日本を襲うコロナ不況、賃料交渉をお願いされたら?
新型コロナウイルス感染拡大の影響で世界規模の大不況が吹き荒れています。日本経済への打撃も凄まじく、内閣府が発表した2020年4~6月期のGDP(国内総生産)の成長率は、年率換算で-28.1%を記録。リーマン・ショック後の2009年1~3月期(年率-17.8%)を超える戦後最悪の大幅下落となりました。
また、新型コロナの影響で解雇・雇い止めになった人の数も増え続けており、厚生労働省は8月31日時点で、見込みも含めて5万人超に上ったことを明らかにしています。
日本経済が悪化の一途をたどる中、賃貸経営で危惧されるのが賃料の滞納問題です。これまで問題のなかった入居者やテナント事業者でも、コロナ不況による収入減で、賃料の支払いが難しくなる危険性は大いに考えられます。
通常なら手放したくない優良賃借人から、もし賃料減額や支払い猶予をお願いされた場合、管理会社はどのように対応すればいいのでしょうか?
【相談ダイジェスト】
- 新型コロナウイルスの影響による賃借人の収入低下で賃料の支払いが難しくなっている
- 入居者から賃料減額か支払いの猶予を求められたと相談
- 管理会社としてどう対応するべきか?
- テナントを借りている法人に倒産の予兆がある場合、事前にどう備えれば?
専門家の回答
まずは行政支援を案内、交渉開始はその後で
コロナ不況により賃料を支払えない賃借人が増えている昨今、救済策として行政による家賃支援の取り組みが始まっています。
今回の相談のように賃料交渉について賃借人から相談された場合、まずは行政支援を活用しているかどうか確認してみましょう。賃借人が行政支援を知らずに交渉を求めている可能性もないとは言えません。
行政支援を経た上でそれでも支払いが難しいようであれば、具体的に賃料の減額や猶予を検討していきましょう。
では、行政の家賃支援にはどのようなものがあるのでしょうか。
例えば、対象物件が住居用なら、厚生労働省が実施している【住居確保給付金】が適用できるかもしれません。
市区町村ごとに定める額を上限として、実際の家賃額を原則3か月間(最大9か月間)支給するもので、2020年4月に支給要件が大きく緩和され受給しやすくなりました。
また、テナント事業者に対しては、経済産業省が地代や家賃を一部補助する【家賃支援給付金】を実施しています。申請は2021年1月15日まで。給付額は、法人なら最大600万円、個人事業者ですと最大300万円となっています。
そのほか、地方自治体が独自に実施している【事業者向けの家賃支援制度】や、各都道府県の社会福祉協議会が生活困窮世帯に対して無利子で生活費用を貸し付ける【生活福祉資金貸付制度】といった支援策に頼るという手もあります。
賃借人には窓口に問い合わせるなどして、制度利用ができるかどうかをしっかりと確認してもらいましょう。
相談者の経済状況を把握。コロナ便乗テナントには要注意
行政支援を活用しているかどうかとともに確認しておきたいのが、賃借人の実際の経済状況です。
賃借人に確認しておきたい事項
|
賃借人に対してはヒアリングを十分に重ね、収入や経営状況についてしっかり把握することが大切です。
中には賃料の支払いに困っていないにもかかわらずコロナ禍に乗じて家賃を下げようとする「コロナ便乗テナント」がいないとも限りません。
実際に2020年4月には、某コンビニ大手がコロナ騒動を契機として、数千店舗の土地の所有者たちに大規模な賃料減額要請を行なったことが報じられました。
本当に賃料交渉に応じる必要があるのかどうか、しっかりと見極めたいものです。
了承を得られれば、個人の入居者なら給与明細など、法人の場合は月次の事業収入を証明できる書類を見せてもらえると確実でしょう。入念なヒアリングを通して交渉の是非を判断することが大切です。
まずは期間を定めた猶予に応じるよう交渉
ヒアリングの結果、賃借人が求める賃料の減額・猶予について具体的な話を進めることになったとします。
突然のコロナ禍で賃借人の窮状もわかりますが、オーナーとて銀行へのローンの返済に追われるなど、決して余裕のある状況ではないものです。管理会社としてはオーナーの利益を守るためにも、まずは支払いの「猶予」で解決を図れないか、賃借人と粘り強く交渉していくべきでしょう。
オーナーとしても、賃借人には長く入居してもらいたいと考えているものです。
しかし、賃借人からいただく賃料から月々の支払いをしなければならない以上、賃借人に対しても、まず提案できるのは「猶予」からとなるのです。
では、支払いを「猶予」することで合意を得られたとしましょう。
この時、管理会社としてぜひ気を付けていただきたい点は、賃料の猶予期間と支払い方法を賃借人と明確に決めておくことです。
先行き不透明なコロナ禍だからこそ、返済計画をしっかり立てる必要があります。
また、賃料回収に道筋をつけることで、オーナーの納得も得やすくなりますし、計画的な弁済によって賃借人も支払いが滞るリスクを極力抑えることができるはずです。
猶予期間と支払い方法例
|
猶予に応じた上で敷金から充当するのも手
とは言え、賃料交渉は一筋縄ではいかないもの。
交渉を始めたものの、オーナーが減額・猶予をそもそも認めなかったり、賃借人との妥協点が見つからなかったりすることもあるでしょう。
その場合、苦肉の策ではありますが、払えない分の賃料を敷金から充当するといった方法が考えられます。
これまで問題のなかった賃借人であれば、敷金の範囲内で急場をしのぐ妥協案として検討してもいいかもしれません。
もちろん、賃借人から賃料をいただかない期間を定め、その後は元の敷金と同じ額まで敷金を預け直す旨の覚書を交わしておくことが前提となります。
合わせて、どのようなスケジュールで預け直しを行なうかも話し合っておく必要があるでしょう。
ただし、この方法の注意点は、賃借人が保証会社を利用している場合、敷金から充当した賃料は保証会社の代位弁済を受けられないことです。
万が一、賃借人が家賃を払えなくなった場合、保証会社に敷金充当分の代位弁済請求はできませんので、未回収リスクを抱えていることを考慮しておく必要があります。
破産前にどれだけ債権を回収できるかがポイント
最後に、ご相談では「テナントを借りている法人に倒産の予兆が見られた場合、倒産前に準備しておくべきことは何ですか」というご質問をいただきました。
これについて、予兆が見られた以上、倒産する前にどれだけ債権を回収できるかがポイントになります。
倒産後にすべての債権を回収するのは不可能と言っていいでしょう。
倒産した会社の財産は破産管財人が管理するところとなり、破産債権からの配当をただ待つしかなくなるからです。
保証会社を頼ろうにも、倒産した法人の家賃まで保証してくれる契約はほとんど存在しません。
ですから、もし滞納がある場合は、倒産する前に担当者と何度もアポを取り、督促を繰り返すしかありません。
地道な方法になりますが、管理会社の本分はオーナーの利益を守ることです。
たとえ良い結果を得られなくても1円でも滞納分を回収する姿勢を見せることが大切です。
※この事例は2020年4月のものです。ご紹介した考え方は一例であり、トラブル解決のプロセスは案件ごとに異なる旨、ご承知おきください。