともとは「こじんまりとした巣」というような意味で、それが転じて「書斎」、「私室」という言葉として使われています。
人間の習性として、ちょっと狭い空間のほうが居心地が良かったり集中できたりするものですが、実際3畳とか4畳程度のDENがあると、なぜかワクワクします。
個人的なことをいうと、子供の頃、「基地遊び」というのをよくやったものですが、DENを見ると、そのときのワクワク感と同じような感覚がよみがえります。ベッドルームとは違う何か「自分の城」的な感触もあるのでしょうか。今はパソコンを大抵は持っていますし、家で仕事をする場合や、ちょっとした書き物をする場合にも「書斎」があるととても嬉しいものです。
また、図表は「6畳+DEN3.42畳+LDK13.62畳=23.04畳」の1LDK+DENの間取りですが、「6畳+6畳+11.04畳=23.04畳」の普通の2LDKを造るよりニーズはあると思うのです。入居者は大体新婚カップルか、子供はいても幼児でしょうから、2つ目の部屋が6畳ある必要はないのです。また、DENはクローゼットにしてもいいのです。
赤いクロスで雰囲気を一新
写真は、最近当社でプロデュースをした新築物件の内装写真です。
1Kタイプですが、右側の壁1面を「赤いクロス」にしています。
最近はアクセントクロスといって、部分的に壁クロスに特徴をつけるのが流行っていますが、私に言わせるとまだまだ地味ですね。もっとビビッドな色を使ってみてはいかがでしょう?
「赤いクロス」というと尻込みをする方が多いですが、まったく問題ないですよ。ほとんどコストが変わらないのに、部屋の雰囲気が一変します。やらない手はないですね。
(筆:藤澤雅義/全国賃貸住宅新聞2011.08.22掲載)