賃貸管理の可能性に、挑む。
当コラムでは「賃貸管理ビジネスを成功に導くためのポイント」をオーナーズエージェントのコンサルタントたちが分かりやすく解説します。
今回のテーマは「発生原因から探る二次クレームの防止策」です。
二次クレームで炎上する3つのワケ
皆さんこんにちは、コンサルタントの山城です。
沖縄の賃貸管理会社に10年以上勤めた後、入居者対応や空室対策などの経験を糧に、現在はコンサルタントとして全国の賃貸管理会社に向けて情報発信および管理サポートを行っています。
今回は入居者対応で二次クレームに発展してしまった時、「どうすれば良かったのか」を問題の原因別に探っていきたいと思います。
前回のコラムでは、電話での一次対応で案件を炎上させないためにどう対応したらいいのか、という点に焦点を当てました。しかし残念ながら、たとえ対応を間違えていなくても問題が大きくなってしまうケースは度々起きるものです。
なぜ問題が大きくなってしまうのか?
原因として考えられるのは以下の通りです。
1.解決への道筋を共有できていない 2.入居者からの要望をくみ取れていない 3.特殊な入居者である |
このいずれかに当てはまる場合、問題はこじれ、大きくなってしまいます。
どうしてそうなるのか。それぞれの原因について見ていきましょう。
解決への道筋を共有できていない
何か問題が起きて入居者が管理会社に電話を掛けてきた時、通話の中では入居者からの要望と管理会社からの要望の2つが発生することになります。
入居者からの要望とは、シンプルに問題を解決してほしいというものです。一方、管理会社からの要望は、問題解決に向けて入居者に具体的な行動を取るようお願いしたい、となります。
その場にいない管理会社としては入居者の協力を得なければならない場面が少なくありません。入居者を通じて状況を把握し、問題解決に必要な行動をとるよう入居者を誘導する必要があるのです
ところが、入居者の中には「管理会社に連絡をする」ことがゴールになってしまっている場合が往々にしてあります。
悪い見方をすれば、亭主関白ならぬ入居者関白とでも言いましょうか。連絡すれば管理会社が全部やってくれる、いや、やるのが当たり前、とでも思っているのかもしれません。
あるいは、賃貸で初めてのトラブルに見舞われ、単純に勝手がわかっていないだけの可能性もあります。
いずれにしろ、管理会社は最初の連絡時に、問題が解決に至るまでの道筋を示してあげることが必要になってきます。
管理会社の常識を入居者は知らない
例えば設備に故障があって、2~3日で直るだろうと思っている入居者に「業者を手配する必要があるので急いでも1週間はかかる」事実を伝えていないと、しばらくしてから「遅いよ!」と新たなクレームをぶつけられそうですよね。
ここで注意したいのは、管理会社の常識を入居者は知らないということ。「急いでも1週間」が管理会社にとって当たり前のことでも、入居者には全く未知のことなのです。
問題が解決するまでの過程について入居者がどんなイメージを描いているのかわからない以上、管理会社から入居者に、明確な問題解決フローを示してあげることが大切です。
そのために、入居者と共有しておきたい事項は以下の通りです。
① 次のアクション ② 解決に必要な入居者への確認 ③ これから発生しうる問題の共有 ④ 解決までに至る時間(ボリューム) |
この4つが入居者に伝わっていなければ、入居者のイメージにギャップが生まれ、新たなトラブルへと発展しやすくなります。具体例を通して確認してみましょう。
【クーラーの調子が悪いと入電】
夏場、入居者からエアコンが「冷えなくなってきた」と連絡があったとします。
こうした場合、管理会社が入居者に必要な情報を伝えなかったことで、例えば復旧までの期間が「遅い!」とか、水漏れ等さらなる不具合が生じて「どういうことだ!」とか、二次クレームによる炎上が起きかねません。
そこで押さえておきたいのが以下の共有事項です。
<押さえておきたい共有事項> ② 【入居者への確認】清掃の確認や電源の抜き差しをお願いする理由 ③ 【発生しうる問題】さらなる性能低下や使用不能、水漏れが起きる可能性 ④ 【解決までの期間】季節に応じた修理・交換に要する時間と理由 |
①メーカーや品番を確認する理由
メーカーや品番の確認をお願いする時は、修理に必要な情報だということを事前に入居者に伝えておきましょう。
理由を伝えず指示をすると、入居者は「なんでオレが」と不満を募らせるかもしれません。
②清掃の確認や電源の抜き差しをお願いする理由
清掃や再起動で不具合が直ることを入居者は知らない可能性があります。あらかじめ伝え、電源の抜き差しや清掃の有無を確認しましょう。
また、業者を手配したにもかかわらず、清掃や再起動だけで直った場合、業者の出張費は入居者負担になることも伝えておきたいポイントです。
③さらなる性能低下や使用不能、水漏れが起きる可能性
修繕・交換が必要となった場合、業者が入居者宅を訪問するまでの間にさらなる性能低下や使用不能、水漏れといった不具合が生じる可能性があります。
いざ、そうなった時、事前に伝えられていれば入居者にもわかってもらいやすいでしょう。業者の手配に時間がかかりそうな時ほど入念にお伝えし、何かあれば連絡してもらうように伝えておくことが大切です。
④季節に応じた修理・交換に要する時間と理由
