会社経営で一番大事なのは「採用」ではないか!
求職者は「騙すもの」として冷静な観察が必要
今回は、「管理会社は人が命」シリーズの6回目。1年半ほど前にも取り上げたが、「採用」について再度詳しく述べたいと思う。それは、私自身19年間のささやかな管理会社経営の経験の中で、つくづく人材の「採用」が重要だと思っているからだ。「良いスタッフ」が一人入るだけで、会社は生まれ変わるし、その逆に「ペケ社員」が一人いるだけで、様々な悪影響を及ぼすものだ。良いスタッフは仕事ができ、前向きで楽観的で、明るく振る舞い、会社の利益と部下を大事にし、またまわりとの対話を大事にして、自分なりの努力を続けていくことができる人だ。
「ペケ社員」は、その逆といえば簡単だが、仕事の進捗が遅くてミスが多くまわりに損害を与える、与えられた仕事をただこなすだけで良いと考えていて、向上心がなく、何度も上司に叱られてもその行動が治らず、かつ一人よがりな考え方を持っていて、つまり自分の仕事がうまくいかないのは、自分のせいではなく、上司や会社のせいであると思っている。そして、往々にして「コミュニケーション能力」が低い。また、「場が読めない」という症状がある。
最近は、「メンタル系」の人も多い。病気なら仕方がないが、私が社会に出た30年前はそんなにいたかなあ、と思う。病院に行けば、すぐに診断書は出るとのこと。病院に行くような自覚症状がある人はまだ良い。これは、業界紙というやや狭いメディアでの原稿なので、敢えて書くが、精神的な病というようなところまでは感じないが、「ちょっと変わっているな」「組織には向かないな」という人は世の中に結構存在していると読者もうすうす感じてはいないか。学歴等も悪くなく、それなりの知識と能力とキャリアを持っていたりするのだが、何か行動や発想が通常の人とは違う、違和感のある人材と出会ったことはないか。こういう人は特に苦労する。それなりに能力があったりするのだが・・・・・・。
他責性が強い人も要注意だ。成績が上がらないのは、自分のせいではない、自分は他のメンバーと同じことをやっている。成績が悪いのは、良い得意先を自分に与えない会社が悪いのだ、と言って辞めていったスタッフが昔うちにもいた。何度か、話し合っても接点は見つからなかった。彼に関する評価を上司、同僚、部下がする「360度評価」を見せても内容を否定した。皆が書いた彼に関する「改善点」は的を得たものであったが。正直にいって、自分から辞めてくれて内心ほっとしたのだが、辞めてしばらくしてからWebにうちの悪口を書いた。パワハラに遭ったと。
このあとで思い知らされたのは、経営幹部からみたら、完全な「ペケ社員」なのだが、同期の若い社員間では、それなりに「仲間」だったのだ。彼だって100%ダメな人ではない。良いところもある。同じ釜の飯を食べ、コミュニケーションを取ったメンバーなのだ。よって、いったん入れてしまったら様々なところに影響があるということだ。おそらく仕事に関してネガティブな発言を仲間内ではしていたことだろう。普段はそんな意見に同調しないメンバーでも、彼から批判的な意見を聞かされていたら、多少なりとも影響を受けるかもしれない。よって、良いスタッフを雇うという意識も当然大事だが、それと同じくらい「ペケ社員」を雇わないようにするという発想もとても大事なことだ。リクルートを創業した江副浩正氏は、まだ会社が小さいうちから、採用にお金をかなりかけたと聞いている。
