毎日の業務設計と検証徹底し生産性向上
「残業が当たり前」の文化変え労働環境整備
仕事の質向上が重要
前回は、人手不足時代の合理化の手段について書いたが、今回はその延長線上の話でもあるが、「働き方改革」について述べたいと思う。2015年6月、安倍内閣は「日本再興戦略2015」を発表し、「長時間労働是正」が日本経済発展のための重要な施策であると定めた。
『 まず何よりも重要なことは、長時間労働の是正と働き方改革を進めていくことが、一人一人が潜在力を最大限に発揮していくことにつながっていく、との考え方である。 長時間労働の是正と働き方改革は、労働の「質」を高めることによる 稼ぐ力の向上に加え、育児や介護等と仕事の両立促進により、これまで労働市場に参加できなかった女性の更なる社会進出の後押しにもつながり、質と量の両面から経済成長に大きな効果をもたらす。加えて、少子化対策についてもその根幹とも言える効果が期待されるとともに、地方活性化等の鍵ともなるものであり、幅広い観点から日本全体の稼ぐ力の向上につながっていくのである。そうした意識を我が国全体で共有し、醸成していくことが重要である 』としたのである。
この画期的な宣言から4年が経ち、多くの企業で残業を減らし、夜7時とか8時以降は完全に働いてはいけないとするルールを作り、有給取得を奨励したりしている。弊社もこのあたりから経営トップである私も頭を切り替え、残業せず早く帰るように促し、現在は平均残業時間は1時間、また社員の平均有給取得日数は9日(公休は以前から120日間/完全週休2日)、となった。これで売上が落ちたわけではない。なんだ出来るじゃない、私が休んでいいと言えば休むんだ。今までちょっとまわりに気を使って残業してたんだな、ということがわかった。
夜10時まで残業する文化ができてしまうと、10時までだらだらと働く働き方になってしまっているのだ。23年前に創業した当時は、夜9時過ぎに帰る社員を捕まえて、「今日は早いね」などと言って、私は半分冗談のつもりだったのだが、言われた社員は引きつってしまうようなことを平気で言う嫌な社長だった。当時は、夜遅くまで働くのが「善」だったのだ。
マニュアル整備を推進
今、働き方改革に取り組んでいないとすると、採用にマイナスの影響が間違いなくあるだろう。ブラック企業という言葉がすっかりメジャーになってしまったが、我々のいる不動産業はどちらかというとそのイメージだ。ただでさえ採用難の時代なのに、業界的なハンデまで我々は負っているのだ。短時間で設ける仕組みを作らなければいけない。長時間労働是正とは、労働生産性の向上に他ならない。短い時間で多くの売上(利益)を上げるのだ。
具体的に何をやればいいか、例えば(図表①)①部署ごとの朝礼と夕礼の実施だ。
各部員が今日何を行うのか、どれくらい時間を使う予定なのかを発表し、夕礼でそれを検証する。それを毎日行っていくといろいろな問題点が浮き彫りになるはずだ。朝、業務を開始するときに、今日一日の「業務設計」をせずに思いつきで仕事を始めてはいけないのだ。また、周りに流されて仕事をしてはいけない。お客さんが言うから、クライアントから電話がかかってきたからといってむやみに動いてはいけない。それは本当に優先順位の高いことなのかを主体的に考えるべきだ。
②「集中タイム」を設ける。この時間は話しかけない、電話も取り次がないルールをたとえば1日1時間設ける。もしくは、作業を会議室に籠もって誰も近づけない時間を設ける。電話や上司や同僚に話しかけられて業務が中断するのは非常に効率が悪いものだ。
③「自分しか出来ない仕事をつくらない」。マニュアルを整備し、かつ部下に仕事を任せるようにするのだ。自分でなければ、この仕事はできないというのは大抵の場合、本人のオゴリだ。少々失敗してもいいから任せるのだ。そうして長期有給休暇を取って海外旅行に出かけてしまうのだ。なんとか回るものだ。
④「自己管理の楽しさを実感する」。上から言われてやるのではなく、自分が決めて仕事をし、休むのだ。自分で時間をコントロールするのは快感である。仕事は結果(成果)である。何時間働いたから給料が貰えるというわけではない。工場労働者であるなら別だが、我々はもっと企画型であり付加価値提供型の仕事をしているのではないか。
⑤「会議のあり方を改革」。無駄な会議をなくし、会議の中で決まった「HW(宿題)」と「決定事項」を明確にして、会議終了時と次回の会議の冒頭で復習することだ。ばかばかしい話だが、会議で決まったことを皆が忘れてしまって、その会議の時間がまったく意味のないものになってしまった、というのは意外にどこでもあることなのだ。議事録を取ることは当然だ。
⑥「ファイル整理、ラック整理」。リアルなファイル。またデータのファイルの整理の仕方、リアルなラックの整理も重要だ。資料がどこにいってしまったかわからずに困ってしまうことはよくあることだ。
男性の家事参画を促進
「日本再興戦略2015」にもあるように、「長時間労働の是正は、女性活躍を推進し少子化対策にもなる」のだ。日本はこのままいくと100年後に人口は3分の1になると言われている。15〜64歳の生産年齢人口が40年後の2060年にはピーク時(1995年)の半分の4400万人になるとも。しかし、女性の活躍が少子化を防ぐのだ。図表②の「OECD諸国における合計特殊出生率と女性労働力率との関係」をみてもらうと、女性が社会進出しているほうが子供が生まれている。なぜ、労働時間是正が出生率を上げるのか。
図表③をみてほしい。「男性の労働時間や家事参画度と出生率との関係」だ。夫が育児・家事を負担するほど、第二子を出産するという傾向にある。言われてみれば当然だと思う。
と、このような原稿を書いている私自身はかなりハードワークな毎日を送っており、反省している。私の悪いところは、経営者なのだから「経営」、つまりマネジメントに多くの時間を使うべきなのに、「職人」的なプレーヤー業務も好きなので、ついつい自分でやってしまうことである。執筆しながら自分のことも今回いろいろ考えてしまった。もっと、読書の時間や人と会う時間、つまりインプットの時間もつくらなくてはいけないと思う。
(筆:藤澤雅義/全国賃貸住宅新聞2019.3.11掲載)