夏場は業者の手配に時間がかかることも入居者に伝えておきたいポイントです。いつまでに直るのか、どうしてそれだけの期間がかかるのか、入居者が最も気にする事項でもありますので、必ず事情をお伝えしたいものです。
【騒音トラブルでクレーム】
入居者から「上の部屋がうるさい」と連絡があった場合はどうでしょう。
通常、管理会社は騒音元の入居者に対する直接の注意、共用部への注意文掲示といった対応を行ないます。
しかし、以下の事項を共有できていなければ、ただでさえ騒音でピリピリしている入居者から「注意文だけで終わらせるつもりか」「騒音が改善されないじゃないか」と指摘され、二次クレームに発展するかもしれません。
<押さえておきたい共有事項> ② 【入居者への確認】管理会社からの注意の方法に要望があるか確認 ③ 【発生しうる問題】騒音元が1つじゃない可能性・改善されない可能性 ④ 【解決までの期間】騒音トラブルが長期化しやすいこと(程度が酷い場合は警察への相談などの提案を行う) |
①状況の確認、騒音の発生時間帯や種類をヒアリング
騒音トラブルは騒音元の特定が急務です。そのことを入居者に伝え、協力してもらえるようお願いしましょう。
承諾してもらえたら、状況の確認、騒音の発生時間帯や種類を丁寧にヒアリングし、トラブル内容をしっかりと把握します。
②管理会社からの注意の方法に要望があるか確認
入居者の中には、クレームを出したことを騒音元に知られたくない場合もあります。
そういう時に管理会社が直接注意してしまっては、クレームを出したことが悟られてしまい、対応を非難されたり入居者間のトラブルに発展したりする危険もあります。注意の方法に要望があるか、事前に意向を尋ねた方が無難でしょう。
③騒音元が1つじゃない可能性・改善されない可能性
今後の可能性として、騒音元が一つとは限らないこと、今回の注意だけでは改善されない可能性があることを伝えておきましょう。
④騒音トラブルが長期化しやすいこと
騒音トラブルは対人トラブルですので一筋縄で解決に至るとは限りません。長期化しやすいことを伝えることで、入居者にもその心積もりでいてもらえれば二次クレームに発展することも少なくなるはずです。
また、騒音の程度が酷い場合は警察に相談するなど具体的な提案をしていきましょう。
このように、一次対応で問題解決までの流れを共有することができれば、二次クレームに発展するリスクを抑えることができます。押さえておきたい共有事項を確実に伝え、入居者と二人三脚で取り組めるような協力関係を築いていきましょう。
入居者からの要望をくみ取れていない
前回のコラムでもお伝えしたとおり、入居者には「要望」があり、困り事を管理会社に解消してほしいという気持ちがあります。その要望を正確にくみ取れていないと、次のアクションを起こした時に問題が生じてしまいます。
こちらもエアコンを例に考えてみましょう。
夏場、入居者から「エアコンが壊れて動かなくなった」と連絡があったとします。
エアコンが壊れているのですから急いで業者を手配したいところですが、ここで見落としてほしくないのは、入居者の要望が、壊れたエアコンの復旧というよりは「過ごしやすい空間」の確保にあるということです。
室内が暑いのを解決してほしくてエアコンを直してほしいと訴えているわけですので、室内の暑さをいかに解消するかについても目を向けた方がいいでしょう。
例えば「扇風機を貸し出す」「アイス枕を提供する」といったその場しのぎの対応でも一時的な効果が期待できますし、業者をただ待つよりは入居者の心証もいくぶんマシになるはずです。
どんな方法であれ、暑さが和らげばエアコン需要も下がり、復旧も気長に待ってくれそうですよね。
このように入居者の隠れた要望を的確にくみ取り、それに応えられるような有効な一手を打っていきたいものです。
特殊な入居者である
人間はみな十人十色。
適切な一次対応をしたにもかかわらず、問題がこじれてしまう背景には、一部ですが「特殊な入居者」の存在があります。
いわゆる「クレーマー」と呼ばれる人たちで、最近は増加傾向にあるようです。様々な原因が考えられますが、代表的なものとしては以下の2つが挙げられます。
- 昔と比べてサービス水準が上がり、より良いサービスを求めるようになった
- SNSの発展により自己顕示欲・承認欲求の満たしたい人が増えた
そのほか、最近になって存在感を増しているのが、団塊の世代をはじめとした定年退職者や、不況による無職者といった比較的時間に余裕のある人たちです。
日中の在宅時間が長くなるため、住環境の細かな粗が目につき、あるいは八つ当たりのように管理会社へと電話を掛けてくることがあります。
こうした特殊な入居者の場合、一般的な対応では解決には至りません。
次回のコラムで、特殊な入居者を相手にしたクレームの対応方法についてお伝えします。
ひとつ間違えると、たちまち燃え盛る恐れのあるクレームの火種。
今回のコラムでご理解いただきたいのは、問題が大きくなってしまう原因は管理会社と入居者の認識のズレにあるということです。
入居者と解決の道筋を共有できていなかったり、要望をくみ取れていないと、対応に齟齬が生まれ、二次クレームの煙がもくもくと立ち昇ることになりかねません。
逆に、入居者の目線に立った対応ができれば、問題解決に向けて協力してもらうことも期待できます。問題解決は入居者との二人三脚です。入居者を置いてきぼりせず、二次クレームによる炎上を起こさないスマートな対応を心がけましょう。
次回は「こじれてしまったクレームの対応方法とリスクマネジメントの考え方」をお伝えします。