私も正直にいって何度も失敗している。現場の「早く人を取ってくださいよー」のプレッシャーに負けて、ちょっと引っかかるなあと思いながら入れては、やはりダメだった、というようなことが。採用面接では、求職者もそれは頑張るものだ。精一杯の笑顔で明るく振る舞われたりする。すっかり騙された経験は一度ではない。面接で何か「ひっかかったら」採用は見送ったほうがいい。先日も、弊社にとってうってつけの、ヘッドハンティングしたったそうそうこういう人材にはお目にかかれない、という人を悩んで悩んで最後に、不採用とした。それはあるポイントにおいて、「ひっかかった」からだ。詳しくは実例なのでいえないが、なぜ、このポイントがこうなんだろう、と不思議な点があったのだ。それが私にとって理解しにくいものだったので、採用を見送った。
たぶん正解だったと思う。経営者は、とにかく「良い人が現れるまで、簡単に採用をしない」と心に決めたほうがよい。1回の募集でこなければ、再度広告費を出すべきだ。ケチってはいけない。2度目もこなければ、3度出すことだ。それでも中途半端な社員、またペケ社員を入れるよりずっとコストパフォーマンスが高い。
「直感」と通常言われるものを信じて良いと思う。求職者と初めて会った時の最初の5秒間の印象を信じて良いと私は思っている。きちんと明快な言葉で挨拶ができたか、明るく笑顔か、その身のこなし方や姿勢、そして文字通り「見た目」で選んで良いとおもう。そこには、それまでのその人の人生が、人そのものが凝縮されているのだ。実は、立ちふるまいや特に顔の表情には大量の情報が含まれている。たとえば、我々は、作り笑いの表情と本気で笑っている表情を簡単に見破ることができるが、それが、本物の笑顔の場合には、眼窩筋(がんかきん:眉と目の下の筋肉を引き上げて頬を上げる筋肉)が動き、作り笑いの場合には動かないなどと、科学的に理解しているわけではない。しかし、経験上それを知っているのだ。うまく口で言えないので、「直感」などと表現しているが、それは確かな情報を自然に受け取って、それを経験に裏付けられたもので正しい判断をしているのだ。
採用面接で最初の印象は悪かったのだが、話しているうちにだんだんとイメージがよくなってきて遂に採用してしまうことがあるが、大抵が失敗に終わる。それは、求職者がこちらの望む人物イメージを面談中に嗅ぎとってしまって、それに自分を合わせて演技しているのだ。面接官自らがそう仕向けてしまったということもある。私もそうなのだが、「君は本当は優秀なのだよね」と期待を込めて相手を見てしまうことがある。求職者は「騙すものだ」と冷静に観察をしたほうがいい。
弊社では弊社なりの採用試験をしている。漢字の読み取り50問と、簡単な算数の試験、またクライアントへの謝罪文を書かせる問題も課している。この一次試験が通ったら、2次はSPI試験(性格と能力を測定する適正検査)の後、私自らが面接する。時には2時間ほど話す。これは是非来てもらいたい人材の場合。IREMのジーン・パウエル先生(CPM)に教わった方法で、机を挟んで真向かいには座らないようにしている。相手がリラックスできないからだ。また、「10の質問」も有効だ。求職者に私に対して自由に10の質問をしてもらう。これで何を求めているか、よく分かる。
また、中途採用の場合には、転職理由をよく聞くことだ。会社のせいばかりにして辞めているようでは、いずれ、うちの会社にも文句を言って辞めていく人である可能性が高い。会社を辞めた理由の中で、上司と合わなかったという答えをよく聞く。そして、上司が酷かったのだ、と説明を受けるが、本当にそうなのだろうか。他人のせいにしてはいないだろうか。そして、全般に「なぜ?なぜ?」と繰り返し問い詰めるように聞くと良い。これはとても有効だ。繰り返すうちに、ボロが出る場合がある。話しの辻褄が合わなくなってくるのだ。つまり、適当に話しを作っているということだ。履歴書もすべて正しいことが書いてあるとは限らない。
少しでもひっかかるところがあったら、その点を根掘り葉掘り質問すべきだ。結構、ウソが書いてある。くれぐれも「ジョーカー」を引かないように。
(筆:藤澤雅義/全国賃貸住宅新聞2015.6.8 掲載)