地域連携による「稼げる街づくり」が重要
行政とも協力しエリアの特色を育成
30年ローンでアパートを建てていいのか?
人口減というまったく洒落にならない現実がある。日本の人口は20年後に12%減り、30年後には約2割、40年後には3割減るらしい。日本の人口はざっくりいうと、ここ100年強で3倍になった(その前の江戸時代はずっと3000万人くらい)。そして、今から100年間、逆に同じ速度で減っていって3分の一になるというのだ(図1参照・内閣府発表)。また、賃貸住宅経営において現在の我々がターゲットにしている若い世代の割合も減ってゆく(図2参照・内閣府発表)。自分のまわりを見渡しても、結婚しない人、また結婚を焦っていない人が自分の20代の頃より格段に増えている。政府も少子化対策に努力するとは思うが、急に女性が子供をバンバン産み始めるようになるとは思えないし、また移民政策も現実的にはなかなか難しそうだ。よって、日本の人口減は現実のものとなる可能性が高い。
20年後に人口が12%減るということは、仮に、このままのペースでもしアパートを作っていったら、単純にいうと12%空室率が上がるということだ。破綻する大家さんが続出することになる。人口減を迎えて、同じペースでまさかアパートは作ってはいかないとは思うが、逆に古いアパートをリノベーションする動きは今後加速するから、供給量は案外減らないかもしれない。はたして、今から30年ローンで新築アパートを建てていいのか、という根源的な問題に我々は直面している。今より、厳しい安全率(収入と返済とのバランス)でみないと投資が失敗する可能性が高い。そして、今後は「投資しても大丈夫なエリア(街)」と「投資すると失敗してしまうエリア」に明確に分かれるようになると思う。全国どこでも平均的に人口が減るわけではない。人気のエリアと不人気のエリアに分かれるのだ。また、それは、東京なら大丈夫、地方ならダメというような単純なものではない。
良いアパートだけでなく良い街を作る
いままで我々は、入居者に支持される良いアパート・マンションをどう作ろうかと苦心してきた。また、稼働率の悪い物件の稼働率をどう上げるか、その空室対策に取り組んできた。しかし、そのエリアそのものの人気が下がってしまっているのであれば、どうしようもないではないか。そのエリアの人口が減っていくようでは、アパート経営はとうてい成立し得ない。今後、我々はあるひとつの物件だけの空室対策を考えるのではなく、そのエリア全体のことを考えなければいけない時代になったのではないか。その街の全体の価値を上げていって、子供を産む若い世代が集まってくるようにしなくてはいけない。
米国では、街づくりはアセットマネジメントである、と言われているとのこと。街づくりは不動産オーナーが稼ぐ、稼がせることをベースに展開するという概念がある。街が活性化すれば、自然と不動産オーナーの賃貸料が上がり、不動産そのものの価値が上がっていくことになるのだ。そのエリアの不動産オーナーの収益性を高めるために、街づくりを行うのだ。我々、賃貸管理業者は、不動産オーナーの所有物件の経営に携わってきたが、今後はそのエリアつまり街全体のことに心を砕くときが来たのではないか。
それは「タウン・マネジメント(TM)」だ。「プロパティ・マネジメントからタウン・マネジメントに進化」する時がきたのだ。具体的には、エリア内で景観を守るために建築協定を締結する、建物の高さをあわせ道路境界上の塀を規制する。ケバケバしい看板を排しその形状と色を規制する、日本にはやたらに看板が多すぎると思う。見苦しい電柱の地中埋設を推進する、放置されたボロ空き家を無くす。景観は重要だ。住宅街に突然、貨物列車のコンテナが銀色の光を放って現れることがある。貸し収納ということで、確かに需要もあるようだが、街並みを壊してはいないか。原色塗装の自動販売機がそこかしこにあるのも景観を損なっていると思う。
また、若者が集まる人気のショップやレストランを誘致する。「売り」になるものを明確にして、マーケティング活動を行う。売りは、「名産品」であることもあるし、「文化」や「アート」であることもある。既存の図書館や公共施設をリノベーションする。住民のコミュニティの場を多くつくる。「名産品」をひとつでも多く供給することによって外貨を獲得することができる。できれば、ナショナルチェーンの店に安易に頼らないで、その地域ならではのオリジナル色あるお店を作れれば最高だ。ナショナルチェーンも新たな雇用が生まれるという点では素晴らしいのだが、収益はすべて本部に持っていかれる。そのエリアで生産された商品であったり、そのエリアの人が行うサービスが売り物であったのなら、収益はそのエリアに落とされることになるので、より多くの雇用が生まれる。
稼ぐ街をつくる
タウン・マネジメントとは言葉を変えれば、「稼ぐ街を作る」ということにほかならない。稼ぐことができなければ雇用が生まれない。雇用がなければ、人は移住してはこない。戻ってはこない。そこで生まれ育った人は、進学や就職でいったんは都会に出たとしても故郷を愛してはいるし、親のこともあるので、できればUターンしたいと思っている人は少なからずいる。しかし、故郷には雇用がないのだ。また、文化やセンスの部分でいまひとつなのである。そりゃあ、都会のほうが刺激がたくさんあって楽しい。また、たとえそのエリアに縁がない人であっても魅力的であればIターン者もやってくる。「よそ者」は地元の人が気付かない何かを見つけてくれる。また、しかし昨今のITの進化によって、どこでも仕事ができるようになってきた。ということは、本社からの、また顧客からの距離や場所の問題ではなく、住んでいるところが純粋に魅力があるかどうかにかかっている。
観光とのコラボ
観光とのコラボが大事ではないか。今後、「観光」というのは世界的にみて、繁栄、発展が約束されている市場だ。うちの街には目玉になるような観光施設はないというかもしれないが、何か日本人や外国人に「体験」をさせるようなソフトコンテンツがあればいいのではないか。デービット・アトキンソン氏によれば、日本には8200万人の訪日外国人を呼び寄せる力があるという。昨年(2015年)は大きく伸びたのだが、それでも2000万人だ。外貨を稼ぐ街にしたい。
いまや大家さんたちは、自分の物件のことだけを考えている場合ではない。大家さんたちが連携して、地域の他業種の経営者、行政等と、また賃貸管理会社とよく協議して、魅力ある街づくりを目指すべき時がきた。
(筆:藤澤雅義/全国賃貸住宅新聞2016.3.14 掲載)